105 姫騎士へのサプライズ
「なるほどな。しかしレーナもさぞ驚いたことだろう。包みの中が竜の首とはな」
「あたしもちょっとおどかしてみようと思ったんだけど、考えてみたらそりゃ驚くさね」
「何にしても、竜を倒すとは大したものさ。私も機会があればとは思っていたが、まさかお前に先を越されてしまうとはな」
「あんたはSクラスで実績積んでるからね、あたしはこうでもしないと追いつけないのさ」
俺たちから竜退治の話を聞いて、サラが楽しそうに笑う。確かにサラの腕であれば、まともな剣さえ持っていればレッサードラゴン程度は難なく倒せるだろうな。
一通りの話を聞き終えると、サラはジャネットの剣に目をやった。
「それが竜殺しの剣か。よければ少し見せてくれないか?」
「ああ、構わないよ」
そう言うと、ジャネットは鞘ごと剣をサラに手渡した。
「ありがとう」
礼を言うと、サラは鞘から剣を抜き放つ。それから、刀身をまじまじと見つめた。
「ほう……これは素晴らしい剣だな。これをリョータがつくったのか?」
「ああ」
「まったく、お前の多才さにはいつも驚かされるよ」
「お褒めの言葉、光栄の至り」
俺の返事に笑うと、サラはジャネットに聞いた。
「少し素振りをしてみてもいいか?」
「どうぞ」
うなずくと、サラは剣を軽く二回振る。今ので感触を確かめたのか、今度は目にも止まらぬ速さで縦横無尽に剣を振り始めた。
これは驚いたな。俺やジャネットも強くなったと思っていたが、それはサラも同様だったらしい。間近でその剣さばきを見ると、彼女の力というものがはっきりとわかる。
ひとしきり剣を振るうと、サラは満足したかのような顔で剣を鞘におさめた。
「どうだい、いい剣だろ?」
「ああ、使い心地も素晴らしいな」
「あげないよ?」
「わかっているさ」
それから、サラは剣を見つめながらつぶやいた。
「うらやましいな、ジャネット。私もこんな剣が一つほしいものだ」
やや名残惜しそうに、剣をジャネットへと返す。どうやら俺からもらった剣がうらやましいようだ。
これは、わざわざ準備しておいた甲斐があったな。
俺は立ち上がると、サラに声をかけた。
「サラ、ちょっといいか」
「うん? どうした、急に」
いぶかしむような目で見るサラの眼前に、俺は一振りの剣を突き出した。
「実はお前にも剣をつくってみたんだが、いらないか?」
「な……?」
俺の申し出に、サラの動きが止まる。
そう、俺は今日、サラに渡す剣を持参していたのだ。以前ジャネットが女心がどうだのと言っていたからな。サラにもプレゼントすることにしたのだ。
この剣は、例のガメルのコレクションの中から選んだものだ。サラには聖剣が似合うと思ったので探してみたら、「神の加護LV7」というのが見つかった。俺の剣が「神の加護LV8」だからな。それに準じる力を持っているようだ。
「わ、私のためにつくってくれたのか……?」
「ああ。サラには聖剣をつくってみた。少し振ってみてくれないか」
「あ、ああ」
そう言って剣を受け取ると、鞘から抜いて先ほどと同じように剣を振るう。
「どうだ?」
「ああ、素晴らしい剣だ。私の手にもよくなじむ」
「それはよかった。よければ使ってやってくれ」
俺が言うと、サラはややためらいがちに言った。
「だが、これほどのものをもらってしまってもいいのか? 私はお前に何もしてやっていないというのに」
「何を言っている。いつもお前には世話になっているさ。これは日頃の恩返しだとでも思ってくれ」
「そ、そうか……」
少し顔を赤くすると、何かを吹っ切ったかのように言った。
「では、これはありがたく頂戴するとしよう。ありがとう、リョータ」
「いや、このくらいどうということはない。喜んでもらえたようで何よりだ」
「ああ、もちろんだ。大切に使わせてもらうぞ」
そう言ってサラは笑うのだった。
「リョータ、あんたもやるじゃない」
城からの帰り道、俺の肩にもたれかかりながらジャネットがそんなことを言った。
「何のことだ」
「剣のことだよ。サラったら、完全に乙女の目をしてたよ。あれはもう決め手だろうね」
「まあ、前にお前に言われてたことだしな」
「それをきちんと実行するんだから、やっぱりリョータはいい男だよ。サラも今夜は眠れないだろうね」
「さあ、どうだかな」
サラのあの喜びようからすれば、そうなるのは間違いないだろうがな。
一仕事終えた満足感と共に、俺は家へと戻るのだった。
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