すれ違い
「じゃあ、お邪魔しました」
「うん、気をつけて帰ってね」
「うん、ありがとう。
また明日仕事終わったら来てもいい?」
「今日も仕事終わりに来てくれたし、さすがに明日はそのまま日曜日まで自分の家でゆっくりしたら?月曜日も仕事でしょ」
「俺は蓮と会う方が元気出るんだけど」
「それなら俺はいいけど。
明日また着く時間教えて。夜ご飯作って待ってる」
「うん、わかった。ありがとう。
じゃあまたな」
「バイバイ」
俺たちは付き合って6年が経った。社会人になって3年目に入り、仕事にも慣れ、お互いの家を行き来することも増えた。社会人になったばかりの頃は、仕事やお互いの生活リズムがなかなか合わず喧嘩することも多く、すれ違うこともあったが、お互いに試行錯誤をして慣れてこれば、自然とぶつかることも減っていた。
最近は高頻度で翔が俺の家に来ることが増えてきて、もうそろそろ同棲してもいいのかなあ、と俺は思っているが、まだ話をしたことはない。一緒に住んだらこれしたいよね、と希望の話をすることはあるが、じゃあ、実際にしよう!家探ししよう!と発展するような雰囲気ではないことは確かだ。
ピコンッ。携帯の画面が光り、ゲーム仲間のエムからメッセージが届いた。あ、もう22時か。明日は土曜日で仕事が休みだから、エムとゲームをする約束をしていた。エムはいつも仕事が終わるのが遅いため、エムが落ち着いたら連絡が来て、それからゲームを始めるのが通例になっていた。
「もうロータスから言っちゃえば?」
「同棲したいって?」
「そう、結局どっちかが言わないと始まらないし、翔さんの気持ちも聞くべきでしょ。
なにか考えがあるのかもしれないし」
「それが、もし、同棲したら別れにくくなるからとかだったらどうするんだよ」
「6年も付き合っててそんなことある?
家だってよく来てるじゃん」
「付き合いが長くなると情が移って、翔は優しいから別れを切り出せないとかあるかもしれないだろ」
「でもちゃんと言葉にしてくれるんでしょ」
「それは、そうだけど、嘘かもしれないだろ」
「それは翔さんに失礼だよ。これまでだって言葉で伝えてきてくれた人だし、嘘つくような人でもないでしょ」
「・・・・うん」
それは分かってる。いつだって、俺が不安そうな時も、嬉しそうな時も、なんでもない時にだって、言葉や態度で伝えてくれていた。6年経ってもそれは変わらない。でも、本当にこのままの関係性でいることが翔のためになるのか、分からなくて不安なのだ。結局俺たちは、いまの今まで家族にすら伝えていなくて、それは全部俺のわがままで。これまで何度も翔には気を遣わせてきた。翔は、蓮の気持ちが1番だからと言ってくれているが、それを負い目に感じないわけではない。翔が俺を家族に紹介したいと思っていることも知っている。さりげなく、友達という程でいいから家族に会ってくれてない?と言われたこともある。その度におれは断ってかわしてきた。結局俺は自分が可愛いのだ。先に進んで傷つきたくないから、その時俺は立ち直れる自信がないから、誰かに知られることを恐れてる。
「まあ、ちゃんと翔さんと話し合いなよ。
6年付き合えることはすごいことだけど、お互いに人生があるし、これからの方が長いんだから。先に進むにしろ、別れるにしろ、お互いが納得して進まないと一生引きずることになるよ」
「うん、わかった。
エムありがとう。また連絡する」
ブチっ。俺はしばらく暗くなった画面を見つめ、翔とのこれからについて考えていた。
結局俺は同棲のことを翔に言い出せずに2週間が経った。その間に、翔の家に行ったり、俺の家に翔が来たりと俺たちはいつものように過ごした。俺が悩んでいることにうすうす気づき始めた翔に、「蓮、言いたいことがあったらいつでも言ってね」と何度か言われた。
_______
「いやー、なんか悩んでるっぽいんだよね」
「誰が?」
「俺の好きな子」
「ああ、本当に実在するか怪しい子ね」
「いや、だから本当にいるんだって!」
「じゃあ、写真見せてよ」
「それは無理。嫌がるから」
「ふーん、やっぱりいないんじゃないか」
「いや、だからいるんだよ!
てか、今そんなことはどうでもいいから。
絶対俺に何か言いたいことがあるはずなんだけど、俺が促しても、ううん大丈夫、としか言わないんだよなー」
「まあ、本当に実在するとして、それって普通にお前が信頼されてないからじゃね?
それか別れ話か」
「え!?別れ話とか無理!あり得ない!
・・俺何かしたかなあ。最近、あっちの家に行きすぎてめんどくさくなってきたのかな、」
「どれだけのペースで行ってんだよ」
「え、週4」
「そりゃお前行きすぎだろ!
その子にだって予定とかしたいこととかあるだろうに、そんな頻度で来られたらお前のために帰らないといけなくなるだろ。仕事だってしてて疲れてるだろうに」
「これでも我慢してる方なんだけど!」
「いやいや、週の半分お前で潰れるって相当ストレスだよ?お前の家に来て会うこともあるなら、ほぼ2/3くらいは潰れてるだろ。
話して欲しいなら一旦、頻度を減らしてちゃんとその子が自分の時間使えるようにしてあげろよ。今のままだとお前愛想をつかされて離れていかれるぞ」
「・・・はあ、俺、頻度減らすなんて耐えられるかな」
_______
いつからか、翔が俺の家に来る頻度が減った。たまに仕事が忙しいときはそういう時もあったから今回もそれだろうと思っていたが、しばらくしても回数が増えることはなかった。
・・・・俺飽きれられた?確かに最近は服装とかも気合いをいれないこともあるし、ラフなものを着ていることも多い。ご飯も簡単にできるレシピ!みたいなが多くなってきたけど、でも、それは翔が無理しなくても一緒に食べられるだけでもいいって言ってくれたからで。あ、でも翔が思ったよりそういう料理が増えすぎたとか?翔に俺の家の掃除とかも任せること増えたし、寝癖も前は可愛いって言ってくれてだけど最近は言われないし。考えれば考えるほど不安が募る。あのモテる翔に俺は何を与えられているんだろう。甘えが出過ぎたのだろうか。
「えー、そうかなあ」
「だって、明らかに減ったんだぞ!
絶対俺が愛想尽かされたとしか・・・」
「俺には、あの翔さんがロータスに愛想をつかすとか考えられないんだけど」
「そんなの分かんないだろ。会社の新人の子がめちゃめちゃ可愛くて、好きになっちゃった、とか、」
「ちょ!泣くなよ。絶対それだけはないって。
もしそうなったとしても、翔さんはそうなった時にちゃんと言ってくれるでしょ」
「じゃあ、俺もうすぐ言われる、かな」
「いやいやいや、そうじゃなくて!
とにかくそんなに気になるなら聞いてみたら?」
「絶対無理!翔に真実をつけられたら俺生きていけない・・・」
「じゃあ、どうすんのさ。今のままってわけにはいかないでしょ。ロータスだってしんどいだけじゃん」
「俺、頑張る」
「は?何を」
「翔がもう一回好きになってくれるように、自分磨きして、服装もご飯も掃除も全力で気を遣う!」
「あー、そっちに行く?」
「エム応援してて。
絶対俺は翔を取り戻して見せる!」
エムが何かを言っている気はしたが、俺は今それどころじゃない。翔の気持ちを取り戻すために今日から再スタートするんだから!!
______
「じゃあ、俺帰るわー。
また来週来る」
「あ、うん。なんか早いね」
「まあ、明日も仕事だからなー。じゃあ」
「・・・うん、気をつけて」
俺は同僚の酒井に言われたように、蓮の家に行く回数を減らした。たまたま仕事が忙しくなった時期と重なったこともあり、回数を減らすことには成功した。ただ、かなり辛い。いつまで耐えられるかが俺の課題だが、蓮の顔を見るとどうしても誘惑に負けそうになる。最近はなぜだが、俺が帰ろうとすると寂しそうな顔をすることが増えたため、今すぐ蓮の家に戻って抱きしめたくなる。はあ、これいつまで続ければいいんだよこれ。
「もう、俺耐えられないかも!
だって、めちゃめちゃ寂しそうな顔をするんだよ!?俺の家に来た時は前より長居すること増えたし、まあ、それは嬉しいんだけど」
「おー成功してるじゃん」
「は?成功?あんな顔させてるのに?」
「でもお前のこと好きだからそういう顔してくれるようになったってことだろ?
もう少し続ければ、そのうちあっちから翔にその聞きたかったという話をしてくれるようになるんじゃね?」
「それ本当かよ?でもまあ、引き止めようとしてくれることもあるしそういうことなのかなあ、」
俺はそのあともしばらく蓮の家に行くのを控えた。かなり辛かったが、ピークを越えればなんとか耐えられるようになってきた。俺の家に来た時は長く居てくれるようになったのが嬉しいというのもあった。まあ、終電間近まで居ようとするため、危ないからと早く帰すようにするのには骨がおれた。それに関してはもう少し強めに言うべきかもと思っている。なんといっても蓮は可愛いのだから。帰り道に変な奴に絡まれても困る。帰るまで電話できればいいが、電車で帰るからそうはいかないのがジレンマだっだ。
あと、変わったことといえば、蓮が俺に家のことを頼まなくなった。最近はゴミ捨てとか掃除は俺がやることが増えていたが、ここ最近は家に行けば綺麗に片付けられている。料理も手の混んでいるものが出てくることが増えた。俺がそんな手の込んだものじゃなくてもいい、といいうと悲しそうな顔をするので言いづらくなって、最近は代わりに美味しい!をたくさん伝えるようにしている。これがいい変化なのかは分からないが、蓮は確かに変わってきているので成功なのかもしれない。
「蓮ー、お邪魔しまーす」
酒井との飲み会やら実家の用事やらでなかなか蓮と会えず、今日は1週間ぶりに蓮に会う。俺は合鍵で蓮の家に入った。蓮にはもうすぐ着くと連絡は入れている。
「いらっしゃい」
「え!!?なにそれ!可愛い、似合ってる!
新しい服?どこで買ったの?いつ買ったの?なんで今日それ着てるの?何かあったけ?」
「ちょ、ま、待って翔。
そんな一気に聞かれても答えられないよ」
「だって可愛い!最近服買ってなかったのにどうしたの?あー、今日も明日も仕事なのが悔しい!絶対次のデートで来てきてよそれ」
「そんなに似合ってる?」
「うん、もちろん!
いつものカジュアルな格好も蓮の良さが際立っていいけど、今日のシャツコーデもめっちゃ可愛い!今日休みだったから買いに行ったの?」
「うん、翔に久しぶりに会うからせっかくだしと思って」
「俺のために買って、俺のために着てくれたってこと?」
「そう、だよ。別にいいでしょ。
付き合ってるんだから」
「俺ちょっと幸せすぎるかも!」
最近は、蓮と距離を置くことばかりに気が取られていたから上手く話もできていなくて正直寂しいところもあった。だから、耳を赤くして照れている可愛い蓮も、嬉しそうな蓮も久しぶりでなんだか心地良かった。
結局その日は、可愛すぎる蓮に負けて、蓮の家に泊まった。
________
あれから1週間半が経った。
明日は蓮の家に行かないようにし始めてから初めてのデートだ。今日は華金ということで、同僚の酒井と広川と飲みに来た。
「ほんっとにこないだ可愛くてさ〜」
「ああ、例の子?」
「例の子って誰?」
「ああ、本田の彼女。俺は妄想だと思ってるけど」
「え!?あんた彼女いたの?」
「・・・あー、ま、そんなとこ」
「なんだよ、その反応。やっぱりいないんじゃないか」
「いや、ちゃんといるから!
こないだもさ、久しぶりに会うからって俺のために新しい服を買ってきててさ!
俺のために買ってくれたの?って言ったら、照れくさそうにしながら付き合ってるからいいだろって。もうほんと可愛すぎ」
「ああ、そうかよ」
「なんか本田の惚気ってイメージになくて意外だったけど、なんかこれはこれで人間ぽくていいわね」
「いやー、酒井ほんとありがとう!
あの作戦成功してるかも」
「そりゃ良かったよ。気になってること聞けるといいな」
「おう。でも最近そんな素ぶりないから、頻度のことを言おうと思ってたんじゃないかなーってだし、このままの回数で行こうかなと思って」
「ねえ、作戦って何?
・・・一応聞くけど、夜のことじゃないよね?」
「は、違うわ!そんなの同僚とはいえさすがにお前がいるところで話さないよ、俺」
「いやでも頻度とかそれくらいしか思いつかないから!だから念の為聞いたのよ。酔ってて忘れてるかもしれないけど、私いるよっていう意味も込めて。
それで、なんの作戦?今の感じだと、本田とその相手に関する話なんでしょ?」
「うん。こないだなんか本田の相手が、本田に言いたいことあるけど言ってくれないって悩み相談されて。その時、週4で相手の家行ってるって聞いて、絶対それが鬱陶しいんだろって。んで、頻度減らしてなんか上手くいった感じ」
「・・・・ねえ、それちゃんと相手に聞いた?
頻度減らそうか、とかもしかして鬱陶しい?とか」
「いや、聞いてないけど」
「あんた馬鹿なの?
その後その子どうなったのよ」
「え?どうなったって、」
「態度が変わったところないの?
明らかに寂しそうにしてる、とかさ」
「まあ、俺が帰るときは寂しそうにしてるけど、俺の家に来た時は長くいてくれるようになったし、俺があんまり行かなくなったからか掃除の頻度も減ったみたいで前みたいに頼まれることなくなったし、それに、料理も手の込んだもの作れるようになったみたいで、前行った時は料理本が何冊かあったな」
「はあああ!?あんたそれで成功してるとか思ってんの!?違うから!全然違うから!むしろ逆だから!」
「え、どこが間違って・・・」
「間違いすぎよ!!前まで週4で来てくれたのになんの話もなく急に頻度減ったら不安になるに決まってるじゃない!
寂しそうな顔をするのも長居するようになったのももっと長く一緒にいたいからだし。掃除を頼まなくなったのはめんどくさいと思われたくないからで、料理が手の込んだものになったのはあんたを喜ばせて心が戻ってくればって思ってる証拠だから!」
「いや、でも言いたそうにすることなくなったから、合ってるんじゃ・・・」
「それはそれどころじゃなくなったに決まってるでしょ。好きな人の気持ちが離れているかもしれないのよ?誰も自分に愛想を尽かしていそうな人に相談ごとなんてするわけないじゃない」
「おれは、せ「酒井は黙ってて」 ・・すまん」
「とにかく今すぐその子の家に行って」
「え、なんで。俺あいつに行くって言ってな・・・」
「いいから行く!
あんたこのままにしてたら取り返しのつかないことになるわよ。分からなくてもいいからとにかく行って、ちゃんと説明してあげなさい。
これで間違ってたら今度ご飯奢るから」
「わ、わかった。行くから。
んじゃあ、これお金。あとよろしく。またな」
「はあ、、、。
酒井、なんであんたが結婚できてるのか不思議だわ。奥さんに感謝しなさい」
「なんか、すまん」
広川に言われた通りに蓮の家に向かった。正直、広川の言ってることはよく分からない。理にかなっている気もするけど、別に蓮が不安そうな顔をしているところを見てはないし、上手く行ってると思ってる。まあ、でもどうせ明日会うからちょっと前倒しになったと思えば変わらないだろう。
居酒屋を出てから30分ほどで蓮の家についた。時刻はもう23時半。蓮は寝てるかもしれない。俺は合鍵を使ってゆっくりと玄関の扉を開けた。
・・・明かりがついている。まだ起きてるのかな。中から蓮の声がする。もしかして、ゲーム仲間と・・・・・
「俺たちもう別れた方がいいのかもしれない」
・・・・は?
_________
翔が俺の家に来る頻度が少なくなって、おおよそ1ヶ月が経つ。料理の本を買って手作り料理を振る舞ったり、掃除は自分でするようにしてみたが何も変わらなかった。新しい服を着たときはいつもみたいに喜んでくれたが、頻度が増えることもなくあれからもう1週間半も経った。明日はデートだから今日来るかな、と思ったけど、飲み会があるからと断られた。いつもなら来るのに。
プルプルプル、プルプルプル。
「もしもし」
「あ、ロータス、出た。
僕暇なんだけど、今からゲームしない?」
「エム、俺たちもうダメかもしれない」
「え?」
___
「ふーん、なるほどね。
でも翔さんの反応的に好きじゃなくなったとかじゃなさそうだけど」
「でも飲み会に結構行ってるみたいなんだよ。
それって新しい出会いを探すためとかだろ?」
「それが合コンだったらそうだろうけど、合コンってわけでもないんでしょ?」
「それは分かんない。
明日は?って聞くと、夜用事があるとしか言わないから」
「あー、なるほど」
「俺たちもう別れた方がいいのかもしれない」
「は?なにそれ」
「え?なんで・・・」
「なんではこっちのセリフ。何、別れた方がいいって。俺と別れたいってこと?
蓮が言いたかったことってそれ?」
「言いたかったこと?なんのこと言ってるの?
ちょっと待って。
エムごめん。一旦切るわ。またな」
俺は電話を切り翔の方を向いた。翔は怒ったような苦しいような顔をしていた。
「翔、今日は飲み会じゃなかったの?」
「同期が蓮と話し合った方がいいからって早めに帰してくれたから・・・。
蓮は俺と別れたいの?」
「それは翔の方でしょ」
「え?」
「家に全然来なくなったし、今日だって誘ったのに飲み会に行くって。
俺が翔の家に行った時も早く帰そうとするし」
「それは、蓮が俺のこと鬱陶しいかなって。最近蓮の家に行きすぎてたし、あと夜道は危ないから」
「危ないって俺そんな弱くない。
それに、鬱陶しいなんて俺言ったことないと思うけど」
「でも前なんか言いたそうにしてたじゃん。俺が聞いても大丈夫としか言ってくれなかったけど。蓮の家に行く頻度を減らしたら、言いたそうにしなくなったから、やっぱり鬱陶しいって思ってたんだ、って」
「言いたそうにしてた?・・・あ、それは」
「もう少し減らしてって言いたかったんだよね?ほんと俺お邪魔しすぎてたよね。ごめんね。
蓮のこと全然気にしてなくて、自分のことばっかりで。最近は料理とか買い物とか自分の時間過ごせるようになってるみたいで良かったなって思ってる」
「まって、翔違う。俺が翔に言いたかったのはそんなことじゃない」
「じゃあなんだよ。俺とやっぱり別れたいの?」
「違う、そうじゃない!
同棲しない?って聞きたかった、んだよ」
「同棲?」
「付き合って6年経って、どっちかの家に一緒にいることが多くなってきてたから、もったいないしもういっそのこと一緒に暮らした方がいいんじゃないか、って思って。
でも、同棲するってことは1つ進むことで、翔はそれでいいのかなって。家族にすら関係を言えないような俺と一緒にいて、翔はこの先幸せでいられるのかって不安になって。
翔はきっと俺のことを幸せにしてくれるけど、俺はいつもわがままばかり言って困らせているばかりじゃないかって思って。だから言えなくて。
・・・翔、後戻りするなら今だよ」
「俺、蓮のわがままで困ることも嬉しいって思ってる。いつも人に気を遣ってばかりで、本当の自分を隠しがちな蓮が、俺にだけはそうやってあれは嫌、これは無理って言ってくれるのが嬉しい。心を開いてくれているって思ってる。それに、蓮はちゃんと俺の意見だって聞いてくれて、ちゃんと受け止めてくれて、蓮なりに行動してくれてることも知ってるよ。
俺は蓮といるからこれまでも今もこれからも幸せだよ。だから、そんな悲しいこと言わないで。俺は蓮と一緒にいたいよ。一緒にいさせてよ」
「・・・うん」
「れーん」と言いながら翔が泣いている俺を抱きしめた。その温もりは久しぶりでとても温かかった。
俺と翔は久しぶりに同じベットで寝た。2人で寝ることになるでしょ、と言って、あの頃の自分たちにしては奮発して買ったダブルベットは、1人で使うよりも2人の方がしっくりきた。
「蓮、明日のデートはあの服着てよね」
「そんなにあの服よかったんだ」
「もちろんあの服も似合ってたけど、それよりも俺のための服っていうところがいい」
「なんだよそれ笑」
「あと、明日不動産行くぞ」
「え?」
「同棲するなら早い方がいいだろ」
「・・・いいの?」
「当たり前だろ、何言ってんだよ。
確かに家族に言いたいって思うことあるけど、言ってないから嫌いとか言ってるから好きとか俺はそんなことで蓮への気持ち決めてるわけじゃないから。俺はずっと一緒にいる覚悟だよ」
「嬉しい、ありがとう」
俺は思わず翔に抱きついた。目から溢れる涙は翔の服を濡らしていたが、そんなことはお構いなしにしばらく抱きしめていた。




