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初恋。  作者: 冬鳥
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番長の意気


空気を通して精神的に圧迫する力がひしひしと伝わってくる。

俊介は壮太の顔を見つめた。

見上げる形になる




「さっきあそこで話してたのは二年生の誰だ?」



さきほどまで俊介と吉川がいた廊下の隅に顎を向けた。



「壮太。気になるのか」


俊介は込み上げてきた煙草を吸いたい気持ちを固唾と一緒に飲み込んだ。


「杉田…奈緒…ちゃんのことか?」



壮太は眉をしかめた。



「だとしたらどうする?」




俊介を通せん坊する形に立ち塞がる壮太の両手がぴくりと動いた。休憩時間がもうそろそろ終わりを迎えるのだろう、廊下には人影がなくなっていた。



「なにを話しした?」



怒りを抑える口調なのがわかった。



壮太もいろんな情報を耳にしたのだろう。



俊介には隠す必要はない相手だった。




「佐野…ああ、先日、彰が蹴ったブタが佐野だが。そいつらが杉田に集団で何かをするかもしれない。近い日に決行予定。どうする?その前にぶち込むか?情報を鋭角化させて決行日に踏み込むか?任せるぞ。まあ俺は弱いがあんたと彰がいれば」


唖然として言葉を失う壮太が目の前にいた。



「あいつらは鬼畜だ。ほんとに集団でやりかねない」



「待て」



絞りだすような低い声だった。普段の遊び心が抜けていた。



「なんだよ?」




「彰には言うな俊介」



「彰に?」



「ああ絶対に言うな」



俊介は後ろの気配を探ってから再び前を向いた。



「壮太。彰を出し抜いての抜け駆けか?」



壮太は険しい表情で、俊介の顎の辺りを見つめたまま少し合間を置いた。



その間俊介は呼吸を二回した。



「あいつは俺一人でボコボコにする。彰も、シュンお前も手を出すな」




「壮太…もしかしてお前…。佐野の黒い噂を聞いたな」


壮太には兄貴がいる。

小さな族を率いる兄が。


俊介はその名前が賢治というのを思い出した。



「兄貴に聞いたか」



俊介の言葉に壮太は一瞬嫌な顔した。



「ああ。佐野って奴はちょっとめんどくさいらしいな。だからわかったな?俺一人がやる。シュンはこれから情報だけ俺に伝えてくれ。そして…絶対に決闘場所には来るなよ」



チャイムが鳴り響いていく。



「壮太…悪いがあんたでも一人じゃ無理な相手だ。俺は彰に言うし、俺は俺で自由に付いていく」



「シュン!」



「ぐっ…っっ…おい…何の真似だ?」


壮太は俊介の胸倉を掴んでいた。


「おいふざけんな。やめろよ…」



壮太の力に屈するように俊介の両足は徐々に宙へと浮き出した。



「シュン。俺は友達と決めた奴は必ず守りたい。お前ならわかるだろ?彰には絶対言うな。おまえも加勢はするなよ。情報だけでいい。頼む。杉田奈緒子も親友も俺は守りたい。それは俺のわがままか?」



壮太はシュンの胸倉から手を離して笑顔でそう言った。


わがままか?



「くそ…」



「頼む」



頭を深々と下げる壮太になにか込み上げるものを感じた。




「あんた。カッコイイよ。やばいくらいにな。だがな…」



俊介も笑顔を作った。




「佐野の怒りを一身に背負うことになるぞ。それは皆でやって分散させちまえばいいんだ…と思っていたが無理な話しか。あんたにいま俺が何を言っても無理な話しなのだろう。あんたはやると決めたら譲らねえ男だ」



壮太はニっと笑って見せた。


「チャイム鳴ったぜシュン」


「ああ」



教室に戻り始めたときに壮太は奥歯を噛み締めるようにしながらいった。


「シュン…。現場を叩く。奈緒ちゃんが来るまえの現場を。俺がそこにいる奴らすべてをボコボコにする。そうすりゃ言い訳なんてできないだろ。だから情報が頼りだ。シュン」



「ああ」


俊介は壮太の横で頷いていた。


やはり一年生のリーダーとして最も相応しい男だと思った。


リーダーに憧れた入学当初を思い出す。


俺ではこの人には到底勝てない。



あの目、あの迫力。


壮太は本気で一人で立ち向かうつもりなのが伺えた。

好きな女を救い

友達も救う。



佐野という男を知りながらも壮太はそう言ってのけたのだ。


掴まれた胸倉からは想像を超える力を感じた。



俺はこの人に勝てるわけがない。


壮太が杉田奈緒子のイジメを無くす。



そうなれば杉田は壮太に恋をするのではないのか。



それは俺には好都合なことではないのだろうか。


俊介はとにかく目の前にいる男の英雄さに脱帽していた。



していた。



教室に入る寸前で俊介は何げなしに聞いた。



「彰が吹奏楽部に乗り込んだ話しは壮太も彰自身から聞いたんだな」



壮太の返事はこうだった




「彰は勇気あるよ。でもあいつから聞いていてちょっと危なっかしいと思った。いいな。佐野は俺がやるからな」



俊介の胸を軽く叩いてから壮太は教室に入っていった。


気にも止めないこの会話の反応を俊介は忘れてはいなかった。

そしてずっと後日になってわかったことがあった。



彰は壮太に直接話してはいなかった。

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