ファイル6 瀬戸大輔:前編
後部座席で咲ちゃんは、Google map を見ながら、さっきのところやっぱり右やった。と、俺にUターンするように伝えた。道幅が狭く、そのまバックするしかない。
「後ろ見るから、そのまま下がって!」と、車を降り「オーライ、オーライ」と誘導する。ギアをRに入れゆっくりと舗装のはげた坂道を下り、さっき曲がったところまで戻ってきた。
咲ちゃんが車に戻ると、もう一度スマホのGoogl mapと、カーナビの地図を見比べる。明らかに、カーナビが目的地とは違うところを指していた。
「いたずらされたな」
「どうすんの?」
「お清めするから、ちょっと待ってな。」
車の中で、御守護の神様に祈念し、浄化をした。
「もう、大丈夫」
一呼吸置くと、俺はハンドルを握り、元の国道へ戻った。
「好子さんは、今着いたみたい。」
スマホをスクロールし、「ちょっと道に迷ったので遅れます。」と、咲ちゃんは返信した。
「こんなんよくあるの?」
「たまにやね。場所にもよると思うわ。」
「そっかー。大変やねんなぁ」
咲ちゃんは、コンビニの袋から伊右衛門のペットボトルを出すと、ごくごくと飲み、Google mapを見ながら、「あってる、あってる。」と、ナビをした。
あれから、咲ちゃんからよく連絡が来るようになった。セラピーを受けてから1週間程して、彼氏と別れたと電話があった。もめるかもしれないと思っていたが、彼氏の浮気が発覚し、すんなり別れられたという。鑑定のバイトも一緒に辞めたそうだ。
そしてその後に嬉しい知らせがあった。
「オーディション合格しました!舞台の仕事決まったんです。」
「おめでとう!よかったやん。何の役するの?」
「ありがとうございます。原作が漫画で、ミステリーの舞台なんですけど、私は屋敷で働くメイドの役です。招待するんで絶対来てくださいね!」
喜びの報告をもらって何日か過ぎた昼頃。咲ちゃんからLINEがあった。
「山本さん達って家の浄化ってできます?」
できるよ。と答えると、私じゃないけど、みてもらえませんか?とすぐに返信がきた。
「そもそも、なんでそんな相談されたん?」バックミラーに映る咲ちゃんに目をやる。
「最初の本読みした後、みんなにお昼ご飯ご馳走してくれはったんです。で、その時、一緒になるシーン多いから、打ち合わせしよ言われて、二人になったんです。あ、全然変な人ちゃいますよ。めっちゃええ人です。私なんもされてないです。」
「あ?うんわかった。ほいで?」
「ほんで、出身どこやーとか色々話してたら、なんか御守護の神様から(この人助けたって)って聞こえたんです。え?思ってたら(好子さんと山本さんに繋いであげなさい)って言われたんです。」
「ほう」
「それで、なんでそんな話になったかはわからないんですけど、急に実家の話になって。その人が「なんか変なんだよねー。誰か家のお祓いできる人知ってる?」って言わはったから、「知ってます。」って言うてしもたんです。」
咲ちゃんから紹介された大輔さんから、その日のうちにメールが届いた。有名人ということもあり、直接関内まで来れないため、ZOOMで相談を受けた。画面越しでもわかるほど、かっこよく、若々しい。俺と同じ50代とは思えない。俺は、好子さんと、一緒に相談内容を聞き、ご実家に伺う日程の調整を行った。
場所は神奈川県の江ノ島に近い、閑静な住宅地だった。本当は好子さんと二人で一緒に車で向かうはずだったが、前日の打ち合わせで、啓介さんも、来てもらったほうが良いということになり、急遽啓介さんの車で好子さんは現地に向かうことになった。
俺は本来1人で向かうところだったが、紹介してくれた咲ちゃんも一緒に来て欲しいと、これも前日に大輔さんから連絡があり、俺の車で連れて行くことになった。
「もうちょっと行ったとこです。あ!」
前方に啓介さんと好子さんが手を振っているのが見えた。
「真っ直ぐ行ったところに、パーキングがあるのでそこに停めてください。」
啓介さんが、前方を指差したので、そのまま車を進めた。
平日の10時前だったせいか、空いている。啓介さんのレクサスの他に車は1台しかなかった。
俺は、少し離れたところに、カローラを停めた。
降りるとすぐ、好子さんたちと合流した。
「無事到着できてよかった。お守りが大きかったですね。」
「変な道に入った時、びっくりしました。」
咲ちゃんは好子さんに、カーナビがおかしくなった事を話した。
その後好子さんの後ろにいた啓介さんを見て、「あー!」っと声をあげた。会うのは、棟方志功の版画の時依頼だ。啓介さんは、「あ、どうもお久しぶりです」と笑った。
駐車場の隅で全員で「シールドアップ」と10回唱えたのち、啓介さんはポケットから小さなメモ帳を出すと、今日の流れの確認を始めた。
「先日の打ち合わせ通り、今日の執り行いは、僕が。読み取りは好子さん。浄化完了の確認は博さんにお願いします。」
「はい」と、俺が頷くと咲ちゃんが横から「執り行いって何?」と聞いた。
「別の言い方で言うと「進行役」かな?霊に成り代わって、その言葉を伝えるのが「読み取り役」って言うんだけど、好子さんが霊体に口を貸したり、その霊体の状態を伝えてるでしょ?これが「読み取り役」。「進行役」は、読み取りから依頼された内容を神様に祈願する。そしてあちらの世界に送って頂くように執り行いをする。って言うとわかるかな?」
啓介さんが、そう言うと咲ちゃんはうーんと少し考えて、
「じゃぁ、私の未浄化霊を上げてもらった時は、好子さんが、「読み取り役」で、山本さんが「進行役」やったってこと?」と俺の方を向いた。
「そうそう。で、今回の場所の浄化は、俺が全部浄化完了できたかの確認役。」
何か感心するように、「へー」と咲ちゃんが、相槌を打つと、好子さんが
「咲ちゃん、本来家の浄化は私たちと家の方だけで行うものなの。でも、御守護の神様からあなたも連れて行くように。と答えが来たから、今日は(紹介者)として立会ってもらうね。本当に特別なのよ。」
そういうと、好子さんは咲ちゃんの手を握り、ご加護を祈念した。
坂道を登り、青い屋根の大きな一軒家の前まで来た。2階建で築年数は古そうだが、屋根にはソーラーパネルが取り付けられ、しっかり手入れされているように見える。門から玄関までのエントランスも雑草はなく、外から見た感じどこも変なところはない。
「青木」と書かれた表札のすぐ横のインターホンを鳴らす。
ピンポーンと、旧式の音がした。しばらくすると、Tシャツにジーンズのラフな格好で俳優の瀬戸大輔さんが出て来た。
「こんにちは。」
俺が挨拶すると、待ってました。と門を開けた。
大輔さんの本名は青木大輔という。
普段は都内のマンションに住んでいるが、今日は実家に帰って来てくれていた。
「稽古中オフの日って無いんですけど、稽古場の断水工事があって今日だけ空いたんです。」
「それは、もうお導きですね。」
好子さんがうなづくと、「こんにちは。」と、咲ちゃんが後ろからペコリとお辞儀した。
大輔さんは一瞬あれ?という顔をしたが、どうぞと、俺たちを招き入れた。
玄関は、白い大理石の床で下駄箱の上には生花が飾られている。右側に鏡があり、全体的に綺麗に掃除され到ってシンプルな玄関だった。
ふと気になって啓介さんの方を見ると、壁の一角を見ていた。啓介さんは、場所の浄化が得意だ。霊道と言われる霊の通り道が複数ある場合、因縁霊の仕業で巧妙に隠されると発見が難しい場合があるが、啓介さんは見つけるのが上手かった。
先に靴を脱ぎ玄関から奥の部屋に向かった好子さんも何かを感じているようだ。ジャケットの袖をキュッと掴んだのが後ろから見えた。




