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作者: 雷田矛平

「お、も、し、ろ、か、っ、た、で、す。送信っと」

 少女は送信ボタンを押した。

 少女がいるのは自分の部屋だ。机においてあるパソコンの前に座っている。

 今やっていたのは、ネットの小説を読んで感想を送ることだった。

 ブラインドタッチもできない、パソコンに不慣れな少女。

 それなのに感想を送るという、何文字も打つ作業を苦も無くやっていられるのはその小説が好きだからだ。

 正確に言うと、その作者が書く小説が好きだからだ。

 その作者は、いろんな短編を書いている。ジャンルは恋愛物が多い。

 あまり人気が無いのだが、少女は特に好きだった。


 なぜかその作者のセリフの言い回しが気に入った。

 描写が紡ぎだす光景がすてきだった。

 登場人物の心情に深く共感できた。

 その作者の小説を読むたびに、うっとりとしていた。

「ああ、いけない。もうこんな時間だ」

 気づけばもうすっかり夜だ。

 小説を読んでいると時間感覚がなくなってしまう。

 翌日も学校がある少女はあわてて布団に入った。


 翌朝。

「行ってきまーす」

 元気な声を出して、少女は家を出た。

 門の前には少年がいる。

「おはよう」

「おはよっ」

 少年と少女は挨拶しあう。

 二人は隣同士に住んで、十年近く。すなわち幼なじみだった。

「遅いぞ」

 少年は言葉では(とが)めているが、声に鋭さは無い。

「えへへ。ごめんね」

「まったく。じゃ、行くよ」

「はい」

 二人は登校の道を歩き出した。


 昼休み。

 二人は、教室で一緒に向かい合って弁当を食べていた。

 弁当箱は二つあるが、どちらも中身は同じだ。

 それはつまり、どちらも少女が作ってきた物だった。

「おいしい?」

 正面の少年に感想を聞く少女。

「ああ、いつもどおりおいしいよ」

「よかった」

 これはもう恒例行事で、同じクラスの生徒も「夫婦だ」と、はやしたてるのに飽きていた。

「いつも、ありがとね」

「どういたしまして」

 少年のお礼に、返事する少女。

「今日も一緒に……」

「うん、大丈夫だよ」

 最後まで言わなくても、一緒に下校しようと言いたいのだと分かる。

 二人はそんな関係だったが、彼氏彼女ではなかった。

 ただの幼なじみだった。

 少女は、そう、思っていた。


 放課後。

 二人は約束どおり一緒に帰っていた。

 いつもの光景のはずだった。

 なのに。

 少女の目には、少年の様子は少し違ったように見えた。

 長年、隣にいるからこそ分かる違いだった。

「今日はどうしたの?」

 少女は邪気無(じゃきな)くそう聞いた。

「どうしたって?」

 少年にそう聞き返されても、何が違うのか分からない。

「えーと。いつもと何かが違くて……」

 何が違うんだろう、感覚では分かっているのに言葉にできない。

 そうしていると、

「もしかして、僕が緊張しているってことかな」

 少年から答えを出された。

「そう、そんな感じ!」

 自分の感覚がすっきりといく言葉だった。

 でも

「緊張? これから何かあったっけ?」

 隣同士に住んでいる幼なじみので、相手の予定も大体分かる。

 少年にはこれから緊張するような行事は無かったはずだ。


 そう思っていると、

「ちょうど良かった。そこの公園に入ろう」

 少年は道端の公園を指差した。

 少女に構わず入っていく。

「ちょっと、待ってよ」

 少女もついていく。

 その公園は誰も人がいなかった。平日の夕方だからかもしれない。

 さびれた、と言う形容詞が似合う公園だ。夕日が差して、さらにその印象が強まっている。

 少年はブランコに座った。少女も隣のブランコに座る。

「どうしたの? 急にこんなところ入って」

「……懐かしいだろ。この公園」

 そう言って辺りを見回す少年。

 つられて少女も見回す。


 確かにこの公園には、幼いころ、少年と一緒によく遊びに来ていた。

 すべり台を一緒にすべったり、

 鉄棒では逆上がりを教えてもらったり、

 (いま)座っているブランコではどちらが高くまでこげるかを競争したりした。

「……うん。懐かしいね」

 あの頃から二人は一緒だった。

 少年は、少女の隣にいて。

 少女は、少年の隣にいた。

 それは今も同じだ。

「で、どうしてこの公園に入ったの?」

 それに、少年はさらりと、さらりと。

 自然に答えた。


「告白するならこの場所がいいと思ってね」


「えっ!」

 幼なじみなのだ。

 相手の考えていることが分かるときがよくある。

 それでも絶対ではない。

 少なくとも、少年の、そのセリフは、少女には予想外だった。

「何でなの?」

 言葉だけを聞けば、告白の理由を聞いていることになる。

 しかし、少年には、少女が言外に含ませた「幼なじみなのに」という言葉が分かった。

 それに答える少年。

「いつまでもこうじゃいられないんだと思ってね」

「………………」

 少女は無言で続きを促す。

「確かに僕たちは幼なじみだ。今まで多くの時間を一緒にすごしてきた。僕の隣といえば君がいて、君の隣といえば僕がいる。それが世界の理のようだと、錯覚するほど長い時間を共に過ごした」

「……錯覚じゃないと思うよ」

 あれ、何か……?

 少女は、頭の中で何かを思い出しそうになりながら、そしてその言葉を嬉しく思いながらそう返した。


「ありがとう。でも今までがそうでも、これからがそうとは限らない。幼なじみってのは、その言葉の通り、幼い間になじんだ、というだけで過去の関係なんだ。

 だから、未来への関係じゃないんだ。

 これからどうあろうと僕たちは幼なじみだ。例え、君の隣に僕がいなくても。そして僕の隣に君がいなくても」

「………………」

 やっぱり、何か……?

 少女は何かを思い出そうとしている。

 だから答えられないわけではない。

 思い出そうとしているのは頭の隅だけで、少年の告白をちゃんと聞いている。

 答えられないのはそこまで考えていなかったからだ。

 いつまでも自分たちの関係は続く、と漠然と信じていた少女は答える言葉を持たない。


「それじゃ、嫌なんだ。僕はいつまでも、君に隣にいて欲しいし、僕はいつまでも君の隣にいたい。

 だから未来のある、彼氏彼女になりたいんだ」

 少年の告白に「好きだ」という言葉は無かった。

 そんなの二人の間では分かりきっていることだからだ。

 少女は、少年の告白に答えようとして。

 唐突(とうとつ)に思い出した。


「――――――」

 ある小説のタイトルを言う。

 それは少女の気に入っていたネット小説のタイトルのひとつだ。

 それを聞いた、少年の顔はこわばって、少女に問いかける。

「どうしてそれを?」

 少女は語りだす。

「私の好きな小説のひとつでね。……さっきの告白、なんか聞き覚えがあったんだ。そりゃ、そうだよね。

 その小説で主人公がした告白に似ていたもの。細かいニュアンスは違うけどね」

 その小説は、主人公の少年が幼なじみの少女に告白する恋愛物だった。

 今とまったく同じ状況だ。

「何? そのセリフ。パクリなの?」

 一気に少女のテンションが冷める。

「告白するなら、自分の言葉で」

「違う! 誤解だ!」

 少女の言葉をさえぎって、少年が叫ぶ。

「何が誤解なのよ!」

「たしかにその小説の告白に似ていたかもしれない! それは認める。でも仕方が無いんだ!」

「何がよ!」


「あの小説は僕が書いたんだ!」


「えっ?」

「セリフをまねようとした訳じゃないんだけど、考えが同じだから、同じセリフが出たのかもしれない! 実際あの小説は僕らをモデルに書いたから。それは謝る。でもどちらも本心なんだ!」

 それは、考えてもみなかった。

 理由はある。その小説は女性が読むような恋愛物だったからだ。

 その作者が書くのは、恋愛物ばかりだったからだ。

 ネットゆえに、小説の後ろに作者がいるのを忘れていた。

 そうか、少女は思い当たる。

 私があの作者の小説を好きなのは、いつも隣にいる少年と感覚が似ているからなんだ。


「あのー」

 急に黙り込んだ少女に、少年は声をかける。

「怒ってませんか?」

「どうして、怒っているわけ無いでしょ」

 そして、少年はおずおずと切り出す。

「それで、告白の返事は」

「そうね」

 うーん、と少女は考えるフリをする。

 答えは決まっていた。

「あの小説ではこの後どうなった?」

 少女は聞き返す。

「えっ」

 予想外の問いかけに答えられない少年。

「幼なじみは主人公に抱きついてキスをしたよね」

 そう言って、少女はブランコを降り、少年の座っている隣のブランコに移る。


 そして二人は物語のとおりに……。 

 この話は、自分の初投稿の作品に感想を送られたときに、嬉しくなってすぐに思いつきました。

 登場人物の少年は男子学生で、恋愛物の小説を書いてますが、

 何を隠そう、私も男子学生です。

 ………………。

 信じられないかもしれませんね。だけど、ネットだからって嘘を書いているわけではないんです。

 だから少年と私の境遇は似ているはずなんですが、あんな幼なじみはいませんよ。


 まぁ、この話は置いといて……。

 感想をくれると嬉しいです。

 もしかしたら小説の通り、この小説の作者はあなたの近くの人かもしれませんよ、と。

 雷田矛平でした。

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― 新着の感想 ―
[一言] 感想を書くのは初めてなので、少し緊張しています。 (誤字脱字があるかもしれませんが、そのときはごめんなさい…) とてもおもしろくて、ドキドキしました! こんな幼なじみがいたらいいなあと、思っ…
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