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一炊の夢 ~エリートリーマンのやり直し~  作者: もぎ すず
第三部 儚きエリートリーマン
92/121

091 会合と観光

 昨日、老人は地面師である小山田(おやまだ)という男と出かけた。

 日本を遠く離れた地でせっかく同胞と合ったのだから親交を深めよう。そんな理由でだ。


 相手の目的は分かっているので、老人はわざとその話に乗った。

 案の定、小山田は観光案内しつつ、さぐりを入れてきたという。


 老人は小山田に乗せられていることが分かった上で、こちらの情報を与えた。

「ちと金を借りようと思っての」「そうか、あそこは信頼できる会社か」「あの部門か? まあまあ、利益を出しているようじゃが、はてどうだったかな……」


 そんな風に、老人は小山田の望む回答を与え続けたらしい。

 そして今日、GTM社と本格的な打ち合わせがこのあと行われる。


「さてさて、奴からどのように話が伝わっておるか」

 菱前(ひしまえ)老人はご機嫌だ。ご機嫌すぎて、いまにもハミングが飛び出しそうである。


 GTM社の社員の前で歌って踊り出したりしないよう、一応警戒しておこう。

 今日の打ち合わせで、昨日の話がどれだけ相手に伝わったのか、その上で何を求めてくるのか。


 カリフォルニア州サンノゼの町で、GTM社の社員との会談が始まった。


 終始、老人が聞き役に回っていた。決定権は老人にあり、GTM社の社員はプレゼンをする側だ。

 この流れは予想できた。


 昼食の休憩が終わったあとから、一気に話が具体的になった。

 ヒシマエ重工が扱っている多くの業績や広い分野にまで、彼らはよく調べていた。


 通訳している俺が舌を巻くほど、彼らはヒシマエ重工の内情に詳しかった。

「……ほう、あれは通信技術に転用できるのか。どういう仕組みであろうな、ほっほっほ」


 老人は愉快そうに笑った。つられてGTM社の社員たちも笑顔をみせる。

 ある意味、円満な会談だ。


 俺はそっと、彼らが喜ぶ様子を見つめた。

 彼らが融資金の担保に望んだのは、ヒシマエ重工のドル箱部門と、これから成長が期待される部門、そしていくつかの基礎研究の成果だった。


 未来を知っている俺からすれば、これから成長するであろう分野を的確に選んでいる印象がある。

 なかなか優秀なブレーンがいるのだろう。少なくとも、米国にいながらにして、調べきれるものではない。


「おじさん、良ければこれで合意したいと相手は言っているけど、どうする?」

 時刻は午後三時。休憩を除けば、五時間以上も会議をしている計算になる。


「うむ。ワシの方もそれで良い。これらの条件で社内稟議(りんぎ)にかけよう。正式の契約は日本で……ということで良いかな?」

 俺がそれを通訳すると、彼らは「Of course!(もちろんです!)」とやや食い気味に頷いた。


 商談成立である。

 わざわざカリフォルニアくんだりまで来て、たった二回の会合であっさりと合意してしまった。


 もちろん彼らと契約することは、永久にないのだが。

 老人とGTM社の社員は笑顔で握手した。




「存外、向こうも単純であるな」

 彼らと別れたあと、老人はしみじみと呟いた。


「騙す方は、自分たちがまさか騙されているとは思わないのでしょう」

「バレる」心配はしていても、最初からバレていて、反対に罠に嵌められようとしているなどとは、考えないに違いない。


 ありとあらゆる事態を想定することもできるが、すべての橋を渡る前に叩いていたら機会損失は甚だしいし。

 すべてを疑っていたら、自縄自縛に陥って身動きが取れなくなる。


「商談も思ったより早く終わったし、明日は観光するか。車を用意するから、どこかへ足を伸ばそうではないか」

 老人の一言で、観光が決まった。


 翌日、社員一人に運転させて、サンフランシスコの町を目指した。

 高速道路(フリーウェイ)を下りて、住宅街の近くを走る。


「車の路駐が多いな。マナーがなっとらんぞ」

 車窓から外を見れば、どこの家の前にも車が停まっていた。


「米国は日本と違って、車を取得するときに車庫証明が要らないんですよ。そのため、アパートのような集合住宅の前には、車が鈴なりになります」

「ふむ。そう言えば、映画でそんなのを見たことがあるな。……じゃが、ここは一軒家が多いが」


「一軒家なら車庫(ガレージ)はあります。ですが彼らは、そこを倉庫として使う場合が多いです」

「車庫に物を置いて、車は外か。本末転倒じゃな」


「日本人は車を貴重な財産のように扱いますが、彼らはどんな高級車でも目的地まで自分を運ぶ道具のように見る傾向がありますね」


 俺が仕事で米国に渡って驚いたのは、車のボディが汚れていたことだ。

 送迎車でも毎日磨き上げるなんてことはしていないと思う。


「道具か……戦後ワシらは、進駐軍の払い下げを喜んで買ったものじゃが……あれらが道具か」

「道具ですね。そのせいでしょうか、年式の古い中古車は人気ないとも聞きます」


 国の大きさ、国民の気質が違うのだから、車事情、道路事情は違って当たり前。

 このあと日本のほとんどの車に導入されるドアミラーの自動開閉装置だが、米国人はかなり奇異に感じたらしい。


「コンパクトな車をさらにコンパクトにするなんて、日本人クールだぜ! だけど大してコンパクトになってないよな、HAHAHA」なんて笑うのだろうか。


「おっ、橋が見えてきたな」

「そうですね。……位置からすると、リッチモンドとサン・ラファエルを結ぶ橋ですね。名称はそのまま『リッチモンド・サン・ラファエル橋』です。橋の真下がサンフランシスコ湾になります」


「ほう。いまにも崩れそうな橋じゃが」

 建築に目がいくのか、老人がそんなことを言った。


「いつ完成したのかは記憶にありませんが、三十年以上前にはもう、この橋はあったようですよ」

 俺が生まれる前に製作された映画『ダーティハリー2』に、この橋が登場している。


 アメリカ人は、橋を架ける技術は昔から進んでいて、成功も多いが失敗も多い。

 風でのねじれや固有振動による揺れの増幅など、日本でも参考にしたデータは多い。


 そういえば、まだ製作こそはじまっていないが、古い屋根のついた橋の写真を撮りに来た中年男性と、たまたま出会ったマダムのわずかな邂逅を題材とした映画がある。『マディソン郡の橋』という映画だ。


 奇しくも、『ダーティハリー2』と同じ俳優が主演していた。

 銃をバンバンと撃ちまくる姿も良いが、ゆったりと流れる時間の中で行われる心理描写、古い家の中で行われるゆっくりとしたダンスなど、日本人からすれば普段見慣れているドラマと同じだが、米国人からしたら少し単調だったのではなかろうか。


 車はリッチモンド・サン・ラファエル橋を渡ってから南に進路を変えた。

 この運転手、フリーウェイを下りてから住宅街を走ったことといい、サンフランシスコに向かうのに北に向かいすぎているし、道を間違えたな。


 そんな風に思っていると、目の前が開け、ゴールデン・ゲート・ブリッジが現れた。

「これを見せたかったのか……?」


 ゴールデン・ゲート・ブリッジは、かつて世界最長の吊り橋として名を馳せ、欄干(らんかん)からの飛び込み自殺で悪名を轟かせた。

「ほう、これは見事な紅色の橋じゃな」


「あれが有名な金門橋(きんもんきょう)、ゴールデン・ゲート・ブリッジです」

「見事なものじゃ」


「あの紅色はもともと、本塗りをする前の下地の色だったそうですよ。ただ色が気に入ったとかで、その色を使うことに決まったそうです」

 良い赤色を出すために塗料の開発までしたというのだから、力の入れようがうかがえる。


「ふむ。良い色じゃ。……して、自由の女神はどの辺にあるのじゃ? たしか、小さな島だったな」

 車はゴールデン・ゲート・ブリッジに入った。老人はキョロキョロと海を見回すが、もちろん自由の女神はそんなところにはない。


「自由の女神はニューヨークのリバティ島にあります。西海岸と東海岸では距離が天と地ほど離れていますよ」

「そうか……残念じゃな。今度、見に行ってみるか」


「それもいいですね。ちょうどいま、左手に見えている扁平(へんぺい)な島がありますよね」

「うむ。見えるぞ」


「あれはアルカトラズ島です」

「監獄島か!」


 老人がヒザを叩いた。

「ええ、有名な映画がありましたね」


「あれは痛快じゃった。脱獄不可能といわれた島内の刑務所から脱出する話じゃな。たしか実話をもとにしたと思ったが……」


「ええ、刑務所を脱出して、いかだで海に出て消息不明となったフランク・モリスを題材とした映画です。映画の主人公も史実同様、フランク・モリスという名前だったと思います」


 そして映画のラストも史実と同じ、いかだで海に漕ぎ出して終わる。

 そういえば、フランク・モリスを演じたのは、またもやあの俳優だ。


『ダーティハリー2』『マディソン郡の橋』に続いて、『アルカトラズからの脱出』でも主演をしている。

 今日は本当によく、同じ映画俳優のことを思い出す日だと思った。



映画『マディソン郡の橋』は、独特なスローテンポがいい味をだしている名作だと思っています。

本文に書いた通り、『ダーティハリー2』『マディソン郡の橋』『アルカトラズからの脱出』はすべて、クリント・イーストウッドが主演しています。


この物語は、バブル崩壊直後の時代を背景としています。

と言っても、そもそも「バブルってどんな時代だったの?」と疑問に思う人も多いと思います。

ネットで調べれば、バブル当時の常軌を逸した話が出てきます。


では実際はどうだったのか。

今回は私が体験した子供時代(バブル時代より少し前)の話をしてみたいと思います。


高度経済成長時代にくらべるとささやかですが、私の子供の頃には夢や熱気がありました。


とくに1980年頃には、地下が値上がりし、一億総中流が達成された時代だったと思います。

物不足が深刻化して、いくらでも仕事がありました。また、新しく商売を始める人がたくさんいました。そしてほぼ全員が成功しました。

経済が活性化していたことで、だれでも成功する時代に突入したのです。


さて、1970年代の子供たちは、まだ地域の大きな子供が小さな子供の面倒をみて、一緒に遊ぶ時代でした。


私が物心ついたころには、3~4歳上のお兄さんお姉さんを筆頭に、ひとつの集団が形成されていて、そのグループの中で遊ぶというのが一般的でした。

家の中では遊べないので、もっぱら山や原っぱです。崖とツタがあればターザン、川が流れていればジャンプで度胸試しが普通です。


年上のお兄さんお姉さんからいろんな遊びを教えてもらいましたが、年少は「みそっかす」ということでハンデが与えられて、なんとか集団についていくような感じです。


毎年、上の子が抜けて、下が入ってくるので、私も小さな子の面倒をみていました。

大人は一切関わらないので、子供たちだけのコミュニティですね。

いまはどうなんでしょう。そういう集まりは残っているのかな?


普通の遊び以外にも、山で果物や花の蜜を吸って、蛇がいたら捕まえる感じですね。

当時、ヤマカガシはまだ毒を持っていることは判明していませんでしたので、積極的に捕まえました。

だいぶあとでハブやマムシより強力な毒を持っていることが分かって、「何十匹捕まえたと思っているんだ」と。


蛇の中でアオダイショウだけは捕まえることはしませんでした。守り神ですね。よく家の台所に自分の背丈より長いのが出ましたけど、家族全員気にしません。いつも正座をしてごはんをたべているのですが、そのすぐ横を這っていたりしてもそのままです。アオダイショウだけは特別な存在でした。


怖いのはマムシですが、だいたいいそうなところは分かるのと、遠くからでも見分けがつくので、避けるのは余裕でした。ただ、アオダイショウの子とマムシの区別はつかないんです。一応、目が丸いのがアオダイショウで、トカゲのようになっているのがマムシです。(ただしそこまで近づけない)


通常は、頭の形で判断します。三角形はマムシでだいたい小川にいて、とぐろをまいていて、後ろに回り込もうとしても顔を向けてくるのが特徴です。

実際、かなり警戒心が強く、マムシは数回しか捕まえたことがありません。

首元を強く握ると牙から白濁した毒を垂らすので、マムシを持って友達を追いかけたのもいい思い出です。(よい子はマネしないでね)


ちなみに近所のおじいさんがマムシに噛まれたとき、もぐさを塗って終わりにしていました。いいのか? と思いましたが、その後も元気にしていたので、民間療法でしょうか。(笑)


この頃の子供たち(幼稚園児から小学校停学年)は、生まれが1年違うだけでマクロな開きがありましたので、私は下剋上の喧嘩をよく仕掛けては返り討ちにあっていました。

その辺の経験が人格形成にかなり影響を及ぼしたなと、あとで思いました。


ある日、ラーメン屋でアルバイトしている強面のおにいさん(10歳以上年上)が、遊んでいる私のところにやってきて、「ちょっと待ってろ」と近所の駄菓子屋に行って板チョコ(当時高級で60円くらい)を買ってくれたことがあります。「おまえは根性がある」かららしいです。どこに話が広がったのやら。


そんな感じで、1970年代はまだまだ古くさい昭和の因習が普通に残っていた時代でした。

大きいお兄さんお姉さんたちが、下の子の面倒をみる風習が崩れたのはいつ頃か考えました。

1980年代にはもう、あまり残っていなかったように思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] ヘビはダメ!ぎゃー
[一言] ダーティハリーと言えば かつては銃を撃ちすぎるデカの代名詞でしたが 今観るとありきたりの刑事物にしか見えないのは 恐ろしい事実です。
[一言] 騙したつもりが騙されていたと気付いた時どんな顔をするのやら
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