表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/25

ファイル3 大場真:前編

 霊体:「嘘だ!おじさんは嘘付きだ。ママが僕のこと嫌いなわけないもん」

 成り代わりを解いた好子さんが腕組みをする。もう少し優しい言い方できないの?と視線で伝えてくる。


 玲子さんは眠っているから、まだ良かったものの、俺は、これは長引くんじゃないかと思った。できるだけ声色を高くして、ゆっくり、優しく話しかけた。


 山本:君はね。もう還らないとといけないんだよ。この世での役目を終えたから元の光の世界に還らないといけないんだよ。


 霊体:嘘だ嘘だ嘘だ!ママはずっと僕のこと呼んでるんだもん。ずっとそばにいるって言ってるんだもん。おじさんなんか嫌いだ!


 好子さんは、また成り代わりを解いて少し咳き込む。

 

好子:泣いてますね。ちょっと待ちましょう


 子供はどうも苦手だ。話が通じない。自分の娘でさえ、どう扱えば良いかわからないのに、他人の子供なんてどうすればいいんだ。御守護の神様につながり、答えを求めているが、なかなか的を得ない。「子供の話を聞いてやりなさい」と言われても、その子供が話さない。


 好子:この子、玲子さんに抱きついてますね。

 好子さんは息を整え、大きく呼吸する。


 好子:この子のお爺さんでしょうか?お父様の方のお爺様が来られました。背中をさすっておられます。


 山本:お話をされているのでしょうか?


 好子:そのようです。もう一度成り代わりをいたします。


 山本:君は今誰といるんだい?


 霊体:おじいちゃんって言ってる。迎えにきたよって。


 山本:おじいちゃんは君と一緒に行こうって言ってる?


 霊体:うん。でも僕ママの方がいい。


 山本:ママが好きなんだね。でも、おじいちゃんも君の事とっても大好きなんだよ。


 霊体:うん、そう言ってる。でもママと離れたくない。


 山本:そっか。でもね、ママからは君が見えないんだ。ママはもう君の事を抱っこできないんだよ。君から呼んでもママは返事をしてくれるかい?


 霊体:うぅん。きっと僕が悪いことしたからママは怒ってるんだよ。


 山本:何をしたの?


 霊体:僕がなかなか元気にならないから。僕がご飯食べなかったから。僕が、ママとの約束守らなかったから。


 山本;どんな約束をしたの?


 霊体:元気になったら僕が、目玉焼き作ってあげるって言ったの。ママ目玉焼き大好きだから。でも僕できなかった。


 目頭が熱くなる。だから子供は嫌なんだ。


 山本:そっか。それでママのために目玉焼きを作ってあげたくてそこにいるんだね。


 霊体:そう。だから僕、ママに食べさせてあげたいの。


 山本:そうなんだね。でもね、君はもうたくさんの幸せをママにプレゼントしてるんだよ。知ってたかい?


 霊体:僕何もしてないよ。


 山本:君がママのところに生まれてきて、一緒にいた6年間だよ。その6年間をプレゼントすることが君の魂の目的だったんだ。


 霊体:僕、よくわかんないや。


 山本:君と一緒にいる時のママはとても幸せだったんだよ。でもね、君はお空の上で約束をしていることがあるんだ。それは守らなきゃいけないんだよ。


 霊体:約束?


 山本:そうだよ。6年間をプレゼントしたら、お空に還るんだ。神様たちみんなと約束してたんだよ。ママは君が神様との約束を破る方がとても心配なんだよ。


 霊体:そうなの?でも僕覚えてない。


 山本:うん、だからおじいちゃんが迎えにきてくれてたんだよ。


 好子:今この子の祖父の方が、抱きかかえられました。成り代わります。


 山本:おじいちゃんと一緒に行ってくれるね。


 霊体:うん。ねぇ、僕またママに会える?


 山本:会えるよ!お空の上でおじいちゃんと一緒に待っていれば、ママにも会える。だから心配しないで、おじいちゃんと帰るんだよ。


 霊体:うん。わかった。ママ、僕待ってるからね、それから目玉焼き作れなくてごめんなさい。


 好子:準備が整ったようです。


 山本:お還りください。


 パン!


 ふぅ。両肩を動かしほっと息をついた。玲子さんは、号泣に近いくらいだった。テイッシュボックスを渡すと、何枚かとり顔を覆った。

 その後、セラピーを終えて、来客用の肘掛け椅子に座り休んでもらった。


「これで、悠斗は成仏したんですね。」


「はい、お母様のこと大好きだったんですね。小さい子はよくあるんです。」


 好子さんにも娘がいる。同じ子を持つ親として、子に先立たれる辛さは痛いくらい突き刺さる。


 玲子さんはまだ少し涙ぐんではいるが、魂をピカピカにした「たまピカ」の後だったので、表情は明るかった。


「もう2年も経つなんて。本当に昨日のことのようで。悠斗が元気だった頃が」


 突然玲子さんの携帯の着信が鳴った。


「すみません、ちょっと失礼します。」

 玲子さんはそういうと、部屋を出て行った。


 玲子さんは、2年前、長男の悠斗君を病気で亡くされていた。ただの風邪だと思っていたが、気が付いた時には手遅れだったらしい。玲子さんはその後かなり自分を責めてしまい、心療内科にかかっていた。たまたま、クリニックでセラピーの話を聞き今日ここに来られたのだ。


「すみません。」

 ドアが開き、玲子さんが入ってくる。


「大丈夫ですか?」

「えぇ。大丈夫です。今、離婚の決着がつきました。」

「え、あ、そうでしたか」

 俺は、危うく机の角に腰をぶつけそうになった。


「大丈夫です。そんな顔しないでください。前から進めてたことなので」


 玲子さんは、もう一度座るとポツリと話し出した。


「もう別居してたので。まさかこのタイミングで電話がくるとは思いませんでした。」


 何かが終わると確かに俺は始めに伝えたが、こんなに早く来る人は初めてだった。玲子さんは、もう一度席に着くと、好子さんに質問した。


「あの、悠斗を迎えに来たのって、父方の祖父なんですか?母方、私の父じゃなくて。」


「はい。父方のお父様ですね。」


「そうですか、、確かに義理の父はもう亡くなっているんですが、悠斗が生まれる前なんです。全く面識がなかったので、なんでなんだろうと思って。私の父は生前悠斗をすごく可愛がってくれていたんです。去年癌で亡くなりましたが、どうして迎えに来たのが父じゃなかったんだろうって思って。」


 玲子さんの話を、うんうんと頷きながら、好子さんは聞き、ゆっくり答えた。

「はい。どなた様も、どんなに親しかった方でも、元のご家族でも、魂の世界に向かい、生まれ変わりの世界に向かうと、もう過去世は関係なくなるんです。つまり、どなた様が亡くなれれても、過去世のご家族や親戚の方がお迎えに来ることは一般的ではないんです。」

 少し間を置くと、またゆっくり続けた。

 「しかし例外があります。ある方が魂の世界に向かった時にどうしても現世に心配な方がいらっしゃる場合、神様にお願いして生まれ変わりの世界へ行く前に「お見守り」の席に着くことを許されます。その方が現世におられるまでお見守りできるのです。」


 玲子さんは、好子さんの話に聞き入っている。好子さんはまたゆっくりと続ける。

 「そうした方はお迎えに来られることもあります。ですが、そうしたことは例外措置でありごく一部です。なので元のご家族の誰かが迎えにくるというより、「魂のご縁の深い方」がお迎えになると考えて頂ければと思います。悠斗君の場合、魂のご縁としては、父方のお父様とのご縁が深かったようです。」


「そうなんですか。」

 玲子さんは、初めて聞く話に聞き入ると、ボソッとつぶやいた。


「もし、私が死んだらまた悠斗に会えるんでしょうか?」


 好子さんは、一瞬目を閉じて少し考えた。

「会えるかもしれませんね。でもそれは悠斗さんの魂と神様が相談して決められることです。私からは、絶対に会えますよとは、言えないんです。」


 玲子さんは、また「そうですか。」と、呟くと、バッグからハンカチを取り出し、涙を拭った。くまのプーさんの黄色のハンカチだった。


「これ、悠斗のものだったんです。今日会えたらいいなと思って、持ってきてて。」

ハンカチを顔に押し当てながら、涙声で玲子さんは話した。

俺は何を言えば良いのかわからなかったが、好子さんはそっと優しく玲子さんの背中をさすった。


「悠斗くん、天の祝福を受けられましたから。もう大丈夫ですよ。」

「ありがとうございます…」

 ほとんど消え入るような声だったが、ハンカチを大切そうに握りしめた。


 俺は玲子さんをJR関内駅の改札まで送って行った。魂がピカピカになると、周りから色々なものがよってくるので、改札までのボディーガードだ。前にほんの数分外に出ただけで、男性からナンパされた人がいた。玲子さんは、容姿端麗と呼ぶに相応しい方だ


「お気をつけて」改札越しに会釈をすると、ヒールをコツコツ鳴らしてホームへ向かった。


 その時だ。

「あれ?山本やんな?」

 声の方を振り返る。阪神タイガースの応援グッズを全身にぶら下げた、大柄な男が大きな声で俺を呼ぶ。見てすぐわかった。大場だ。大場は高校の同級生で、昔よくつるんでいた仲間だ。


「え、何してんの?」


「ちゃうやん!見てわからんか?遠征やん!」


「わざわざ、横浜まで来たんかいな?」


「せやで、嫁がチケット当てよってん」


「こんにちわー。」

「あ、どうも、山本です。」


 おずおずと、横にいた小柄な女性に挨拶する。明日、東京観光をするからお前も来いよと言われたが、さすがにそれは無理だと断った。


「なんやおまえ、横浜に住んでるんか。魂売ったんか?」


「なんでや。売ってへんわ。」


 はははと、冗談を交わし俺は大場と別れた。

 その1週間後、大場は俺のセラピーを受けることになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ