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あなたの魂浄霊します 横浜関内特級ファイルI  作者: もちこ
【見えない世界からの愛】
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ファイル4 富田亜希子:後編

 亜希子さんの時と同じく、俺はまた後ろの丸椅子からセラピーの様子を見守った。柴田先生はニコニコと康夫さんに挨拶するとゆっくり腰掛けた。俺は知らなかったが、柴田先生はもう75歳を過ぎていた。初めて会った時、60過ぎくらいにしか見えなかったので、好子さんから聞いたときは、本当に驚いた。


 柴田先生がいつも通り、成り代わりに入ってすぐだった。


 〇〇:ほー、ようやくだな。お前たちご苦労である。


 男性の老人の声になった。優しげなほっとする声だ。


 好子さんが、聞こうとした時だった。突然柴田先生が目を開けた。


 柴田:この方は、人間でも(あやかし)でもありません。精霊です。が、「元」精霊です。もう一度成り代わります。


 ふぅっと柴田先生の呼吸の仕方が変わった。


 精霊:わしはずっと見ておった。この子は一体いつになったら気がつくのか。


 好子:あなたは、この方とどのような関係ですか?


 精霊:小さい時から見ておった。優しい子供だ。わしの枝にぶら下がってよー遊んでおった。


 柴田さんは咳払いをすると、あぁと声を漏らして話し出した。


 柴田:古い立派なエンジュの木が見えます。ですが、今はもう切り株になっています。


 好子:どこの木かわかりますか?


 柴田:んーこの方と(ゆかり)のある場所。ご実家かその付近、会社の敷地内かもしれません。


 すぐにまた老人の声に変わった。


 精霊:わしはもう、精霊ではない。本当はここにいてはならないのだが、あの子のことが気になって、残ってしまった。


 好子:何が気になったのですか?


 精霊:この子があの土地を手に入れようとしたから、わしは「ダメだ」と何度も伝えたんじゃ。だがこの子はどうも人の言うことをきかん。頑固者だな。


 はっ。と息を飲んだ。おそらく好子さんも、亜希子さんも同じだろう。詐欺にあって買えなかった土地のことだ。


 精霊:人間にはわからんだろう。あの土地を手に入れると、この子の命が危うかった。いや、それだけでは済まんかっただろう。


 好子:だから、妨害をされたのですか?


 精霊:そうだ。だが罰を与える事になってしまった。すまないことをした。


 好子:あなたは、この方を見守っておられたんですか?


 精霊:人間を見守るなど、ワシらはせんのだ。だがどうも、この子は気になってしもうてな。


 好子:そうでしたか。


 精霊:お前さんたち、すまないがワシをあちらの世界に送ってくれないか?人に罰を与えワシは汚れてしもうた。もう精霊でもない。ただの抜け殻だ。


 好子:わかりました。最後にこの方へ伝えたいことはありますか?


 精霊:愛しなさい。そして赦しなさい。それから、ありがとう。


 とても優しい声だった。涙がでそうだ。


 柴田:いま準備が整いました。


 好子:それでは、お還りください。


 パン!


 好子さんの柏手が響いた。


 何かキラキラとした光が空から降り注ぐような気がした。胸の奥から温かいモノがこみ上げてくる。手足がじんわり温かい。隣に座っていた亜希子さんも俺と同じ様に目を潤ませていた。しばらく、誰も何も言わなかった。温かい光に包まれている事を全員が感じていた。



 ーーーーーー


「お待たせいたしました。こちらデザートのピスタチオ・ショコラ でございます。」


 ウェイターが、チョコレートケーキの乗った皿を丁寧に目の前に置く。四角い皿の上には、ブルーベリーや、ハート型に細工されたチョコレートが彩られている。「インスタ映え」と言うやつだろうか?写真を撮りたくなるのも頷ける。


 フォークでケーキを一口カットして口に運んだ。ピスタチオクリームとチョコレートのほろ苦い甘さが、口いっぱいに広がる。


「夫はすごく変わりました。以前は私の話は全然聞いてくれなかったんです。今ではよく話すようになりました。私が仕事をすることも応援してくれてるんです。翔一とも二人で出かけるようにもなって。」


 亜希子さんは、2杯目の紅茶を一口飲むと、そっとカップをおいた。


「夫が言ってたんです。土地を購入する時、かなり反対されていたと。社内だけじゃなく、珍しく友人からも反対されてたらしいんです。でも強引に押し通したって。」


「そうだったんですか。」

 好子さんが、相槌を打つと、亜希子さんは続けた。


「主人の実家に大きなエンジュの木があったんです。私も見た事あるんですが、立派な木でした。子供の頃よく遊んでて、昔手作りのブランコがあったんです。でも台風で倒れてしまって。地元の神主さんにお願いして、供養してから処分したんです。詐欺にあったのはその後です。」


 亜希子さんは、バッグからスマホをとりだし、写真を見せてくれた。立派なエンジュの木だ。その前で康夫さんが、小さい翔一くんを抱っこしている。


「翔一が小さい時不思議な事言ってて。小さいお爺ちゃんが笑ってるって。木の上を指さしてたんです。子供の遊びだと思ってたんですが、あの子には見えていたんですね。」


「小さな子供には、見える事がありますからね。きっとそうだったのかもしれません」

 好子さんは、そう言うと微笑んだ。


 無垢な子供には、きっと見える事があるのだろう。忘れているだけで、俺も昔はそうだったかもしれない。


「そういえば、ご主人は?」

 俺は唐突に聞いた。


「仕事でしばらく海外に行ってます。軌道にのってるようで楽しくしてます。夫からも感謝してると伝えてくれと、言われてますから。」

 亜希子さんは、嬉しそうに言うと、空のカップを静かに置いた。


 亜希子さんは俺達にお土産と言って、その店の菓子折りを用意してくれていた。柴田先生の菓子折りを預かったため、そのまま寄ることにした。


「柴田先生にもよろしくお伝えください。」

 亜希子さんはそう言うと、俺たちと別れた。


 後ろ姿を見送り、駐車場に戻った。柴田先生は、もうすぐ80になる。第一線は退かれたが、まだまだ元気だ。菓子折りを後部座席に置き、カーナビに住所を入れた。

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