「あなたには、末席ながら王位継承権があります」と言われたが
どうも、最近は婚約破棄が流行っているらしい。
真実の愛がどうとか、家同士の決めた結婚なんてうんざりだとか。発端はこの国の第三王女が隣国の王子との婚約を破棄したことから始まった流行は、確実にこの国の上流階級に広まっていた。
でも、まさか俺がやられるとは思ってもみなかった。
「ベリサリオ・アルディーニ! あなたとの婚約は破棄しますわ!」
高らかにそう宣言するのは、豊かな黒髪と赤いドレスのアデリーナ・デル・テスタ。テスタ伯爵家のご令嬢だ。
俺の十八歳の誕生日に行われたガーデンパーティの最中にやるものだから、周囲には着飾った親戚友人がずらりと並び、耳をそば立てている。にぎやかな空気は一変、気まずい沈黙だ。
何だか、アデリーナが婚約破棄をしたいがために、俺が標的になっているだけのような気がする。今まで上手くやってきたのに、いきなりだからね。おそらく、すでにどこかで別の男を捕まえているんだろう。そう思うと、俺はもうアデリーナに対する執着や心残りなんて急激に消え失せていた。そもそも婚前交渉はしていないから大丈夫、慰謝料は請求されないと思うと安心だ。
「アデリーナ、念のために聞いておくが、動機は?」
「動機? ふざけないで、私は家に縛られるなんてまっぴらですわ! アルディーニ家は家格も低いし、羽振りも悪いし、田舎だし! それにあなた、次男じゃない!」
アデリーナの言ったことは、まあ、事実だ。我がアルディーニ家はとにかく古い家だが厳密には貴族ではなく、地方の豪農と言ったほうが正しい。とはいえ、古いだけあって貴族の血も幾分かは混ざっており、決して蔑ろにされるような家ではないのだが——。
「あなたと違って、サヴァレーゼ伯爵家のライモンド様なら家格も釣り合うし、何より貴族として申し分ない方ですもの! それに、私のことを愛してくださっているわ!」
「口先だけなら何とでも言えそうだが」
「黙りなさい! キスさえしてくれなかったくせに!」
「神の敬虔なる信徒として、婚前交渉とそれに繋がる行為は厳禁だろう」
「きいいいい! そういうところが嫌いでしたのよ!」
俺は何となく分かってきた。そのサヴァレーゼ伯爵家のライモンドは、この初心なアデリーナに熱烈なアプローチをしたのだろう。多分女遊びに慣れているんだろうな、そうでなければ元は堅物だったアデリーナが簡単に靡くとも思えない。
とはいえ、一応止めておこう。
「アデリーナ、今の発言はとりあえず聞かなかったことにするから、落ち着いて。婚約を破棄するということがどれほど重いことか、君のお父上と相談の上で話を持ってきてくれ」
「うるさいうるさい! もう表にライモンド様が待っていますの! あとのことは勝手になさって! それじゃ!」
やっぱりだめだった、アデリーナは聞く耳を持たない。
アデリーナはドレスの裾を掴んで、玄関へと走り去っていった。
残された俺は、親戚友人から同情や憐れみの視線を一身に浴びることとなった。
アデリーナの一方的な婚約破棄のあったガーデンパーティから数日後。
俺が二階にある屋敷の部屋のバルコニーでぼうっとしていると、庭から声がかけられた。
「おーい、ベル! 聞いたぞ、婚約破棄されたってな!」
遠慮なくそう言ってくるのは、人懐こい笑顔をした青年、ダニオ・クロッコだ。俺の幼馴染で、近隣の小作農でもある。
「わはは、噂には聞いてたが、ついにお前までか! 流行って怖いな!」
「まったくだ。まあ、うちの親父も向こうのお父上も、困ってどうにか話をまとめて、上手く婚約解消をしてくれたからいいとして」
「いいのか? アルディーニ家としちゃ、テスタ伯爵家と繋がりを持ちたかったんじゃないのか?」
「それはそうだが、親戚一同の前でああまで言われちゃ、俺も立つ瀬がない。親戚中で大盛り上がりだよ、ベリサリオは甲斐性なしで、テスタ伯爵家のご令嬢はあまりにも無礼だ、なんて言われてる」
「そりゃまあ、お前のことはともかく、そのとおりだからしょうがない。実際、無礼だ。お前に責任はないよ」
「そう言ってくれると、俺も婚約破棄が間違っていなかったと思えるよ」
ダニオは大笑いをしていた。笑い話になるならいい、そうでなければ目も当てられない。
しかしだ、アルディーニ家は割と困っている。
「せっかく、外国との貿易で稼いでいるテスタ伯爵家と縁組できれば、うちの農場のチーズや小麦を上手く輸出できたのにな。折柄、この国の経済が不調だから、さてどうなることやら」
「うーん、そうか、そういう事情があるよな。じゃあ、他の家に打診するのか?」
「そうなるが、どこも適齢期のご令嬢はとっくに婚約しているだろうし」
俺と階下のダニオはうーん、と唸った。都合よくアルディーニ家へ支援してくれる余裕を持った家に、婚約もしておらず他の男に唾をつけられていない娘がいるか。まずいないだろう。
それに、婚約破棄が流行となったこの国の上流階級は、てんやわんやの大騒ぎだ。お堅い家ほど息子や娘をそそのかす可能性のある人間とは一切交流を絶っているし、だんだんと市民の富裕層にもその流行が浸透しつつある。今、結婚相手を探すには時期が悪い。複雑な事情を抱えた家ぐらいしか空きがない。
俺の結婚では、とてもすぐにはアルディーニ家を助けられそうにない。次男の俺だから、どこの家に婿入りをしてもいいが、不況も相まって婿養子はあまり好まれない。
「どうしたもんだろうな。相手はお貴族様じゃないとだめだろ?」
「経済的に余裕があれば、貴族だろうと商人だろうといいんだ。うちは家系図を役所に持っていけばどこかの貴族にもなれるし、市民のままでもいられる。それを手土産にしたっていい」
「便利な家だよな」
「ご先祖様が節操なく亡命した貴族や王家の落胤を匿ったせいだよ」
そう、アルディーニ家は本当に、大昔の隣国の公爵家当主や何代か前のこの国の王の私生児などを広大な私有地に受け入れていた。彼らは進んでアルディーニ家と婚姻を結び、命を脅かされない安全なこの土地に根差して暮らしていった。その結果、アルディーニ家の土地は内々に国から保護を受けており、王侯貴族にも手出しできない中立地帯と化している。
それを知っているのは一部の王侯貴族と、アルディーニ家でも本家の人間だけだ。アデリーナには言っていない、テスタ伯爵はもしかすると知っていたかもしれないが、だからこそうちとの争いを恐れて婚約解消を進めたのかもしれない。
ともかく、それも武器になるなら使わない手はない。アルディーニ家が存続すればいいのだから、俺はどうなったっていい。
昔からそうだった。長男で次期当主となる兄と違い、次男の俺はあくまで予備で、いずれどこかの家との婚姻に使われる立場だった。それは自覚していたし、否定したってどうにもならないから受け入れてきた。アデリーナとの婚約にしたって、望むと望まないとに関わらず進められたものだから、俺は何ら抵抗せずつつがなく良好な関係を保った、そのはずだった。
そう考えると、今までの俺の努力は無駄だった気がする。
俺は思いっきりため息を吐いた。
「まあ何だ、どこかのご令嬢が俺を気に入ってくれることを祈るよ。お前も祈っておいてくれ」
「祈るだけならタダだからな。神の思し召しがお前に幸せをもたらさんことを」
ダニオはまた笑う。釣られて俺も笑いかけた、陰鬱な気持ちが吹っ飛んだようだ。
そこで、俺はようやく気付いた。
「ダニオ、何か用事でもあったんじゃないか? わざわざうちまで来たんだから、緊急の用件か? 親父を呼ぼうか?」
「ああ、いや、そうだった、それで来たんだった。お前でいい、ちょっと来てくれ」
「分かった」
どうやら、何かあったようだ。俺は手招きする階下のダニオのもとへ降りる。
ダニオに急かされて、俺は街道を走っていた。
俺はダニオより背が高い分、歩幅も広くあっさり追い抜きそうになる。案内役を放っていくわけにもいかず、加減して走る。
「お前、本当、涼しげに走るよな!」
「お前より体力があるだけだよ」
お互い、そんな掛け合いをするほど余裕はある。
やがて、俺たちは街道の側溝に車輪が嵌まった一台の馬車を見つけた。二頭立ての馬車はそれなりに大きく、御者が下りて立ち往生している。
「あれだ、あれ! 溝から出すのを手伝ってくれ!」
「はいはい、分かったよ」
俺たちが近づくと、御者が縋りついてきた。
「すまない、側溝に嵌まってしまって、押し出す人手が足りないんだ」
「大丈夫、三人もいれば何とかなるよ。ほら、こっちは押さえているから、馬で引いてくれ」
御者は頷いて、馬の手綱を取る。
俺とダニオは側溝の車輪を持ち、車体を支える。合図をして、二人で押しながら方向を変えていけば——あとは馬が引いてくれる。
そうして、あっさりと車輪は側溝から抜け出した。ガラガラと、何事もなかったかのように、車輪は回る。
御者が戻ってきて、大仰に感謝をしていた。
「ありがとう、助かった! お礼をしたいところだが」
「いいよ、別に。じゃ、俺たちはこれで」
「いやいや、待ってくれ! お嬢様、どちらにおられますか!」
御者は街道のそばの木の陰をキョロキョロと見回す。
すると、木陰から人影が立ち上がって、こちらに向かってやってきた。青白いドレスの、日傘を差した女性だ。女性というより、まだ少女の面影を残した十六、七くらいの乙女と言っていい。しかし、目鼻立ちのくっきりとした、将来美女になるであろう顔立ちのご令嬢だ。
栗色の髪の彼女は、俺とダニオに向けてにっこりと微笑む。
「ありがとうございます。このお礼は必ずさせていただきます」
その顔は晴れやかで、純粋そうに見えた。だが、この程度でお礼をもらっても、逆に面倒だ。
俺は断る。
「いや、けっこうです。それより、先を急いでいるんでしょう? 早く行ったほうがいい」
「まあ、つれないお方」
悪かったな、と思うまでもなく、彼女は笑っていた。冗談のつもりだろう。
俺は面倒くさそうな横顔のダニオに背中を突かれ、話を早く切り上げる。
「それじゃ、今度は側溝に落ちないように。このあたりの街道は古いから、あちこちに溝がある。注意してくれ」
俺は御者に向けてそう叫び、さっさと元来た道に向け、その場を後にしようとした。
だが、なぜか彼女にしっかりと腕を掴まれていた。
彼女は先ほどまでの笑顔とは異なり、険しい顔をしている。
「お待ちくださいまし。ぜひこのお礼はしなければ、ルカ公爵家の恥となります。私、カサンドラ・デ・ルカと申します。このたび、アルディーニ家を訪れるためにこの土地へ参りました」
それが意味することは、ことが俺の一存では決められなくなる、ということだ。
俺は直感的にそう思った。何にせよ、やんごとなき上流貴族のご令嬢を、こんな道端に放っておくわけにはいかない。
「俺はベリサリオ・アルディーニです。そのアルディーニ家の次男です」
「まあ、そうでしたか。では、ご一緒しましょう。どうぞ、馬車へ」
この強引なご令嬢の勧めは、断れない。
やむなく俺は、カサンドラとともに馬車に乗る。その間に、ダニオは逃げ出して姿を消していた。
カサンドラとアルディーニ家当主の父との会談は、一時間ほどだっただろうか。
俺は同席することもなく、手持ち無沙汰に庭を歩いていた。先日のガーデンパーティ以来の散策だ。アデリーナの一件がどうにも庭に嫌な思い出を作ってしまって、何となく避けていた。とはいえ、いつまでも引きずっているわけにもいかないから、荒療治とばかりに庭に出てみる。
俺は、特段アデリーナを好きだったわけではない。女性として見てはいたが、紳士的すぎたのかもしれない。アデリーナからしてみれば、婚約破棄の原因は愛を確かめたかっただけ程度の話だったかもしれないし、本当に何もしてこない俺に呆れたのかもしれない。もし婚前に手を出していれば莫大な慰謝料を払う羽目になるからしなかっただけだが、恋愛をしたい年頃のご令嬢には物足りなかったのだろう。
まあ、アデリーナはライモンドという理想の相手を見つけたようだから、放っておこう。お幸せに、としか言いようがない。
俺がぼんやりと、これからのために過去に踏ん切りをつけたところで、声がかけられた。
「こちらにいらしたのね。ベリサリオ様」
「様はいりませんよ、カサンドラ様。俺は貴族じゃありません」
「いいえ、あなたには貴族になっていただきます」
カサンドラは凛とした声で、改まってそう言った。
どういうことだ、と俺が問う前に、カサンドラは言葉を続ける。
「アルディーニ家、つまりあなたの血筋を辿りました。あなたには、末席ながら王位継承権があります」
「は?」
「あなたは王にはなれないでしょう。ですけれど、私とあなたの子は違います。私と結婚してくださいまし」
王。
いきなり何を言い出した、このご令嬢は。確かに俺の血筋は貴族の血も混じっている。でも、王の正統な血は入っていない。私生児には王位継承権は認められていないし、あったとしても何代も前の話だ。とっくに途切れている。
しかし、カサンドラは真剣だ。決して、おかしな話をしているわけではない、と物語っている。
「我がルカ公爵家には、王位継承権がございます。しかし、今の王の血統ではないのです。むしろ、あなたのほうが今の王に近いくらいで、実は他にはもういません」
「は?」
「今の王の血統は正統であり、王位を継げる男子はありません。他の王位継承権者は残らず傍系なのです。それこそ、初代国王から別れたくらい昔の、今となってはほぼ赤の他人とさえ言えるほどです」
俺は首を横に振った。
「なら、うちの兄を連れていけばいいでしょう。俺はここに残ります」
「いいえ。アルディーニ家のご当主は、アルディーニ家の正統な後継者を残すことを条件に、あなたを我がルカ公爵家の婿養子として迎えることをお許しくださいました。ご当主はアルディーニ家の価値をよくご存じです。アルディーニ家という安全地帯なくば、この国が揺れうごいたとき、困るのは王侯貴族たち、ひいては国民たちなのです」
その言葉は、大袈裟ではない。アルディーニ家の歴史を紐解けば、確かにそうなのだから。隣国の公爵家の血筋も、この国の何代か前の王の私生児の血も、その他の血も、アルディーニ家があってこそ保たれている。避難場所として、血の保管プールとして、アルディーニ家はなくてはならない。
俺の父は、そう考えたに違いない。
俺は——そうまで言われて断れるような身分ではない。
「お嫌ですか?」
「嫌も何も、俺は父の命令に従うだけです。俺の血が欲しいだけなら、子供だけ作ってあとは離縁でも何でもどうぞ。あなただって好きな相手と結ばれたいでしょうから」
半ば、ヤケだ。良好な関係を築こうとしたって、俺の努力は無に帰す。それなら別に、最初から仲良くしようだなんて考えないほうがいい。いくら俺の血統に王家の血が混ざっていたって、生粋の貴族からすれば混血の市民風情がと思うに決まっている。
だからもう少し、有意義に付き合ったほうがいいだろう。そう考えてのことだった。
だが、カサンドラはムキになって声を張り上げた。
「馬鹿になさらないで!」
それは、貴族のご令嬢にとっては、はしたないとさえ言える行動だ。
怒りをあらわに、カサンドラは俺をたしなめる。
「結婚は貴族の義務です。家と家を結び、守るべきものを守る、そのための手段です。ですけれど、そこに愛がないとでもお思いですか?」
意気軒昂、突っかかってくるカサンドラに、俺は後退りする。
「愛は育むものです。ロマンス小説のように一目惚れの大恋愛ばかりが愛ではありません。お互いを少しずつ知っていくことに魅力を感じないような殿方は、それこそ甲斐性なしですわ!」
ついに、カサンドラは俺の両手を取った。俺を引っ張り、訴える。
「それとも何か? 私では不足がおあり? 何でもおっしゃって、あなたが気に入らないなら髪の色だって変えますわ」
「いや、そこじゃなくて……俺は栗色の髪も好きです」
「なら、何かご希望がおあり?」
必死なカサンドラに、俺が望むことなんてない。
どうしてもというなら、建前を出そう。
「アルディーニ家が傾かないよう、支援を。それだけでかまいません」
それを聞いたカサンドラは、目を瞬かせる。
「まあ、欲のない方ですこと。それはアルディーニ家のご当主と約束したことですから、別のことでよろしいかしら?」
「別のこと、ですか。そう言われても」
俺は困った。俺がカサンドラに何を要求しても、おそらくは醜聞の種になる。笑い話や世間話になる可能性は低く、そこまでカサンドラが考えているとも限らない。
俺は本当に、望むことなんてなかった。
家の道具にされて、婚約破棄されて、またいいように使われて——それで、俺は何がしたいんだろう。
それがなかった。上手く生きているつもりだったのに、何も上手くいっていなかった。
どうすればいい。しばし俺は考えた。カサンドラは何も言わず、俺が口を開くのを待っている。
そうしてようやく俺は、一つの結論に辿り着いた。
俺はカサンドラへ、こう告げた。
「俺が生きていく目的をください」
数十年後、ルカ公爵家の湖畔の別荘で、俺とカサンドラは散歩をしていた。二人ともゆっくりした歩みで、揃って白くなった髪が爽やかな風に吹かれている。
話の種は、俺がカサンドラに結婚を迫られたときのことだ。
「あのときのあなたの顔、今でも思い出せますわ。ふふっ」
「笑いごとじゃない。必死だったんだ」
カサンドラは上品に笑う。王母、女公爵と名高いカサンドラは、いつでも上品な笑みを絶やさない。
「でも、私はちゃんとあなたに生きていく目的を与えましたよ?」
「……うん、それは確かにそうだ」
それは俺も認めざるをえない。カサンドラはちゃんと約束を果たした。俺がここまで生きる目的、すなわち——。
「私はあなたを死ぬまで愛して、あなたは私を死ぬまで愛する。この約束を違えるなんて、それこそ死が二人を別つまでありませんわ」
別に、なんてことはなかった。恋愛なんて、とても些細なことで始まり、毎日を積み重ねていくだけでよかった。それだけで、俺はカサンドラを好きになったし、カサンドラも俺を好きになっていったと言っていた。
大恋愛を望んだ俺の元婚約者のアデリーナは、サヴァレーゼ伯爵家のライモンドとやらと命運を共にした。ライモンドは海軍士官だった。無理を言って赴任先まで追いかけて、同じ船に乗っていたところを敵国の軍艦に沈められた。跡継ぎが死んだサヴァレーゼ伯爵家は、ライモンドが散々遊び呆けたツケを支払うことになり、没落したそうだ。アデリーナの実家テスタ伯爵家も、恋にうつつを抜かした放蕩娘のアデリーナのことはいなかったものとして扱っている。
ただ、恋愛に関して言えば、俺は一つ、間違っていた。
「誰かを愛すると、こんなに生きなくてはならないと思うものなんだな」
随分と重い話で、随分と俺の人生を変えた話だ。
どうでもよかったはずの俺の人生は、カサンドラに出会うためにあったようなものだ。俺自身は何かを成し遂げたわけではない、カサンドラとの間の息子が王にはなったが、それだけだ。
「そういうものですわ」
「そういうものか」
どうやら、そういうものらしい。俺を愛してくれているカサンドラが言うんだから、そうなんだろう。
死が二人を別つまで、愛は続く。
前に書いた短編が出てきたので勿体無いので投稿しておきます。
前の垢で投稿した気もするけど、気にしないでください。
面白いな、と思ったら遠慮なく☆やいいねを投げてくださると嬉しいです。
画面の向こうではゴリラが喜んで踊ってると思ってください。