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あなたの魂浄霊します 横浜関内特級ファイルI  作者: もちこ
【家の浄化と波動の力】
20/25

ファイル6 瀬戸大輔:中編

「家の浄霊・浄化」は、正式な修練を積んだ専門家によってのみ行われます。

例えご自身のお家であっても、ご自身だけで浄化をすることは大変に危険です。

(この場合の浄化とは霊的な浄化であって、盛り塩や、掃除などではありません。)


模倣防止のため、所作等は全て割愛させて頂きます。

全体に真似をしないでください。

 「今日はありがとうございます。」

白髪混じりの背の高い男性と、長い髪を束ねた、ロングスカートの女性が玄関まで出て来た。

「父の一夫と、母の久子です。」

「初めまして。関内ハートの相談室より参りました、セラピストの太田好子と申します。」

 俺たちは順に挨拶すると、リビングへ案内された。モダンな和室へ改装されたのか、トレンドの低いローテーブルの周りに和柄の洒落た座布団が並ぶ。


 「違和感に気づいたのは、去年の暮れなんです。壁から誰かが蹴るような音がしたり、天井からもパキッと弾けるような音がして。最初は動物が入り込んだのかと思ったんですが、屋根裏を見ても全く何もなく。家が傷んできたのかとも思ったんですが、まだリフォームして2年なのでそんなわけないなと。」

 一夫さんがそこまで話した所で、久子さんがお茶を持って入ってきた。


「お父さん、台所も。」

「あ、そうなんです。特に台所が一番酷くて。夜の10時を過ぎると、何度も音がなるんです。」

「食器棚を置いているあたりからよく聞こえるんです。」

久子さんはそう言うと、夜は気味が悪くてなかなか台所に立てないと言った。


「承知しました。一度家の中を全部見させて頂きます。タンスやクローゼット、机の引き出しの中も全て拝見させて頂きます。奥様の衣類ダンスはここにいる太田が確認致します。」

啓介さんはそういうと、今日の流れを一通り説明した。

 仮に地縛霊がいた場合、浄霊し更に場を清める必要がある。もし、霊道が複数あった場合は、全ての霊道を抹消しなくてはならない。一つでも残してしまうと、悪いものがやってきてしまう可能性がある。

そのため、1日がかりの作業になることを伝えた。


最初に、地縛霊がいないかを確認するため、久子さんの案内で、台所に向かった。ダイニングルームから独立している、細長い4畳程のスペースで、ガスコンロの奥に小窓が付いている。台所の暖簾をくぐってすぐのところに、古い木製の食器棚が置いてあった。一見なんの変哲もないが、好子さんが一歩台所に入った瞬間から「パキッ」と音がし始めた。


「確認しますね。」

好子さんは、フゥッと息を吐き目を凝らした。後ろから、咲ちゃんが見ているがほぼ二人同時に「あー」と声を出した。


「小さい子供がいます。着物を着た6歳くらいの女の子です。」

好子さんは少し屈んで、子供と目線を合わせるような体勢になった。


「この家にご関係のある方ではありません。ついて来てしまった方です。食器棚の上の人形で遊ぼうとしていました。」

見ると、一番上の段に、木でできた可愛らしい人形が飾ってある。


「あら、それ。娘からお土産にもらったものなのよ」

「お嬢さんから?」

「ええ。北海道旅行のお土産でコロポックルって言ってたかしら?」久子さんは去年の夏からそこに飾ってあると話した。


啓介さんが、「少し話を聞いてみましょうか。」と、好子さんに成り代わりを依頼すると、二人は食器棚から少し離れ、何かを囲むように立った。俺はみんなから少し台所から出てもらい、廊下から見守るように促した。


啓介:あなたは、ここで何をしているの?


霊体:遊んでたの。

好子さんの声が、急に可愛らしい子供の声に変わった。


啓介:そう。でもね、ここは、あなたのお家じゃないでしょ?ここのお家の人が困っているからここにいては行けないよ。


霊体:うーん。でも私のお家もうないの。おじさん、私どこに行ったらいいの?


啓介:君はね、然るべき「光の世界」に還らないと行けないよ。君を送ってあげられるから、今から向かうんだよ。


霊体:うん。

好子さんが、成り代わりを解いた。


好子:この方すぐ、準備に入られました。他所(よそ)のお家で遊んでいたことを反省されているようです。ごめんなさい。と言われています。


啓介:わかりました。それでは御守護の神様のご指導により、然るべきところにお送りいたします。


啓介さんが、ふっと息を吐き、パンと柏手を打った。

その瞬間、少し台所が明るくなった。


好子:はい。上げていただきました。


「もう大丈夫ですか?」久子さんが尋ねる。


「この方は上がられましたが、他にもいるようなので、確認しますね。山本さんお願いします。」啓介さんにそう言われ、台所に入ろうとしたとき、咲ちゃんが、俺の服の裾を引っ張った。


「何?」

ちらっと見ると、「なんかおる。」と、小声で呟き、シンクの下の収納棚を指差した。

確かに、変な気配を感じる。これは妖だ。


「棚の前におられた方は上げて頂きましたが、シンク下に妖の気配があります。」


俺がそう言うと、啓介さんが、皆さんは少し下がってくださいと、咲ちゃん達を遠ざけた。そして好子さんが収納扉を開けようとした時、「ガシャーン」と扉の中から音がした。


「確かに妖ですね。イタチのような姿です。私たちが来たことにイライラしています。」

好子さんはそういうと、啓介さんに目配せした。


「今、御守護の神様の力により然るべきところへ送られます。」

啓介さんが、またフーッと息を吐き「お還りください。」と柏手を打った。


パン!

空気が一気に軽くなった。換気扇をつけていなかったが、風が吹いた。

皆んなにもそれが伝わったようで、「おーっ」と、大輔さん、一夫さんが感嘆の声を漏らした。


「上がりました。」

啓介さんが扉を開けると、ただ鍋や釜が置いてあるだけで別段変わったものはない。


「霊道を抹消し、浄化をします。」

啓介さんと好子さんはそう言うと、開けっ放しの収納棚に向かって祈願をした。


「山本さん、確認をお願いします。」啓介さんに言われ、台所に入る。

御守護の神様に繋がり、確認するが、収納棚、台所からはもう何の気配もなかった。


「はい。もう大丈夫です。」

俺がそう伝えると久子さんがほっと安心したようで、「ありがとうございます。」と、呟いた。


その後も玄関、トイレ、お風呂場、ダイニングルーム、納戸と順に見ていく。

確かに一夫さんが「音がする。」と言ったあたりに霊道や異次元に繋がる穴があり、その都度抹消して浄化した。


1階の浄化を終え、階段の前の廊下を通った時、咲ちゃんが立ち止まり、壁の絵を凝視した。

美しい江ノ島の油絵だ。海岸から見た夕方の江ノ島が赤とオレンジと黄色に染まり、暮れていく様が波と共に描かれている。


「なんか聞こえるの?」

「うん。「あかん。もう限界や」って言うてるねん。」

「大阪弁なん?」

「私にはそう聞こえるねん。」


「それ、僕が描いたんだよ。」振り返ると、恥ずかしそうに照れ笑いする大輔さんがいる。

「えっ、そうなんですか!」

咲ちゃんが、さも驚いたようで、甲高い声を上げた。

「そんなに上手じゃないけど、大学の頃、演劇サークルの他に美術も勉強してて。その時描いたものなんだ。未だに実家に飾ってもらってる。」

照れ臭そうに笑うと、「一旦お昼にしましょう。母が出前を取ったので休んでください」と、リビングへ向かった。

 ローテーブルには、「福すし」と書かれ箸袋が丁寧に並び、特大の寿司桶が3つ置いてあった。ボタン海老から、雲丹、大トロ、地元産の生しらすまで大変豪勢だ。久子さんが、醤油の入った小皿を置き、「みなさんどうぞ。」と座布団を揃えてくれていた。


「奥様そんな、気を遣われなくても」

好子さんが狼狽(うろた)え、まぁどうしましょうと、困惑していると、

「わざわざお越し頂いたんです。どうぞ遠慮なくたくさん召し上がってください。」

久子さんに続き、大輔さんからも「せっかく可愛い後輩も来たんだ。遠慮しないで食べてください。」と、促され俺たちは、お言葉に甘えてご馳走になった。


透明なしらすが入っている。江ノ島近辺でしか取れない生のしらすだ。釜揚げもうまいが、これはここでしか食べられない。ぁあビールが欲しくなる。


「んー美味しいです!」咲ちゃんは目を閉じ、幸せそうに大トロを頬張る。

「君はなんでも美味そうに食うな。」咲ちゃんを見て大輔さんは笑う。

「私、好き嫌いはありません。なんでも好きです。」

「それは、いいな。皆さんは好き嫌いはありませんでしたか?」

俺と好子さんは特に好き嫌いはなかったが、啓介さんは卵アレルギーなので、いくらと卵は俺と咲ちゃんで多めに頂いた。


「ここは海が近いから、お魚が美味しいの。」久子さんがお茶のおかわりを入れて回る。


「ここにはずっとお住まいなんですか?」俺が聞くと、一夫さんが答えた。


「いいや、昔はもう少し山の方に住んでいたんです。この辺一帯はバブル開発でできた住宅街でね。」


「40年ほど前でしょうか?」


「そうなるね。早いね時間が経つのは。」一夫さんはずずっとお茶を飲みまた呟いた。


「しかし、今まで何もなかったんですが、どうして急にこんな事が起こったんでしょう?」


「何か思い当たることはありますか?」啓介さんが聞く。


「いや。特に何もないね。ねぇ、母さん。」


「はい。子供達2人とも独立してますし、私たち夫婦だけですから。特に変わったことは。」


そうですか。と啓介さんは頷いたが、何か引っかかっているようだ。

俺と好子さんも何か得体の知れない違和感を感じていた。

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