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第2話 秘密の小部屋

「白木先輩!いらっしゃい!!」


校舎の3階にある演劇部の部室の扉を開くと、元気な声が寿々菜を迎えた。

寿々菜もほんの数ヶ月前までここにいたのだが、

何故か遥か昔の事のように感じる。


中学時代、それに高校時代というのは、

輝いている分、通り過ぎるのも早く、すぐに「思い出」になるものなのだ。


慣れ親しんだ部室の匂いも懐かしい。


「みんな、久しぶり!」

「白木せんぱーい!この前のドラマ見ましたよ!あんな人気のドラマに出るなんて、

凄いじゃないですか!」

「えへへ、ありがと」


ワラワラと寿々菜に寄ってくる3年生と2年生。

ちょっと遠巻きにそれを見ている制服がピカピカの生徒達は、

寿々菜の卒業後に入ってきた1年生だろう。


「部員、増えたね。今、何人?」

「えっと、50人くらいです」

「50人!?凄い!私が入学した頃は20人くらいだったのに!」

「白木先輩のお陰ですよー。うちの演劇部から芸能人が出たっていうんで、

希望者が殺到したんです。男子も増えたんですよ」


世間的には寿々菜はまだ人気のない駆け出しアイドルだが、

ここの生徒達にとっては、先輩且つ芸能人である。


羨望の眼差しがくすぐったい。


「講演会、よろしくお願いします!」

「うん。自信ないけど、なんとか頑張ってみる」


謙遜ではない。

山崎からの宿題を、講演会当日になってもまだ完成させられないでいるのだ。


山崎は今、講演会の会場となる図書室で、

文化祭の担当者や教師と打ち合わせをしているはずである。



寿々菜は自分に向けられている顔を一つ一つゆっくりと見た。



・・・いない。

もしかして、辞めちゃったのかな。



ホッとしたような、ガッカリしたような、複雑な気分になる。


「ねえ。森田君は?今3年だよね?辞めたの?」


寿々菜的には名演技とも言えるさりげなさで、3年生の女子に聞く。


「森田君、一昨日の休み時間に階段から落ちて足を骨折しちゃったんです。

だから今日はお休みです」



また!?



寿々菜は苦笑した。


「じゃあ、辞めた訳じゃないんだ?」

「はい。でも3年生は今日の公演で引退なのに、休みだなんて残念です」

「あ、そっか。演劇部は文化祭の公演で最後だったね。森田君の役は大丈夫なの?」

「森田君は3年生になってからずっと脚本担当だったから、大丈夫です。

人気者だし演技上手だから、本当は舞台に立って欲しかったんですけどねー」


怪我はさておき、どうやら「森田君」は元気にやってるようなので、

寿々菜は取り合えず安心した。

同時に、彼に今日の講演を聴かれなくて済むということが、何よりラッキーだ。



だってあの子、絶対に笑うもん。



部員達は寿々菜にお茶を出すと、

「劇の準備があるから」と言って全員部室を出て行った。

寿々菜は1人、部室の中を歩いてみる。


部室と言っても普通の教室と変わらない。

ただ、劇で使う手作りの大道具や小道具が所狭しと並べられていて、

まるで本物の劇団のようだ。


床にはみ出したペンキ、

片方のスピーカーが壊れたラジカセ、

配役が書かれた黒板・・・


全てが昔のままだ。



もしかして、アレも昔のままかな?



寿々菜は廊下に誰もいないことを確かめて、

部室の黒板の下に置いてある教壇に手をかけた。


が、押しても引いても動かない。

いつもは2人で動かしていたから簡単に動いたのだが・・・


もう一度教室の中に人がいないことを確認し、

今度は足で思いっきり押してみる。

すると少しずつではあるが、教壇がズリズリと動いた。


その下の床から、80センチ四方くらいの正方形の扉が現れた時には、

寿々菜は汗だくになってしまっていた。

しかしそんなことも気にならない。


実はこの扉、家のキッチンによくある床下収納の扉のように見えるが、

寿々菜の秘密の扉なのである。


寿々菜は初めてこの扉を見つけた時のようにワクワクしながら扉のフックを引いた。

扉がゆっくりと持ち上がる。


床から完全に扉を外すと、

寿々菜はその中を覗き込んだ。


そこには4畳ほどの空間が広がっていた。

高さは1メートルほどで、寿々菜が開いている扉は、ちょうどその部屋の天井部分にあたる。


小窓もあって、明るいという程ではないが、

おしゃべりをしながらお弁当を食べるには充分だ。


寿々菜はエイッとその中に飛び込んだ。

中から扉を引き摺って閉めると、部屋は少し暗くなったが、

次第に目が慣れてきて小窓からの光だけでも部屋の全容が見えてくる。


古ぼけた板張りの床と、運動場に面している小窓。

そして、天井の扉へ登る為の段ボールと、

場違いなほどポップな柄のプラスチックのローテーブル。


寿々菜は頭が天井にぶつからないように中腰のままテーブルに近づいた。

テーブルには派手な色ペンで、

「卒業してもずっと友達だよ!」

「この部屋を見つけた人へ。ここは私達の大切な場所です。大事に使ってくださいね」

と、書かれてある。



まだ、残ってた!



寿々菜は嬉しくなって、テーブルの中に足を突っ込んで座った。

昔のように。




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