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073 英語クラブ(2)

「……以上から、リスニングを上達させたければ、英文がいくつのシラブルに分けられているか注意してみてください」

 これで、ネイティブの英語が速すぎて聞き取れないということも少なくなるはずだ。


「なんか大賀くんが話すと、すごく英語らしいリズム感? かっこよく聞こえるわ」

「外田先輩も発音はいいので、慣れればすぐマネできますよ」


「そうかな? でも練習してみるね。あと気をつけることとかある?」


「あとは文全体のイントネーションですかね。これは本人が強調したい、重要な部分に自然とつきますので、頭の中に入れておくといいでしょう」


「イントネーションね。分かったわ。これも意識してみる」

「そういえば、外田先輩はイントネーションを高低で付けていますね。日本語だとそれは正しいのですが、英語は強弱です」


「えと、どこが違うの?」

「日本人は、『橋』と『箸』を音の高低で区別しているんですよ。それを英文に持っていくと、やはりちょっとおかしな感じになります」


「うっ……そうなのね」

「反対に、外国人が日本語を話すとき、つい母国語の強弱を付ける例がありますね。『日本食が、()ぁ~い好き()ース!』なんて大げさに強弱を付けて話すのを聞いたことがないですか?」


「あるある。テレビでよく見たけど……あれが強弱なのね。よく分かるわ。たしかに、日本語に強弱はおかしいかも」


「日本語の高低を英語に持っていくと変に聞こえるし、逆もまたしかりなんです……早乙女(さおとめ)先生が来たので、そろそろ終わりにしたいと思います」


「アラッ、わたしがいても、問題ないわよ」

「いえ、これはクラブの活動とは関係ない内容ですので」


「ソウ? 残念ね。……でもまあ、時間はあるものね。また今度、みんなに教えてあげてね。そしてシューイチにプレゼントよ」

 顧問の早乙女マリ先生は、俺にウインクしながら手紙をヒラヒラと振った。


「国際郵便ですか……ということは、この前の返事が来た?」

「ザッツ、ライッ! さあ、受け取って」


 この英語クラブに入った直後、俺はアメリカの経済学者ジョー・ロジャーに手紙を書いた。

 早乙女先生に預けておいたのだが、どうやら連絡先を探し出して、送ってくれていたようだ。


「ありがとうございます。帰ったら読んでみます」

「じゃ、次回、読んだ感想を聞かせてね。……それじゃ、今日はコレをやります。みんな、プリントを一枚ずつ取ってね」


 わら半紙に印刷された紙を一枚もらう。

「The Raven……ポーの詩ですね。陰鬱(いんうつ)なので、一度しか読んだことありませんが、これが今日の教材ですか」


「シューイチはさすがね。そう、ポーの詩の中でも有名なものよ。まずは何も言わないから、自分の目と耳でじっくりと感じてみて。ハイ、スタート!」


 英語クラブの部員は慣れているのか、すぐにプリントに没頭しはじめた。

 エドガー・アラン・ポーは、小説家として有名だが、実は詩人でもあった。


 江戸川乱歩のペンネームの元になった人物であり、『モルグ街の殺人』や『黄金虫』などは、日本でもかなりの知名度をほこる。

 一方、ポーの詩集はあまり日本では浸透していない。


 もっとも、ポーの詩自体、本国アメリカよりも、ヨーロッパの方で人気になったと聞いたことがある。

 東欧には世界的に有名な詩人が何人もいるし、いまでも詩の授業があることを考えれば、アメリカより詩が身近なのだろう。


「まずは自分の目と耳でか……」

 ポーの詩は複雑な韻律(いんりつ)を含んでいて、黙読しただけでは、それに気づけない。


 早乙女先生がわざわざ『耳で』と言ったのは、音読してアクセントの強弱から韻を読み取ってもらいたかったのだろう。

 あえて何も言わず、放任したところに、先生の強かさを感じる。


 早乙女先生を盗み見ると、「しぃー!」と人差し指を口に立てていた。言うなということだろう。

 このあと、プリントの内容についてディスカッションがはじまる。


 詩の内容について語るだけでは、早乙女先生の術中に嵌まるだけだが、さて……。

「ねえねえ、大賀くん。これ……すごく暗いお話?」


 外田先輩が全体の三分の一程度読み終わったようだ。

 難しい単語もないので、スルスルと読めるのだろう。


「そうですね。深夜、主人公の前に突然現れた人語を話す大鴉との対話ですからね。徐々に精神を乱されていく話ですから暗いですね」


「うんうん、そうだよね。なんか、読んでいて暗くなるというか……先生は何を考えてこれを読ませたんだろう」

 外田先輩は三年生。早乙女先生と付き合いは長いはず。


 考えがあってのことと察しているものの、真意を測りかねているようだ。

 ここは少し手助けしてみるか。


「外国の詩に触れる機会って少ないですからね。一番身近なのは中国の詩でしょうか」

「そうね。漢詩なら、漢文の授業で習ったわ」


杜甫(とほ)の「春望」は、ウチのクラスでも、いまやっていますよ」

「ああ、『国破れて山河あり』ってやつね」


「そうです。五言律詩のアレです」

「韻を踏むから綺麗に聞こえるのよね……ん? そういえばこれも……」


 外田先輩は何かに気づいたようだ。

 早乙女先生を見ると「こらっ」という顔をしている。


 このくらいのアドバイスはいいのではと思ったので、知らんぷりしていると……。


「Thing of evil!(悪い子ね!)」と、詩の中の一文を使って注意してきたので、すかさず「Nevermore(二度と言いませんって)」と返したら、早乙女先生は降参とばかり、両手を挙げてた。


 いまので、早乙女先生のもう一つの意図を潰してしまっただろうか。

 俺、何かやっちゃいました?



リアルが忙しく、明日も明後日も(涙)、投稿は数日に一度になりそうです。


ポーの詩「The Raven」については有名なので、とくに解説はしません。

米国ではパロディとして使われることも多いので、テレビで似たものを見た事がある人もいるかと思います。

早乙女先生は、韻を踏んだ美しさにも目を向けてほしかったわけです。

そして大賀くんの最後のセリフ「Nevermore」ですが、これは大鴉の言葉です。


大賀もとい、大鴉が何度も「Nevermore」と言い、その都度、意味が違ってきます。早乙女先生はそこにも気づいてほしかったのですね。やはり「Never」という部分がいい味を出しているのかなと思ったり。


007シリーズに『Never Say Never Again (ネバーセイ・ネバーアゲイン)』というタイトルの映画があります。


興業タイトルはカタカナでしたが、意訳すると『「次はない」なんて言わないで)』(wikiより)となります。私は劇中の意味から『「二度とゴメンだ」だなんて、決して言わないで』を推します。


これは1983年に日本で映画が公開されたときに、ある批評家が訳した言葉でした。

私は007シリーズの大ファンだったので、それを聞いて、親を説得して劇場公開を見に行きました。

そのせいか、この歳になっても『Never Say Never Again』の訳は『「二度とゴメンだ」だなんて、決して言わないで』以外認められません。(頑固)


そういえば、名言の多いシェイクスピアですが「was」の使い方が幅広く、想像力をかき立てられると個人的に思っています。どう訳すかで前の文章(物語)の理解が変わってくるなと。

「昔、そんなことがあったよ」「過去の話だね」と意訳したり、シンプルに「昔ね」「あったね」でもいいし……と、ネットで同好の士を探したら、だれもいなかったです(涙)。


それでは引き続き、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 英語って深いのね エドガーアランポー詩集持ってました。けど今は無い。残念
[良い点] 今日追いつきました!続きが気になってしょうがないです!隠れた陰謀、クラスメイト達とののんびりとした日常、どれも気になります!
[一言] こういうのは確かに英語クラブとしていい題材ですねー 国語の授業で和訳した大鴉とか読んで内容は分かったとしても原詩で聞かないと韻のリズムとか雰囲気とか伝わりませんし
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