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103 城からの呼び出し




 城から呼び出しの連絡が来た。サラがジャネットに祝いのあいさつをしたいらしい。


 そのことをジャネットに伝える。


「ジャネット、城からの呼び出しだ」


「呼び出し? なんでまた」


「どうやらお前の竜殺しがサラの耳にも入ったらしい。お前を祝いたいそうだ」


「へえ?」


 ジャネットが意外そうな顔をする。


「あの姫様がねえ。負けず嫌いだから、てっきり悔しそうにじだんだ踏むかと思ったよ」


「それもあるだろうがな。元々根は素直な奴だ、友人として祝いたいのだろう」


「へえ、ずいぶんとサラの肩を持つじゃないのさ」


 何が愉快なのか、ジャネットがにやりと笑みを浮かべる。


「それでいつ行けばいいんだい?」


「明日行くと伝えたんだが、大丈夫だよな?」


「ああ、わかったよ。それじゃ姫騎士様への自慢話でも考えておくさ」


 そう言い残して、ジャネットはぶらりと外へ行ってしまった。


 そうだな、俺もあれを準備しておくか。




 翌日、俺とジャネットはいつものように王城の団長室の前へとやってきていた。なんでも、団長のオスカーと先日正式に副団長に就任したシモンもジャネットに会いたがっていたのだそうだ。


 衛士にうながされて中に入ると、ソファにはサラとオスカー、そしてシモンが腰をかけていた。


 俺たちの姿を認め、サラが立ち上がる。


「よく来てくれた。すまんな、呼び出してしまって」


「とんでもない、王女殿下に我が家まで出向かせるわけにはいかないさ」


 そう言って互いに笑うと、俺は男たちにも声をかけた。


「オスカーとシモンも、久しいな」


「これはリョータ殿、久しぶりですな」


 オスカーが言うと、シモンも口を開く。


「リョータ殿、このたびは男爵へと位を進められるそうで、このシモンも嬉しく思います」


「何、シモンも副団長になったのだろう? 遅くなったが、就任おめでとう」


「は、ありがとうございます」


 シモンが深々と頭を下げる。詳しく聞いたことはないが、シモンは下級貴族だから今度男爵になる俺に気をつかっているのだろうか。


「シモン、俺は平民の出だ。そんなにかしこまることはないぞ。今まで通りでいい」


「は、そう言っていただけるとありがたいです」


 あいかわらず生真面目に答える。そう言えばこいつは元々こういう奴だったか。


 その様子を笑って見ていたサラが、ジャネットへと歩み寄る。


「ジャネット、話は聞いたぞ。竜退治おめでとう。王国の一騎士として、私はお前を誇らしく思う」


「へ? あ、ああ、そいつはどうも」


 真正面から賛辞を浴び、ジャネットがとまどいぎみにうなずく。


「私からもお祝い申し上げます、ジャネット殿。聞くところによれば、我が国から女性のドラゴンスレイヤーが生まれるのは初めてのことだとか。素晴らしいことです」


「我々にとって、ドラゴンスレイヤーとは一つの憧れ。素直に尊敬申し上げます」


「へ、へえ……ありがとうございます」


 オスカーとシモンからも祝いの言葉をもらい、ジャネットが困ったように俺の方を見る。


「リョータ、助けてよ……。あたしゃこういうのは苦手なんだよ……」


「何を言っている、ジャネット。お前ももうすぐ名誉騎士なのだ、このくらいのことには慣れてもらわないと困る。リョータ、お前からも言ってやれ」


「うへえ……。だからあたしゃ貴族ってやつがイヤなんだよ……」


 肩を落とすジャネットに、皆がどっと笑う。俺もつられて笑っていると、ジャネットがうらめしそうに睨んできた。


「あきらめろジャネット。初めての女性ドラゴンスレイヤーになったんだ、これからはまだまだ仕事が増えるぞ」


「仕事? これ以上いったい何をしろってんだい?」


「たくさんあるぞ? 式典にも出てもらうし、王国の剣技大会などで模範試合をしてもらうこともあるだろう。大会や集会のあいさつもあるな……」


「ちょ、ちょっと待っておくれよ! そんなの、あたしにゃ無理だよ、無理無理!」


 すっかり弱気なジャネットに、俺たちは再び笑い声を上げる。


 と、何かを思い出したかのようにサラが口を開いた。


「そうだ、仕事と言えばジャネット、お前にさっそく頼みたいことがあるのだが」


「ひええ、どうかご勘弁を!」


「そうおびえるな。今度冒険者学校を視察することになってな。せっかくだ、お前もいっしょに来て冒険者の卵に顔を見せてやってくれないか」


「が、学校……?」


 ジャネットが首をひねる。サラが続けた。


「そうだ。顔を見せるだけでいい。できれば少しお前の剣も見せてやってほしいのだがな」


「そういうことなら、あたしゃ別に構わないよ」


「そうか、よかった」


 そう言うと、サラは俺の方を見た。


「よければ、リョータもいっしょにどうだ? お前もSクラスの剣士だし、平民から男爵にまで上りつめた男なのだ。生徒の連中にも、きっと刺激になるだろう」


「そうか?」


 見れば、オスカーとシモンが何やら嬉しそうな顔をしている。なるほど、どうやら仕事というのはただの口実らしい。ジャネットはおまけで、本命は俺ということか。それなら素直に俺といっしょにいたいと言えばいいものを。


 オスカーたちは俺とサラとの仲が進むと思って喜んでいるのだろう。彼らにしてみれば、サラは心情的には娘や姪のようなものなのかもしれない。


 それに、冒険者学校ということはカナの様子も見ることができるしな。特に断る理由はない。


「まあ、俺は構わん。せいぜい模範になるようにがんばるとするさ」


「そうか? ではよろしく頼む」


 そう言うサラの顔は、なるほど確かに嬉しそうだ。姫騎士と言っても、まだまだ子供だな。


 そんなことを思いながら、俺たちはしばし茶を楽しんだ。



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