箱庭
柔らかい布団の上で耳を澄ませれば、地を打つ雨の音が聞こえた。ああ、今日は雨なのだなと認識しながらも怠くなった体は起こせない。雨音が響く度に、腰が痛む気がした。
「ねぇアルバート朝だよ」
少年がふんわりと笑う。昨日、この少年に何度昇らされたかは分からない。あどけない顔をしている癖に、俺よりも年下なのに、彼は所謂おませさんであった。優しくいえば、だが。
「腰、痛い……」
「アルバートが可愛いのがいけないんだよ」
身長193、年齢32。少年からみれば随分といかついおっさんだろうに、何を言っているんだか。まったく、この子供は。
「クリストファー、おいで」
扉の前から動かない少年を呼び寄せて俺は、寝返りをうつ。雨の音が旋律を奏でる様に屋根や地を叩いている。少年はおずおずと、まるでおいたをして叱られた犬猫の様に近づいてきた。
「ほら、いいこだ」
手を伸ばせば、少年はビクンと体を震わせた。その姿に躊躇しながらも少年の頭を撫でる。
少年は、愛と言うものを知らないらしい。世界のことも親も。昨日偶然に訪れたこの場所だったが、この場所の異常さは一目瞭然たった。
所狭しに並べられたぬいくるみ、幼児向けの絵本や裾が汚れ放置された衣類。
年齢を知らない、愛を知らない、親を知らない、セックスだけ知っている少年。
「クリストファー、いつもこんなか?」
「なにが?」
「セックス」
俺が昨日経験した事は、普段少年が受けている事だ。それが何を意味するか少年は知らない、俺は知りたくないけれどわかってしまう。
「これがセックスって言うんだね、いつもこんな……でもここ最近ずっと来ない、食糧も届かなくかったし」
そう瞼を伏せて、少年は甘えるように俺に抱きつく。雨はまだ旋律を奏でてる。
「俺と、来るか?」
「連れてって、どこにでもついてくから」
捨てないで、とすがりつくかの様に少年はぎゅっと抱きつく。俺はそんな少年を殊更抱きしめて、そしてそっと額に口づけた。