11 王都にて、ジャネットと
ジャネットとの約束の日。先日めでたくBクラスへと昇級した俺は、Aクラスの試験の口を利いてもらうということで王都の酒場で彼女と待ち合わせをしていた。
軽く一杯やりながら待っていると、扉を開いて入ってくるラフな格好の女が目に入る。
「やあ、待たせたね」
「そうでもないさ」
一杯勧めると、悪いねと言いながら杯を受け取る。
「試験は来週だからね。あたしも王都は久々だから、今日はゆっくりつき合ってよ」
「ああ、いいだろう」
うなずく俺に、ジャネットが聞いてくる。
「リョータ、あんたは王都で活動するつもりかい?」
「ああ、そのつもりだ。仕事も多そうだしな」
「そうかい、そいつは残念だね。せっかくおもしろい奴が増えたと思ったのに」
ジャネットが残念そうにため息を漏らす。意外と本気で残念がっているのかもしれない。
「ジャネットはどうしてあの町で冒険者を?」
「あの町には世話になってるからね。あたしが守ってやらなきゃと思ってるのさ」
「守る?」
「あんたも見たろ? あの魔族の連中。あんな奴らがうろついてるとさ、放っておくわけにもいかないんだよ」
「なるほど」
確かに、あんなのがいるとなると腕の立つ冒険者がいないと不安だな。
「魔族というのは、このあたりでは多いのか?」
「まあね。この大陸も、魔族に半分以上支配されているしさ。人間が魔族に追いやられてから結構時間も経ってるからね」
この世界では、人間は魔族に対して劣勢を強いられているのだな。よくあるラノベよろしく勇者を待望していたりするのだろうか。
「Aクラスなら、そういう敵の討伐もあったりするのか?」
「そういうこともあるね。まあ、あたしはもっぱらあの町でぼちぼちとクエストをこなしてるけどさ。リョータは魔族討伐、興味あるかい?」
「そうだな、クエストの内容次第だ」
ほろ酔い気分で俺が言う。俺としてはおもしろければ何でもいいんだが。
いっそ勇者として魔王を討伐した後に転移魔法で行方をくらます、というのもアリかもしれんな。それなら後々面倒な義務やら責任やらをしょいこまずにすむ。
「さて、そろそろ行くとするかい」
「ああ」
酒を飲み干すと、ジャネットがカウンターから立ち上がる。俺も勘定をすませると、酒場を出てギルドへと向かった。
王都の中心部にある冒険者ギルドは、想像以上に大きかった。ちょっとした城のような門構えだ。
驚いたかい、と聞いてくるジャネットに、まあな、と返すと、俺たちは開け放たれた門をくぐり、窓口へと向かう。
受付に行くならば俺の相手にふさわしい美しい女のところで、と思っていた俺の目に、髪を長くたらした美女が飛びこんでくる。決めた、あの窓口にしよう。
「ちょっといいか」
「はい、いらっしゃいませ」
笑顔で応対する受付の女。うむ、俺の好みだ。胸も大きい。
ここでの活動が初めてならまずは登録をと言われたので、ジャネットの町でもらった冒険者登録証を提示して簡単な書類に必要事項を記入する。
書き終えた書類を手渡すと、女は笑顔で受け取った。
「はい、ありがとうございます。リョータさんですね。凄いですね、その若さでBクラスですか」
少し驚いた目で俺の顔を見上げてくる。
「お前、名前は?」
「はい、私はレーナ、21歳ですからリョータさんより4つ年上ですね」
「そうか、よろしく頼む」
「はい、こちらこそ」
レーナが笑顔でうなずく。登録を済ませた俺は、彼女に用件を切り出した。
「さっそくだが、来週のAクラスの試験を受けたい。手続きを頼む」
「はい、Aクラスの試験ですね。クエストの実績か、Aクラス以上の冒険者の推薦が必要なんですが、その辺はどうですか?」
「それならあたしが推薦するよ。ほら」
そう言って、ジャネットが自分の冒険者登録証をレーナに投げてよこす。
「はい、ジャネットさんですね。確かに拝見しました。それではこの書類に記入して、ジャネットさんもここにサインを記入してください」
「あいよ」
言われて、俺とジャネットが必要事項を書きこんでいく。書類を手渡すと、レーナが紙を一枚手渡してきた。
「はい、Aクラスの試験申しこみ、確かに受けつけました。それではそちらにくわしい日時と試験内容が書かれてますので、確認しておいてください。試験、がんばってくださいね」
「ああ」
笑顔のレーナに返事をすると、俺とジャネットはギルドを出た。
表に出ると、さっそくジャネットが声をかけてくる。
「さて、無事に手続きもすんだし、今日はとことんつき合ってもらうよ」
「ああ、約束だからな。どこでもつき合ってやるさ」
「いいねリョータ、まだ若いのにしっかりしてるじゃないのさ。それじゃまずは服を買うのにつき合ってよ」
「ああ」
うなずくと俺はジャネットの後に続き、服屋、雑貨店、道具屋に夕食と、彼女の言うままに王都のあちこちへ連れ回される。
……正直、今日だけで金貨一枚が吹っ飛ぶのは計算外だった。