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108 ドレスと女剣士




 カナの学校が休みの日の朝、レーナが家へとやってきた。


 支度を終えていた俺たちは全員外へと出る。


「おはようございます、皆さん」


「よく来てくれたな、レーナ。今日はよろしく頼む」


「はい」


 笑顔でうなずくと、レーナはジャネットに言った。


「でも、珍しいですね。ジャネットさんもドレスだなんて」


「べ、別にいいだろ。今日はよろしく頼むよ」


「わかりました、任せてください」


 レーナが拳で大きな胸を叩く。まあ、レーナに任せておけば安心だろう。


「では行くか」


 晴れ渡った青い空の下、俺たちは服屋へと向かった。




 やがて俺たちは王都でも指折りの高級店へとやってきた。レーナいわく、ドレスを買うならここらしい。もっとも、レーナ自身はとてもじゃないが手が届かない価格だと言っていたが。


 店に入ると、王都の一等地にもかかわらず広い店内はなかなかに明るく、様々なドレスがディスプレイされていた。高級デパートのフロアを思わせる雰囲気だ。


 レーナはカナを子供向けのエリアへと連れていく。


「ドレス……」


 普段より0.1ミリほども大きく目を見開き、カナが色とりどりのドレスに目を向ける。やはりこういう服には憧れるものなのか。嬉しそうで何よりだ。


「カナちゃん、どんなのがいいかな?」


 レーナの問いに、カナは黄色いドレスを指さした。


「カナ、黄色がいい」


「そっかあ、カナちゃんは黄色が好きなんだね。カナちゃんは肌がきれいな小麦色だから、コントラストもあってよく似合うと思うよ」


「カナ、ドレス似合う?」


「ああ、似合う似合う」


 俺もレーナに同意してみせる。


 その言葉で決めたのか、カナは指さしたドレスのすそを握って言った。


「カナ、これにする。これ、かわいい」


「おお、そうかそうか。ようし、それにしよう」


 さわやかな笑みを返すと、俺は店員を呼んで着替えを手伝うように頼んだ。


 カナが店員についていくのを見ていると、レーナが遠慮がちに小声でささやいてくる。


「あの、リョータさん……ちょっとその、顔がゆるんでますよ」


「む? そうか、すまんすまん。カナがあまりにかわいらしかったものでな」


 レーナも意外と細かいことを気にするのだな。カナを見ていたら少しくらい顔がゆるむのも道理というものだろう。


 こういうことはジャネットがうるさいのだがな、と思って彼女の方を見ると、何やらまじまじとドレスを見つめていた。ひらひらとフリルがついたピンク色のかわいらしいドレスだ。


「どうしたジャネット、それが気になるのか」


「え!? いや、そういうわけでもないんだけどさ……」


 そう照れ笑いをしながら、恥ずかしそうにもじもじする。どうしたんだ今日は。妙におとなしいというか、柄にもなく乙女な感じだ。


 そのドレスを示しながら、ジャネットが俺たちの様子をうかがうように上目づかいで聞いてくる。


「こういうのってさ、あたしにはどうなんだろうね……?」


 レーナがやや意外そうに答える。


「え? そうですね、悪くはないですが……ジャネットさんにはもっと凛としたスタイリッシュなものの方が合うんじゃないですか? ほら、これみたいな……」


 そう言いながらレーナがややタイトな黒のドレスを示す。確かにジャネットにはそちらの方が似合っていそうだな。さすがはレーナだ。


 レーナの言葉に、ジャネットが何かをごまかすように笑い出す。


「そ、そうだよね! あたしにこんなピラピラなドレス、似合うわけないさね! 何だかガキっぽいしさ!」


 そう言うジャネットの瞳が少し寂しげなのが気になった。彼女に聞いてみる。


「ジャネット、お前はそのドレスが気に入っているんじゃないのか?」


「え? ま、まさか! こーんな少女趣味のガキっぽいドレス、あたしに似合うわけないじゃないのさ!」


「似合うかどうかじゃない。お前が気に入ったかどうかだ。正直に言え」


「……」


 俺の問いに、ジャネットは無言でうなずいた。


「よし、わかった」


 俺はジャネットに歩み寄ると、そのドレスを手に取って店員を呼んだ。


「これにする。彼女の着替えを手伝ってくれ」


「はい、かしこまりました」


「え、ちょ、ちょっと待ってよ、リョータ!」


 俺の言葉に、とまどったジャネットが慌てて言う。


「そ、そんなの似合わないって! レーナのでいいから! リョータまで恥かいちゃうよ!」


「お前がほしいものを買わなければ意味がない。それに、俺はこれを着たお前が見たいのだ。だから別にこれで構わん」


「リョ、リョータ……」


 ジャネットが瞳を潤ませて俺を見る。


 そして、周りも気にせず俺に抱きついてきた。


「ありがとう! リョータ、好きっ! 大好きっ!」


「お、おい、周りが見てるぞ」


「構いやしないよ!」


 まあ、別に俺も構わんがな。レーナの視線が気になったが、彼女も特に気にしてはいないようだ。いや、別に俺が気にするようなことではないのだが。


 ひとしきり抱きつかせてやると、俺はジャネットに言った。


「さあ、着替えてこい。お前のドレス姿、俺に見せてくれ」


「うん、うん! それじゃちょっと待ってて!」


 そう言うと、ジャネットは店員と共に足取り軽く着替えに向かった。



 ……いい買い物ができたようだな。



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