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あなたの魂浄霊します 横浜関内特級ファイルI  作者: もちこ
【因縁霊と御守護の神様】
3/25

ファイル1 高木義夫:中編

ここからは、実際に行われている、対話での浄霊になります。

浄霊は、正式な修練を得た専門家が、正式な場で執り行うものです。

危険ですので、絶対に真似をしないで下さい。

以降、模倣防止のため、それら作法などの詳細は全て割愛させて頂きます。


ここからは、文章を対話方式に切り替えさせて頂きます。


好子: 口寄せ (霊に口を貸し、言葉を伝える。)

霊体:好子さんの口を借りて話す霊

山本:対話 好子さんの口を借りている霊と対話をする


 山本:これから「高木義夫さん」を「この方」と呼ぶ。今「この方」の周りにおられる貴方達にお伝えする。今この場で伝えたい事があるものは、前に進み出なさい。


 好子:来られました。女性の方、この方の母方のお祖母様のようです。ええそうです。それでは、成り代わりを致します。


 一瞬の沈黙が流れた。

好子さんは肩を震わせ目を閉じる。そして、先ほどと同じように口を開いたが、聞こえた声は好子さんのものではなかった。少しかすれた、老人のようなか細い声だ。


 霊体:あぁ、よしちゃん。可哀想に。


 山本:あなたは、この方の母方のお祖母様ですか?


 霊体:ええ。そうです。あー可愛いよしちゃん。こんな大変なことになってしまって。


 山本:あなたは、この方に何を伝えたいのですか?


 霊体:あの女から私は、よしちゃんを護らなくてはならないんです。


 山本:あの女とは誰ですか?


 霊体:ほら!そこにいるでしょ?あの忌々(いまいま)しい女が!


 俺は好子さんのように、霊体をはっきりと認識することはできないが、気配を感じることができる。張り詰めた空気が重くなった。好子さんが一度成り代わりを解いて、俺に状況を伝えた。


 好子:どうやらこのお祖母様、他の因縁霊からこの方をお守りされているようです。

「ふぅ」一息吐いてから、好子さんはまた成り代わりに入った。


 霊体:あんな恐ろしい女がいるのに、どうして私が、よしちゃんを置いていけましょうか?


 山本:この方がご心配なんですね。


 霊体:そうですとも!この子を護れるのは私しかいないんです。


 山本:この方をとても愛しておられんですね。


 霊体:当たり前ですよ。この子は体が弱くてね。夜中に何度も咳き込んでしまって、毎晩寝るのが大変で、大変で。飴を舐めさせては、よく子守唄を歌ったもんです。


 山本:あなたが面倒を見ていたんですか?


 霊体:ええ、そうです。娘達夫婦は、あの頃夜遅くまで働いていてね。代わりに私が見ていたんですよ。


 山本:この方を本当に可愛がっておられたんですね。


 霊体:ええ。だから、亡くなってすぐ、この子の後ろにあの恐ろしい女がいるのが分かった時にはゾッとしましてね。この子の側を離れるわけにはいかなくなったんです。


 山本:そうでしたか。この方が心配で、この方を護るために、あちらの世界へ行くことをやめられたんですね。


 霊体:ええ。そうです。


 山本:しかし、肉体を持たずに、魂だけとなった今、本当の意味でこの方をお守りすることはできません。この方はあなたの声を聞くことも、触れることも、ましてや顔を見ることもできません。


 霊体:・・・


 山本:どうか、この特別な日に本来向かうべき、光の世界へお還りください。


 霊体:そんなことできませんよ!この子をおいて。そんな…


 山本:ですが、本当はもうお分かりではないですか?このままでは、この方をお守りすることができないと。


 霊体:沈黙


「ふぅー」好子さんが長めの息を吐くのが聞こえる


 好子:この方黙ってしまわれました。


 こうなっては、もう俺の話は聞いてくれないかもしれない。好子さんと目配せして、もう一度深呼吸をする。空気が揺らぐ、締め切った部屋だが暖房の風とは違う、優しい空気が流れた。


 好子:今、このお祖母様のお母様が降りて来られました。お父様も一緒ですね。あちらの世界に一緒に還ろうとお話しされています。


 時間にして、わずか数秒といったところだろうか?一瞬の間をあけ、好子さんはまたすぐに成り代わりに入った。


 霊体:わがまま言ってごめんなさいね。本当に心配だったんです。


 山本:決心はつきましたか?


 霊体:はい。よしちゃん、よしちゃん。あー可愛いよしちゃん。どうか、幸せになって。


 かすれた声が涙声に変わる。高木さんの方に目をやると、寝ている高木さんの目から少し涙が出ていた。


 好子:準備ができました。

 好子さんは成り代わりを解いており、霊体を光の世界へ送る用意を整えた。


 山本:わかりました。それでは、お還りください。


 パン!

 と柏手を打つ。空気が軽くなった。さっきの霊体が、光の世界へ還ったのだと体で感じた。


 好子:上がられました。


 好子さんの言葉を合図に、軽く呼吸を整える。ほっとしたいところだが、そうも言っていられない。他にも霊体がいる。


 右手で拳を作り、左手でしっかり覆う。指の間が軽く汗ばんでいる。姿勢を正して、頭、胸、腹、足、つま先と自分の体がしっかりと、床から地面に繋がっていることを感じる。


 山本:他に「この方」に伝えたいことがあるものは、進み出なさい。


 好子:来られました。女性の方で、とても独特な雰囲気の、呪術師のような方。何世紀も前の中国でしょうか?蝋燭と鈴を持っています。


 好子さんは、うーむと、唸りながら容貌を伝える。


 好子:この方とは、今生での関係はありません。過去世の因縁です。千年以上前でしょうか?石で囲まれた集落のような、険しい山が見えます。それでは成り代わりをいたします。


 好子さんが成り代わりに入るやいなや、罵声を浴びせられた。


 霊体:あんたたち、チッ 一体何だい?あたしをこんなところに呼び出して!チッ


 とても不機嫌な女の声だ。癖なのだろうか、「チッ、チッ」と舌を鳴らす。


 山本:あなたは、この方とどのようなご関係ですか?


 霊体:コイツは、裏切り者だよ!あたし達を殺したんだ チッ!


 山本:裏切り者?


 霊体:チッ!コイツがあたし達の居場所を教えたんだ。女も子供もみんな殺された。とても(むご)い、(むご)いやり方でね。


 好子さんの口を借りた霊体はそう言い捨てると、好子さんに何があったのかを伝えた。ほんの数秒集中した後、俺に事情を話してくれた。


 好子:村が敵の兵隊から焼き討ちにあったそうなんです。その日は結婚式で、この呪術師の方が、祝詞(のりと)を唱えているところに、敵兵が来たようです。この方の過去世、当時も男性でおられたんですけど、この方だけがいなかった。敵に居場所を伝えて自分だけが逃げたんだと。そう仰ってますね。


 この霊体は、既に生まれ変わりを遂げた、高木さんの魂に今でも執着している。好子さんはまた成り代わりに入った。


 霊体:コイツに味あわせてやるんだ。チッ!幸せの絶頂が絶望に変わる恐怖を。あの苦痛を。すぐに殺したりなんかしないよ。ジワジワと何度もいたぶってやる。あたしらがされたようにね!目の前で大事なものが苦しんでいる様を見せてやる。


 高木さんから聞いた最近起きた出来事は、十中八九この霊体の仕業だろう。子供にも恵まれ、家庭も上手くいっていた頃に、まるで会社を継いだことを引き金にするかのように災難が襲う。

 

 山本:それで、あなたは満足なさったんですか?


 霊体:チッ!足りないね!こんなの全然話にならないよ。あたしらの苦しみと比べたら。


 山本:そうですか。村を焼かれたことさぞ苦しかったかと思います。でも、当時この方は村を裏切るような人だったんでしょうか?


 霊体:チッ、人はわからないもんだ。コイツは村長の息子だったんだ。だがあの時、コイツはいなかった。


 この霊体の言っていることが、もし本当だとしたら、強い恨みの原因にもなるが、何か変だ。嘘を言っているようにも思えないが、真実だと言う確証がない。果たして本当に裏切ったのは高木さんの過去世の男なのだろうか?


 山本:どうでしょう、せっかくの機会です。今日はとても特別な場を設けております。あの時一体何が起こって、どうして敵兵が来たのか、真実を見てみませんか?


 俺はこの時「御守護の神様」から真実を見せます。と、声が聞こえていた。


 霊体:チッ、まぁ、あんた達がどうしてもと言うなら見てやってもいい。

不機嫌そうな声に変わりはないが、こちらからの提案には応じてくれた。


 山本:わかりました。それでは。

 好子さんを見ると、既に成り代わりを解き、瞑想に入っていた。好子さんはこれから、当時本当は何があったのかを霊体と共に観るのだ。そして数秒後、ポツリと話し出した。


 好子:この呪術師の方、真実を知って震えています。密通していたのは、この呪術師の弟子の方です。

 結婚式の早朝、高木さんの過去世だった男性は、村を出て行く呪術師の弟子の後をつけ、敵と密通している事を知ったようです。急いで村に戻ろうとしたところを敵兵に見つかり、殺されています。

 弟子だった方は当時、この呪術師の方から大変な冷遇をされ、村人からも差別され、村全体を恨んでいたようです。村を出て行くために密通したようですね。弟子の方は光の世界に還り、真実を全て話されています。


 好子さんは、また「ふぅー」っと大きく息を吐くと成り代わりに入った。


 山本:これで真実がわかりました。あなた達を裏切ったのは、この方の過去世である村長の息子さんではありません。あなたがこの方を恨むのは全くの筋違いです。おわかり頂けましたね?


 霊体:アイツはどこにいる!?アイツは、どこだ!


 すごい剣幕で、怒りに震えている声だ。今にも暴れだしそうな勢いだ。


 山本:弟子だった方は、既にこの世を離れ光の世界におられます。


 霊体:あたしもそこに行ってやる!あたしなら、見つけられる!


 山本:わかりました。それでは光の世界に向かう前に一つ後片付けをお願いします。あなたがこの方及びこの方のご親族にかけた呪いの(たぐい)や、(あやかし)、仕掛けを全て外してください。


 霊体:それをして、あたしにどんな得があるんだい?


 山本:・・・そのことが、後々きっとあなたのお役に立ちますよ。


 霊体:チッ、そうかい。連れて行く事ぐらい簡単さ。あたしがあっちでそいつらの面倒見るようなことはないよね?


 山本:はい。面倒を見られることはありません。


 霊体:わかったよ。


 はっと、好子さんが目を見開く。


 好子:この方、何かあっという間に、妖や呪いを巻きつけるようにまとめられました。準備が整ったようです。


 山本:わかりました。それでは、お還りください。


 パン!

 重たかった空気が一気に消えた。ブラックホールが全てを飲み込んだかのようだ。


 好子:上がられました。


 山本:ふーっ、、、


 長い息を吐いた後、両手の拳を握り、手のひらを開く。何度か繰り返して息を整える。トクン、トクン、と心臓の音が聞こえる。


 その後、他に伝えたい事がある霊体がいるかを確認したが、誰もいなかった。たまたま着いてきた浮遊霊達だけだったので、まとめてみんな、光の世界へ送った。亡くなった時、一度でもお迎えを拒否してしまうと、なかなか光の世界へ還ることができない。還り方のわからない浮遊霊達が、セラピーに引き寄せられてやってくることがしばしばある。


「高木さん、、高木さん、」

俺から声をかける。


 高木さんは、ゆっくり目を開けると、はぁっと大きく息を吐いた。天井を見つめる瞳に蛍光灯が写る。曇りの取れた顔からは、明るさが滲みでていた。


「今、高木さんの周りにいた全ての未浄化霊が上がられました。ご気分はどうですか?」

「はい。少しふわふわしていますが大丈夫です。あ、起きます。」

 簡易ベッドの脇に置いていた眼鏡をかけ、半身を起こす。


「あの、トイレに行っても?」

「はい、こちらです。」

 オフィスの奥にあるトイレに案内して、好子さんとセラピー後半の準備に取り掛かる。


 好子さんは、いつもの好子さんに戻っている。晴れ晴れとした表情からは安堵の色が見られる。


「すみません、お待たせしました。」

「はーい、体はどうですか?辛いところはありますか?」

「いいえ、すごく体が軽くなったのに驚いてます。実はさっきまで、ずっと足が重かったんです。」


 高木さんは、まだ少しぼんやりしていたが、窓ガラスに映る自分の顔つきが、来た時と比べて明るくなっているのに気がついたようだ。外は小雨に変わっている。

 

「お顔もとっても明るくなってますね。」

「そんな気がしますね。くもりも、取れたような気がします。」

「大変なのがいましたからね。」

 好子さんは、そういうと高木さんを再度簡易ベットに腰掛けるように案内した。


「これからセラピー後半の、魂をピカピカにするとても神聖な儀式を行います。もう一度横になってください。」


「わかりました。」


 好子さんはもう一度、呼吸を整え、ゆっくりとまた瞑想に入った。

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