赤い目のオールゲーム
邂逅する二つの赤い目と絶望の告げ口。
翌日から私は真夜中のカジノの一員となった。それが私の「人生」の始まりであり、終わりである。
私はここで賭けをする時は必ず帽子をかぶることに決めていた。出来るだけ目立つのは避けたほうがいいと経験が告げたからである。そして私は7歳にして天才と呼ばれた。(推定)7歳の7月7日、突然にしてその才能は目覚めたのであった。立ち向かう敵を次々と蹴飛ばし、賞金を稼ぐ。それだけではない。この世界に住む人々の誰もが持つとされる魔法のようなもの「アビリティ」。その中でも自分以外の人には使えない「ユニークアビリティ」と呼ばれるものが自分に宿ったのである。
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「完全勝利<インフィニティオールゲーム>。私の勝ちです。」
「貴様ァ…このオレさまをナメてんのか?」
「そんなことはありません。でもあなたは私に勝てない。」
言葉が意思とは関係なく口から滑り落ちた。
相手の考えてること、持っている手札、山札の上のカード。その時から私は賭けに関する何もかもが見えるようになっていた。
「…ロイヤルストレートフラッシュ。あなたのカードはツーペア、私の勝ちです。」
沈黙を破る私の声が歓声を呼んだ。
「このオレさまが負ける訳がない!もう一度だ!!」
そう言って私たちはそれから5回ポーカーを続けた。
ロイヤルストレートフラッシュ、フルハウス。
ストレートフラッシュ、フォアカード。
またまたロイヤルストレートフラッシュ、ストレート。
そしてストレートフラッシュ、ツーペア。
最後にストレートフラッシュ、スリーカード。
「ウ…ウソだ、こんなのイカサマだ…!!!!」
震えた声で喚くオレさま気取りの敗北者・鉄壁防御のアビリティ使いはあろうことか、暴力戦へとそれを持ち越した。危ない、そう思った次の瞬間私は彼の使うアビリティ・鉄壁防御で身を守っていた。
「…」
「…なんでだ、お前っ…。俺の技をパクリやがって…このカイブツめ、次来た時は覚悟してろよ…!」
そう言って彼は立ち去った。
風の噂で聞くと彼はあのあとからアビリティが使えなくなったらしい。
にわかには信じられないことではあるが、どうも私のユニークアビリティ、「完全勝利のディクラレイション」には、
―対象のアビリティを盗む効果があるようだった。
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その翌日のことだった。
「嬢ちゃん、その目…どうなってんのー?」
「目…?」
仲間の一人が私に声をかけてきたのは、私がトランプを眺めていたことだった。
「嬢ちゃんの目って賭けをするときだけ赤くなるじゃん?どうなってんのー?」
そんなはずはない、私の目はこのあたりには少ない水色だったはずだ。
「…何言ってるんですか、変な冗談はやめてください」
「うーん、信じてくれないか…本当の話なのにな~」
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それからも私は挑戦者たちをいとも容易く打ち倒し、気付けば街の有名人になっていた。
私にユニークアビリティが宿ったおよそ5ヶ月ほど後のことである。私はあれから随分と性格を変えて、いつしか人を寄せ付けないようになっていた。そんなある日の晩、一人の変わった客がこのカジノを訪れた。
「…シルハ。シルハ=ブラックソディと戦いにきました。」
「ブラックソディってあの、大富豪の…!?」
店は騒然とした。この店にはそんな名前の人はいない。
「悪いけど、ここにはあなたのお探しの方は居ません。悪いですがお引き取り願います。」
そう言った後、私は大切なことに気付いた。
―――私が「シルハ=ブラックソディ」と言う名前である可能性は十分にある。私は自分の名前を知らないから。
「あなたのことです、シルハ=ブラックソディ…。私の、姉上様」
「失礼します」そう言うと彼は私のフードを脱がせ、首筋を写真に撮った。その写真にはしっかりと
―Shilha=Blacksody、そう刻まれていた。
「申し遅れました、私はシルド=ブラックソディと申します。シルハ様の、弟にございます。」
また、店内はざわつきを見せた。
私と同じ名字を名乗るこの少年は一体何者なのか。
そして私は一体何者なのか。
少年との賭けの間に私は全てを知ることとなった。