完全勝利のディクラレイション
少女の脳を焦がしたあまりに残酷な事実、少年に秘められた事実。
私と同じ名字を名乗るこの少年は一体何者なのか。
そして私は一体何者なのか。
少年との賭けの間に私は全てを知ることとなった。
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「姉上様は3歳の時、母上によりこの街に棄てられました。なぜなら私たちの家に"女"は必要ないとされているから。父上は"女"を性欲処理と子孫のため以外のものとは思っていない。」
私の脳裏を衝撃が走る。
「じゃあ、私の、母さんは…」
声がうまく出ない。周りから「あんなに声が震えてるのは初めてじゃないか」と声が聞こえる。
「母上は姉上様をこの街にお棄てになられたあとご自分も父上に棄てられこの街に…。」
…自分の父親が、自分と母さんを棄てた。怒りしか感じられなくなった。怒りしか感じられないあまりにもうこれが怒りの感情であるかすらもわからない。
「何で…何で…ッ…!!」
泣き崩れる私に彼は更なる絶望を突きつける。
「母上様はその後姉上様を匿ったと風の噂で聞きました。今はもう、…お亡くなりになられたそうですね?」
私を母さんが匿った。…つまりあの『恩人』は私の母親だ、とこの人は言ったのだ。とどのつまり、私の母さんはもういない。あの時病気で殺されたのだ。そもそも病気とはなんだったのか。私の恩人は感染症だったから感染拡大を防ぐために殺された。しかしあれだけ長い間一緒に居たのに私は今こうして生きている。病気はしていない…と、思う。と言うことは、母さんは病気なんかではなかったのだ。病気ではなかった、と言う表現は不適切だったかもしれない。私の母さんはこの街にいるべき存在ではなかったのだ。この街では『優しい』母さんはイレギュラーな存在だったのだ。イレギュラーな存在は恐れられる。『その異常な思考が自分に移ることを』。全てを理解した。人を信じてはいけないんだ。
「…時間を取りすぎましたね、賭けに移りましょうか。」
「…はい」
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これが人生で最後の戦いになるな、そう思った。
「「完全勝利」」
「…えっ…?」
何故だ、私の『完全勝利のディクラレイション』は私にしか使えないはず、彼が使えるはずがない。
「どうしました?早く始めましょう、姉上様」
「…」
それから私と彼は何回勝負しても引き分け続きだった。
アビリティを使うのには体力の消耗が付き物であるが、もう3桁にはなるだろう戦いに私はもう立っているのがやっとだった。それなのに彼は今でも余裕の表情。ふと顔を上げると彼の目がいつの間にか『赤く光っていた』。まるであの時言われた…。
「…ハハハ、ハハハハハハ…!!!!」
「「!?!?」」
「あーー、弱い、弱すぎるんだよ!何が『究極の剣使い』だ?能力がないと何も出来ねェのにな?」
彼は突然態度を変えるとダッ、とテーブルの上に飛び乗り、私の首元に『剣』を当てた。
「ヘヘ、自分の力じゃ何も解決されられないことも分かってんだろ?認めちまえよ、楽になろうぜ?オレみたいに!」
そう言うと彼は私とは逆方向に跳んでいき、観客を刺し始めた。
「やめなさい…!!!!」
「仕方ないなぁ?ハハ、じゃあ最後までやってあげようか、」
彼はナイフを投げ、―そのナイフは私の頬を掠めた、賭けを続けた。
…一度だけ、一度だけだけど聞いたことがあった。
「精神錯乱」の話を。