109 日頃の感謝を
カナとジャネットがドレスの試着に行き、場には俺とレーナが残された。
俺はレーナに向かい笑った。
「すまんなレーナ、結局お前には無駄足を踏ませてしまったようだ」
「いえ、とんでもないです。私も楽しかったですから」
そう言いながら、レーナが周りのドレスをもの珍しそうに眺める。
「私もこんな上等なドレスは持ってませんから、本当はちょっぴり不安だったんです」
「そうなのか」
そう言えば、さっきもそんなことを言っていたな。
「レーナはドレスは着ないのか?」
「一応一着持ってはいますが、中間層でも買えるような値段のものです。そもそもドレスを着るようなパーティーに参加することもまれですから……」
「そうか」
自分には縁がないという口ぶりのレーナ。せっかくの美人なのに、それも何だかもったいない話だな。
「そうだ」
いいことを思いついたぞ。
「レーナ」
「はい?」
「お前にもドレスを買ってやる。好きなものを選べ」
「……ええええ!?」
しばらく意味がわからないといった顔をしていたレーナが、言葉の意味に気づき大声を上げる。直後、店内だということを思い出したのか両手で口元を押さえる。
「そ、そんなダメですよリョータさん!」
「なぜだ。俺がお前に買ってやりたいのだからいいだろう」
「そんな、どうしてですか?」
「お前にはいつも世話になっている。ささやかだが恩返しだ」
「そんな、こんな高価なものいただけません!」
「お前に対する恩に比べれば、むしろ全然安いくらいだ。ジャネットにも買ってやっているんだ、お前も遠慮なく受け取るといい」
「で、でも……」
なおもためらいがちに言う。
「せっかくいただいても、私こんな立派なドレスを着る機会がありませんし……」
「なんだ、そんなことか」
不思議そうな表情のレーナに、俺は言った。
「機会がないならば作ればいいだけの話だ。そうだな、では時々ドレスパーティーを開くことにしよう。まあ、俺たちが着飾るだけだがな」
俺の言葉に驚いて目を丸くするレーナ。おそらくそんな発想はなかったのだろう。
「それでは物足りないか? ではサラも呼ぶとしようか。あいつのことだ、時間さえ合えば喜んで参加するだろう」
「姫騎士様!? とんでもない、おそれ多いです!」
慌ててレーナが両手を前に突き出しながら、首を横に振る。
「そう避けてやるな。サラもお前のことは気にかけていたぞ。そうだ、ドレスを着る場がないなら今度俺の叙任式についてこい。周りは着飾った貴族どもばかりだからな、この店のドレスでも浮くことはないぞ」
「そ、そんな! それはどうか許してください!」
「まあ、それは置いておいて、だ。レーナ、俺の気持ちだと思って受け取ってもらえないか?」
俺の言葉に、レーナはしばらく躊躇するようにうつむいていたが、やがてそのままの姿勢でぽつりとつぶやいた。
「……それでは、喜んで受け取らせていただきます……」
「そうか、では好きなものを選んでくれ」
「は、はい……」
「ああ、遠慮はするなよ。お前がドレスを着たところを見たいんだ、なるべくいいものを選んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
顔を上げたレーナは、いつもの笑顔でうなずくと、嬉しそうにドレスを選び始めた。
やがて、一つのドレスを選ぶとレーナは俺にほほえんだ。
「ありがとうございます。それでは、これにしようと思うのですが……」
「ああ、お前によく似合いそうだ。さっそく試着してみるといい」
俺が言うと、レーナは笑顔で緑のドレスを手にして試着へと向かった。
三人のドレス姿か。見るのが楽しみだ。