『記憶の回廊』 第3章 飛躍 【1】調査と把握
颯太と桑崎教授の繋がりは、ついに企業と大学を結ぶ大規模な共同開発へと発展します。
しかしその道程に、過去からの影が立ちはだかります。
『記憶の回廊』 第3章 飛躍【1】調査と把握
4月、日本総合商事に入社した颯太は、大企業の持つ圧倒的な力を目の当たりにした。
事業展開を支える緻密な組織、膨大な資金、自社研究所や数多くの子会社、そしてその動きを狙う外部組織――。
法務特許部だけでも二十名の精鋭がそろい、外部調査会社とも契約を結んでいる。中小企業が太刀打ちできない総合力。その全てを統括する柳社長の手腕に、颯太は改めて感嘆した。
社では、T大学との産学連携プロジェクトが計画されていた。
颯太はその実態調査のため、大学のオープンラボ訪問を桑崎教授に依頼し、並行して派遣研究員の調査も進めた。
桑崎教授は「水素発電と新型全個体電池結合」の研究成果が認められ、教授に昇進。共同開発先を探す中で、颯太に連絡を入れた。
「会社勤めはどうですか?」
「毎日が新しい経験で、楽しいです」
「実は“水素発電と新型全個体電池結合”の開発を始めています。日本総合商事と共同研究できないでしょうか」
颯太はすぐに役員の小菅を訪ね、提案を持ち込んだ。
「期間は?」
「6~7年は必要です」
「わかりました、役員会にかけます」
数日後、役員会の承認が下り、T大学との共同開発が正式決定。颯太もプロジェクスタッフに加わった。翌年、桑崎教授は新型全個体バッテリーの基本構想を学術誌『ネイチャー』に発表し、世界的な注目を浴びる。
そんなある日、教授室に「全日本サイエンス株式会社」の名刺を持つ二人が現れた。高梨社長と黒沢会長――黒沢の顔に、颯太の封印していた“留萌の記憶”が反応する。
「他社と進行中ですので難しいと思いますが…」
「弊社もオープンラボに参加し、技術者を派遣しています。ご検討願えませんか」
残された会社案内を見て、教授は事務局に問い合わせる。
「全日本サイエンスの研究テーマは?」
「固形電池です」――それは桑崎教授の研究と重なっていた。
颯太は社に戻ると「留萌調査」の出張願を提出。許可を得ると調査会社の金沢夏美に連絡した。
「全日本サイエンスは品川インターシティ10階にオフィスがあります。調査をお願いします」
「承知しました」
こうして、過去と現在を結ぶ調査が動き始めた。
ここから物語は、現在の開発戦と“留萌”を舞台にした過去の因縁が絡み合っていきます。
記憶の回廊が導く先に、颯太は何を見るのか――ご期待ください。