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第12話 再び1年半後

あの時は、本当に怖かったなあ。



講演会場である図書室へ向かう途中、

寿々菜はあの生物室の前で足を止めた。


1年半前、少女の幽霊を映し出した鏡をそっと触る。


あの翌日から、寿々菜と森田は以前ほど不仲ではなくなった。

それはキスしたからではなく、一緒に恐怖体験をして一種の絆が生まれたからだろう。

そして、寿々菜と森田が「あの夜のこと」を話しているのを誰かが聞いたのか、

七不思議は本当らしい、という噂が蒼井中内を席巻した。


と言っても、もちろんそれは生徒達の間だけのことで、

教師達は迷惑がりつつも、「ああいうことで騒げるのは若い証拠だな」と微笑ましく思っていたようだ。


ちなみに大橋は何事もなかったように授業を行い、平気で夏帆を指したりした。

寿々菜は改めて大橋に怒りを覚えたが、夏帆自身が「もういいの」というので、

仕方なく目を瞑ろうとした・・・が、やはり、許せない。

という訳で、夏帆と森田と相談し、大橋のハズカシイ写真を職員室の大橋の机の中にこっそり入れておくという、ささやか復讐を実行した。



写真を見た時の大橋先生の顔、今でも忘れられないなあ!



寿々菜は1人でニヤニヤしながら、何気なく生物室の中を、扉についている小窓から覗いた。

あの時同様、黒板の横に骸骨が立っている。

もちろん万歳などしておらず、両手はダランと垂れ下がったままだ。


扉に手をかけると鍵はかかっておらず、寿々菜は生物室の中へ入ってみた。


あの後しばらくは、生物室に近づくのも嫌だったが、

さすがにもう卒業したし、今は朝だ。

こんな時間に七不思議も何もないだろう。


今では、森田とのキスを含め、あの夜のことは夢だったんじゃないかとさえ思える。


寿々菜は生物室の中をゆっくり歩いた。

小学校のように「机と椅子ってこんなにちっちゃかったかなあ」とは思わないが、

なんだか全てが小さく感じる。

実際、高校の生物室の方が大きいせいもあるかもしれない。



天井も・・・って、さすがに天井は低くはないか。

秘密の小部屋じゃあるまいし。



そう思って天井を見上げた時、

寿々菜の目がある物を捕らえた。



あれ?どうしてあれが、あんなところにあるんだろう?

・・・まさか・・・



「白木?」


突然声をかけられ、寿々菜はビクッとして振り返った。

見ると、扉のところに生物教師の井ノ口が立っている。


数ヶ月振りの井ノ口の頭には、白い物が増えた気がする。


「井ノ口先生!お久しぶりです」

「ああ。頑張ってるみたいじゃないか。今日もうちで講演会するんだろ?聞きにいくよ」

「はい・・・でも、恥ずかしいから、聞きにきてくれなくていいです」


謙遜ではなく本気でそう言うと、

井ノ口は懐かしい笑顔になった。


「相変わらずだな、白木は」

「先生こそ。・・・先生」

「ん?」

「先生も、相変わらず放課後にここの天井のチェックをしてるんですか?」


寿々菜の言葉に、井ノ口の顔から笑みが消えた。


「なんのことだ?」

「ずっと引っかかってたことが、やっと分かりました。

井ノ口先生、去年の4月に私と森田君がここに忍び込んだこと、知ってたんですね?」

「・・・」

「音楽室のピアノやベートーベン、水槽に細工したのは先生でしょ?目的は多分・・・」


寿々菜は天井を見上げた。


「あれ、ですよね?」


そこには小さな扉があった。

演劇部の部室の教壇の下にある扉と同じ扉だ。

一見、配管チェックの時に業者が入るような扉だが、

寿々菜はその向こうに何があるのか知っている。


「生物室の天井裏にも、部屋があるんですね?」

「・・・どうしてそう思う」

「この学校、何度も増改築されてるから、昔の教室とかがところどころに残ってるんです。

私、その一つを知ってます。そこにもここの天井にあるのと同じ扉がついています」


寿々菜は、扉の真下に移動した。


「井ノ口先生は、この上の部屋にある物を隠している。

だから夜の見回りの時、無意識に天井ばかりを懐中電灯で照らしてたんです。

それを見て私、おかしいなと思ったんです。普通、床とか壁を照らしますよね。

だけど、あの時はそれが分からず、ずっと引っかかってました。

・・・もしかして、今日もソレはここにあるんじゃないですか?」


寿々菜がそう言うと、井ノ口は呆れたように笑って、生物室の扉を閉め、鍵もかけた。


「白木はドラマの中だけじゃなくて、現実にも推理ごっこをやってるんだな」

「ちょっとした趣味です」

「迷惑な趣味だ」


井ノ口は靴を脱いで机の上に上がると、天井の扉を引いた。

演劇部の部室にある扉とは違って、当然下向きにパカッと開く。


井ノ口はその中に顔を入れると、中に向かって何かを話した。


・・・ほどなくして、井ノ口が天井の扉から顔を出し、

続いて、女の子の顔がそこからひょこっと出てきた。


分かっていたことなのだが、寿々菜は心臓が飛び出るほど驚いた。


井ノ口が少女の脇を持って、天井裏から机の上に下ろしてやる。

ジーンズのショートパンツに半袖のシャツを着た、見たところ10歳くらいの少女である。

真っ黒なおかっぱが印象的だ。


「驚かせて悪かったな。この子は和美かずみ。私の娘だ」

「この子が、白い服の少女の幽霊、ですね?」

「ああ。ちゃんとこの部屋の中にいろと言い聞かせてたんだが、

退屈になって出歩いた時に運悪くここの生徒に見られてね。

その時白いパジャマを着てたから、あんな噂が立ってしまった」


井ノ口が和美の頭をポンポンと叩きながら、申し訳なさそうな顔になる。


「どうしてこの部屋に和美ちゃんを?」

「この子の母親は、この子が小さい時に病気で亡くなってね。僕が1人で育ててるんだ」

「・・・」


和美は父親の背中に隠れながら、おずおずと寿々菜を見ている。


「小学校に上がるまでは、保育園で夜遅くまで見てもらってたんだが、小学生からは学童保育の後は家で1人で僕を待ってないといけなくなったんだ。だけど和美は寂しがり屋で引っ込み思案だから、かわいそうで・・・それで、この天井裏の部屋で僕の仕事が終わるまで待たせるようになった。ここなら、僕が時々見に来れるからね」

「そうだったんですか・・・」

「しかし、和美を見られてしまった」

「それで、七不思議の噂を流したんですね」


井ノ口が頷く。


「白い服の少女の幽霊の話だけだと、目立つからね。他にも6つの不思議な噂を作って、

流したんだ。そうすれば、生徒達の噂話も幽霊のことだけじゃなくなるし、

何より教師達が『ありがちな七不思議の噂だ』と思って、怪しく思わない。

だけど、やっと七不思議の話が定着してきた頃、また和美が生徒に見られたんだ」

「ここの外の廊下でキスしてたカップルですね?」

「ああ。和美がトイレに行くために下りて来た時、偶然キスしてるカップルを見つけてね。

興味本位で思わずじーっと見てたそうなんだ」

「だって!」


突然、和美が高くて小さな声を上げた。


「あんなとこでキスしてたら、見ちゃうよ!」


不本意とは言え同じ場所で同じ事をした寿々菜としては、耳が痛い。


「まあ。そうだな」

「でも私に気付いたら、男の子は女の子を放り出して、先に1人で逃げちゃったけどね」


そこは森田とは違う。

森田はちゃんと寿々菜と一緒に逃げてくれた。


井ノ口が和美から寿々菜に視線を戻した。


「だからもう一度、他の6つの不思議についても噂を強める必要があった」

「それであの日、学校に忍び込んだ私と森田君に、色んな細工を見せたんですね」

「いや、違う」

「へ?」


井ノ口は首を振った。


「僕が細工を見せたかったのは、君だけだ。森田は違う。森田は僕の協力者だ」






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