羽を毟られた小鳥
不意、目が覚めた。自分はいつ眠ってしまったのだろうか、眠る直前の記憶が一切ない。それにココは何処だろう。イマイチ場所がわからない。
薄暗い、天井は冷たい石の様な――石?
目をこすっても確かに天井は石の様なモノで出来ていた。勢い良く起き上がると強烈な痛みを頭に感じる。まるで固いもので殴られた気分だ。
あたりを見回すと、鉄の棒が整列されていて自分の周りをぐるっと囲っていた。大きめの円形、それに南京錠と鎖で固定された扉の様な物。これは、檻なのか? それにしては随分形が変わっている、まるで鳥籠の様な……そこまで考えた所でズキンと頭が痛む。
そして自分が目覚める前、意識がまだしっかりとしていた時の事を思い出した。そうだ、確かあの時は仕事帰りに!
「あれぇ目、覚めたんですねぇ」
思考を遮るかの様に、軋んだ音が聞こえて檻らしきモノの先にある扉からのっそりと男が顔をのぞかせた。
「佐久間教授!」
それは仕事場の先輩であり、いつも優しくしてくれた人だった。訳がわからない。何故、佐久間教授がここにいるんだ?
「荒木君、君は何故ここにいるのか思い出せてない様ですねぇ」
仕事から帰ろうとして、それから……そうだ、佐久間教授に告白されたんだ。僕はそういう趣味はなくて、もちろん佐久間教授の事を好きではあったけれどそれは尊敬する先輩としてで、そしたら彼は、静かに頷いてお茶煎れてくれてそれから、意識が途絶えた。
「ようやく思い出したのかな」
南京錠も鎖も気がつけば取り外されていて、彼は僕の目の前に居た。感情の読み取れない表情で僕のことを見つめながら彼はにじり寄る。
そのなんとも言い表せない気味悪さに僕は後ずさる。
どうして、なぜ? 疑問ばかりが募る、その答えは出ない。
「僕はねぇずっとずぅっと君を見ていたんだよ。 それはもう君はね僕の期待通りの子でねぇ優秀で、優しくて、お人好しで、ああそれに少しだけ淫乱かな?」
佐久間教授が中指と人差し指の間に挟んだ写真をひらひらと見せびらかす。それは僕がほんの出来心で、友人との戯れの延長で行った恥ずかしい写真。
「趣味はないっで言ってた割にら随分、悦い表情〈カオ〉で男のモノを銜えてるんだねぇ君は、それとも淫乱なのはこの口だけかな?」
「んっ!!」
佐久間教授の薄い唇が押し付けられ、紅い舌が僕の舌の表や裏や、歯茎まで犯していき吸い付いてくる。怖さと、そのイヤらしさの二つが重なって僕はただなすがままでいた。
ツッーとやらしく耳たぶから首筋にかけて降りていって、そこで舌は止った。
「あとは、ゆっくり夜が更けてからにしようね」
そう言って、佐久間教授は外へ出てしまう。出るなら、逃げるなら今だと思うのに恐怖のあまり体が動かない、まるで骨を抜き取られたみたいだ。
「あっ、うっっ」
「愛してるよ、僕の小鳥ちゃん」
そう呟いていく佐久間教授、そして音を立てて閉まる扉に僕は――そこで意識を失った。