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102 我が家にて




「ただいま」


「ああ、おかえり」


 レーナのお茶会から解放され、家に帰って湯を浴び部屋でくつろいでいると、カナが学校から帰ってきた。もう夕方になるのか。


 部屋に入ったカナは、俺とジャネットの顔を見比べて言った。


「二人、今日疲れた?」


「え? あ、ああ。カナ、おかえり。今日はちょいといろいろあってね……」


 風呂から上がったばかりのジャネットが、ソファでぐったりしながらカナにあいさつをする。


 それからすっくと立ち上がると、ジャネットは懐から何やら勲章のようなものを取り出してカナに見せた。


「カナ、これが何だかわかるかい?」


 ジャネットの問いに、カナはふるふると首を横に振る。


「これはね、竜殺しの証しさ」


「竜殺し?」


「ああ。ここに石が入ってるだろ? これが竜の歯さ」


 目の前にかざすと、カナはまじまじとその勲章を見つめる。珍しいものであることには違いない。


 ジャネットの解説も熱を帯びる。


「これを手に入れるのはホントに苦労したんだよ。今日は死ぬ思いで竜と戦ったんだからねえ。でも、やっぱり決め手は旦那の愛さね」


「アイ?」


「そうさ。ほら、この剣を見ておくれよ。リョータがあたしのために、三日三晩寝ないで愛を注ぎこんでつくった剣だからね。まあ、リョータもあたしにぞっこんってことさ」


 その発言にはいろいろと異論があるのだがな。だいたい、俺は三日三晩寝ないでつくったなんて言った覚えはないぞ。話を盛るにもほどがあるだろう。


「ぞっこん?」


「リョータはあたしが大好きってことさ」


 その言葉に俺の方を見ると、カナはジャネットに言った。


「リョータ、カナにぞっこん?」


「え? ま、まあそうなるかな? でも、あたしへの好きとカナへの好きは違うと言うか……」


「どう違う?」


「いや、ええと、ううん……。ま、まあ、それはカナも大きくなったらわかるよ。リョータがカナにぞっこんなのは間違いないさ、うん」


 ジャネットにしては珍しく、ややうろたえながらカナの質問に答える。言っておくが、あくまで俺は保護者としてカナを大切に思っているんだからな。俺は断じてロリコンではない。うん、間違いない。


 ジャネットの隣に腰をおろすと、カナが俺のひざの上に乗ってくる。その頭をなでながら、俺はジャネットに話しかけた。


「なんにせよ、念願のドラゴンスレイヤーだな。おめでとう」


「ありがとうよ、なんならこの後ぜひ酒で祝ってもらいたいね」


「お安いご用だ。では夕食はあの店にしよう」


 俺が例の高級料理店の名を言うと、ジャネットがひゅうと口笛を吹く。月一回にこそなったものの、あの店には今でも魚を運んでやっている。まあ、今では使われるより使ってやる方が多くなりつつあるのだが。


「あの店に行くならホントに持って来ればよかったねえ、竜の肉」


「食ってうまいものではないらしいからな」


 苦笑しながら、俺は話を変える。


「しかしずいぶんあっさりと認定してもらえるものなのだな、ドラゴンスレイヤーというのは」


「そりゃそうさ。苦労してぶっ殺したんだ、審査なんかに時間を取られてたまるかい」


 愉快そうに笑うと、ジャネットが続ける。


「実際生首を持ってったわけだしね。疑いようもないよ」


「だがあれで証拠になるのなら、竜を倒したところで横取りしようとする奴が現れそうなものだがな」


 少なくとも、俺ならまずそれを考えるな。


「そういうこともあるみたいだね、実際」


「やはりそうか」


「まあ、それが成功したって話は聞いたことがないけどね。大抵は返り討ちにあうからねえ」


「ああ、それもそうか」


「だいたいそんなこと考える奴が竜殺しに挑むなんてのが、勘違いもはなはだしいのさ。そんな性根の腐った恥知らずが冒険者を名乗ってること自体、あたしには耐えがたいね。あんただってそう思うだろ?」


「あ、ああ、もちろんだ」


 若干声を震わせながら、俺はジャネットに同意する。こいつ、本当は心を読むスキルでも持ってるんじゃないのか? 痛いところを突きやがって。


「それに、仮に横取りに成功したとしても結局ギルドにバレちまうもんさ。あたしも今日いろいろと戦いの様子を聞かれたろ? 噂じゃ王都のギルドには、ホントに竜と戦ったか判断する方法が書いてある巻物があるらしいよ」


 なるほど、マニュアルがあるのか。まあこれまでに歴代の竜殺したちからある程度報告がなされているのだろうしな。その報告と照らし合わせれば、明らかにおかしいのははじけるのだろう。


「そして何より、常日頃からの信用が一番さね! あたしはSクラスで活躍する凄腕剣士だから、ギルドの連中だって疑いやしないのさ!」


 ジャネットが薄い胸をそらして言う。お前はSクラスになってまだ日が浅いじゃないか、という一言は胸の内にとどめておく。


「ジャネット、すごい」


 俺のひざの上で、カナがパチパチと拍手する。お礼とばかりに、ジャネットはカナの頭をなでた。


「聞けばカナもずいぶんと成績優秀だって話だしねえ。女ドラゴンスレイヤーに期待の治癒魔法士、リョータ、いよいよ最強のパーティーに近づいてきたじゃない」


「俺はまだカナが戦うことには反対なのだが」


「いいかげんあきらめな。カナがそうしたいって言ってるんだから、俺が守ってやるくらい言わないでどうするのさ」


「それは無論だ。カナは俺が守る」


「……なんだか妬けるねえ……。いや、それでいいんだけどさ……」


 気のせいだろうか、ジャネットの視線が「このロリコンが」と言っているように見える。いや、気のせいだな、気のせい。


 しばらくそんな視線を俺に向けていたジャネットだったが、気分を切り替えるように勢いよく立ち上がると、陽気に言った。


「さてと! それじゃリョータ、今日はとことんつき合ってもらうよ! カナ、あんたもたらふく食いな!」


「うん、たらふく食う」


 ジャネットのまねなのか、カナも俺のひざから勢いよく飛び出して立ち上がる。カナ、お前はあまりジャネットの言葉づかいをマネするなよ。




 外出の準備をすませると、俺たちは今や王都で一番人気となった例の高級料理店へと歩き始めた。




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