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071 米国行き

 俺は、菱前老人との電話を終えた。

 

 米国の投資会社であるグローバル()トラディショナル()マネージメント()社――GTM社が出てきた。

「ついに」よりも「早すぎる」という思いが強い。なぜ今なのか?


 バブル期、大いに稼いだヒシマエ重工とはいえ、いま動かせる現金はそれほど多くない。

 現金で数千億円を用意するのは大変なはずだ。


『夢』の中でヒシマエ重工は、銀行からの融資でそれを揃えた。

 だが騙されたことで、銀行は融資した金の返却を求めた。


 当然の話である。そもそも融資金を目的以外に使うことは契約違反となる。

 マンションを買うからと融資を受けて、借金返済に使ってはいけないのだ。


 ヒシマエ重工は困ってしまった。金は返さなければならないが、手元には現金がない。

 かといって資産を売却しようにも、日数がかかる。すぐに返せるアテなど、あるはずもない。


 そこに現れたのがGTM社である。

「詐欺師から回収した資金、もしくはこちらが指定する事業や特許、不動産を担保にするのでしたら、お金を貸しますよ」


 そう言ってきたのである。

 この時はまだ、詐欺師は逮捕され、金も戻ってくるとヒシマエ重工は思っていたと思う。


 GTM社から金を借りて、銀行に返却。

 詐欺事件の動向を追いつつ、組織再編をはじめていた。


 だが、事件は迷宮入りしてしまった。

 GTM社への返却期限が迫り、ヒシマエ重工はなくなくドル箱の事業をいくつも譲り渡さざるを得なくなってしまったのだ。


 あの詐欺事件でもっとも儲けたのは、詐欺の主犯を除けばGTM社である。

 そう言われるほど、GTM社はおいしいところだけを手に入れた。


 その後、ヒシマエ重工は細々と事業を続け、荘和コーポレーションに吸収合併されることになる。

 抜け殻のようになっていたヒシマエ重工だが、海外におけるノウハウや数多くの拠点は、荘和コーポレーションにとって必要なものだった。


 それが格安で手に入ったのだ。

 荘和コーポレーションも、巨額銀行詐欺事件で得をした企業のひとつであろう。


 だからといって、荘和コーポレーションが詐欺事件に関わったかといえば、それは否。

 同じく、事件発覚後に接触してきたGTM社にも、同じ理屈が通用する。たとえ、巨大な利益を得たとしても……。


「まだ詐欺が発覚していないこの時期に接触か……」

 菱前老人は主犯を捕まえるため、いまだ騙されたフリをしている。


 契約を締結してしまっては拙いので、理由をつけて引き延ばしている最中だ。

「現金をすぐに揃えられない」と「銀行が融資に消極的で」と理由を挙げていたら、「いい話がありますよ」とGTM社を紹介されたらしい。


 この出会いは偶然か、それとも……。




 数日後、俺は菱前老人の屋敷に向かった。というか、黒塗りの車が『また』家に来た。

 それはいい。ご近所の評判が下がるだけだ。


「もうすぐ夏休みじゃな」

「そうですね」


 この場で天気の話題は相応しくないが、俺の高校生活の予定も、話のとっかかりとしてはどうなんだろう。

 広い和室に、俺と老人の二人だけ。使用人も遠ざけているらしく、気配もない。


「GTM社のことは、驚いた」

「そうでしょうね。俺も驚いています」


 この時期に接触してきたことがだ。

『夢』の中で最大の利益を享受したGTM社が、まだ新聞発表も前の段階で接触してきたのだ。


「証拠は集まっておるが、社員は愚直な者が多くての」

「会社員にダブルオーセブン《007》ばりの活動を求めないでください」


「ふむ……たしかに我が社には、ショーン・コネリーはおらんな」

「そこはティモシー・ダルトンと言うべきでは? 私はロジャー・ムーア派ですが」


「ロジャー・ムーアか。あれもよかった。ただ儂は、007より古い時代の……そう、リチャード・バートンのようなタイプが好きでのう」

「……? ああ、ル・カレですね」


「そう。知っておったか」

 老人は手を叩いて喜んだ。


 バートンは、ジョン・ル・カレの小説『寒い国から帰ってきたスパイ』をもとにした映画に出演している。

 悲劇的な結末をむかえるため、あまり成功者である老人が好む映画とも思えないが、個人の嗜好はまた別なのだろう。


「詐欺師を相手にするには、相手の虚実を見抜き、こちらの意図を悟らせないことが重要です。重役の中で適した者がいないというのも分かる話ですが……」

 なぜ社内の話を俺に言う?


「きゃつらは、ゆっくりと泳がせる予定じゃった。だが、社内でも銀行買収に期待している者も多くての。引き延ばしも限界かもしれん」

 ヒシマエ重工の銀行買収は、戦略的な面もあるが、財閥の悲願でもあるだろう。


 もちろん、いまの体力ならば、新規に銀行業務を始めることは可能だ。

 だがこれから先、海外展開を視野に入れていく場合、日本国内で信用を経て、少しずつ店舗数を増やしながら海外を見据える……などとやっているヒマはない。


 まず海外に強い銀行を買収し、日本国内はどこかの信用金庫を買収するかして支店数を確保するつもりだろう。

 その方が、ゼロからはじめるより、よほど時間とコストがかからない。


 それが分かっているからこそ、この銀行買収に期待をかけている役員が多いのだと思う。

 老人に意見ができるくらいだ。かなり重要なポストを任されているはずで、その者すら今回の詐欺事件について、まだ真相を知らせていない。


「情報漏洩を気にする以上仕方ありませんが、人が足らないのではないですか?」

「その通りだ。……と言うことでの、今度向こうで詳細を詰めるのじゃが、一緒にどうじゃ? もうすぐ夏休みであろう?」


「…………」

「さすがに動く額がデカい。儂が出るしかない。じゃが、周囲の者で詳細を知っているのがほとんどおらん。……なに、後学のためとか、通訳とか、そんな感じで参加してくれんか? もちろん、それなりの礼はするぞ」


 老人は、GTM社が出てきた段階で米国に渡ることを想定し、俺に同行してもらうつもりでいたのだ。

 おそらくだが、この詐欺事件も、次で決めるつもりだろう。


 途中から煮え切らない態度になったことで、相手も不審に思うかもしれない。

 この件に関しては、時間が味方してくれるとは限らない。


 少しでも不審がられたら、そのまま逃げられてしまう可能性が高いのだ。

 老人が腹をくくっているのだとしたら、俺も協力するのはやぶさかでない。


「……分かりました。ちょうどパスポートを申請したところですし、米国までお付き合いします」

「そうか。それはよかった」


 老人は破顔した。このあと、パンパンと手を二回叩いて、芸者が「はーい」とぞろぞろ出てこなくてよかった。

 最近、そういう接待をされそうで怖いのだ。


 なにはともあれ、夏休みに米国行きが決まった。

 しばらく雌伏するつもりだったが、事態は俺の予想を超えて進行している……気がする。



ジェームス・ボンドで有名な007シリーズですが、私はショーン・コネリーとロジャー・ムーアが好きで、ティモシー・ダルトンあたりから「なんか違うな」と思うタイプです。

それと敵役の不死身の巨人が大好きです。

ル・カレですが、本文では映画の話をしていますが、東西冷戦時代のスパイ小説としては秀逸。名作ですよ。

田中芳樹の『白夜の弔鐘』などは、この影響を受けているのではと思っています。確証はないですが。


さて前回、90年代の深夜テレビ黄金期の話をしました。

深夜ラジオの黄金期は、テレビより少し早い80年代だと思います。

というわけで今回は、80年代深夜ラジオについて少しお話したいと思います。


80年代当時、テレビは一人一台という時代ではありません。当時は「チャンネル争い」が死活問題だったのです。私はもっぱらラジオを聞いていました。


小学生高学年から高校卒業くらいまで、結構いろんなラジオを聞いていました。

とくに夜、家族が寝静まったあとは、片耳イヤホンつけて、ラジオタイムです。


深夜ラジオの場合、結構エロがありました。「大人のクイズ」があって、「問題:快速電車は男と女どっち?」「答え:男(駅を飛ばすから)」。小学生だと、意味が分からないんですよ。

逆パターンもありました。「問題:東北から東京にやってきた若い男女が、ホテルの一室であることをはじめました。最初が『せ』で最後が『す』の行為は?」「答え:せけんばなす(東北だから)」とか。


そして深夜ラジオといえば、『オールナイトニッポン』です。一番長く聞いたのがビートたけしで、「ブルボン、ポッカコーヒー、キャニオンレコード、居酒屋ムラサキ、KKベストセラーズ、ワニマガジン社……」毎回オープニングに合わせて軍団が提供を言うのを聞いて覚えてしまいました。

あと、とんねるずをよく聞いていました。高校時代の話や近所の話などをしていたのを覚えています。野坂昭博との喧嘩についても話していました。「この自転車屋のくせにって言ってましたね。あれで全国の自転車屋を敵に回しました」(実家は木梨サイクル)とか煽ってました。


そして忘れてならないのが中島みゆきです。ラジオの中の中島みゆきは、歌のイメージからかけはなれたファンキーなおねえさんです。女性リスナーからの人生相談がよく来ていました。


そう、ラジオは人生相談が聴ける貴重な場でした。とくに小中学生の頃の私は、人生の成功と失敗、葛藤と後悔などをラジオから学んだ気がします。

やたらコアで幅広な知識を持っている小学生がいたら、大抵ラジオファンでした。


若い女性は辻仁成に相談していました。「真夜中のサンダーロード、今夜も抑え切れないエネルギーを捜し続けているストリートのロックンライダー。夜更けの堅い小さなベッドの上で愛を待ち続けている、スリーリトルシックスティーン……」おそらくオープニングはまだ全部言えます。アンテナを伸ばし! 周波数を合わせ! と、抑揚も完璧にです。(笑)


当時、視聴者はFAXではなくハガキを送っていました。ハガキ職人なんていう言葉があったのです。辻仁成は「カード」と呼んでいました。すごくリスナーのことを大切にしていた人でした。


余談ですが、菊池桃子にラジオで悩みを打ち明けても、まともな答えが返ってきません。ド天然なんですね。

「夏休み中、堪えきれずに野グソをしたところをクラスの女の子に見られてしまいました。誰かに話されると思うと、9月から学校に行けません。どうしたらいいでしょう?」というお悩みに「その子の家の近くの電柱に、野グソをしたことをみんなに話さないでください。○○(←ペンネーム)よりって書いて貼っておけばいいんじゃないですか」と答えていました。

天然な回答過ぎて笑ってしまったのですが、本人もすぐ気づいたのか「あっ、でもそうしたらみんなにバレてしまいますね。じゃ、次のハガキ……」って話題が移ってました。

ひどいと思いません? 真剣な悩みに対する回答じゃなかったです。おもしろいけど!


時は流れて、講演会に菊池桃子さんを呼ぶことがあって(しかも2回)、一緒に軽食を摂ったり、雑談する機会があったので、本気で当時のあの回答について聞いてみたかったです。さすがに自重しましたけど!


少し時代が進むと、オールナイトニッポンのパーソナリティにデーモン小暮や小泉今日子が登場するのですが、(忙しく、朝が早かったので)その頃はあまり聞いていなかった気がします。90年代の深夜はやはり『テレビ』なのです。


そして黄金期に忘れてならないのは鶴光です。彼は1部と2部をぶっ通しで行い、毎回エロ満載でした。土曜日でしたので、私はその前の「明石家さんまの、ラジオが来たぞ、東京めぐり、ブンブン大放送!」を聞いていました。そこで就寝ですね。

さんまがリスナーの女性と生電話でエロ体験を聞き出すのが生々しく、おもしろかったです。だいたい創作だと思うんですけど。


平日のオールナイトニッポンの前番組といったら、「ヤングパラダイス」でしょう。

とくにパーソナリティが三宅裕司に変わってからは、かなりヒットしたように思います。

私も毎回聞いていて、当時完全な素人だった三宅裕司に変わる前、「来週から担当するみやけゆうじの漢字はなんと書くでしょう。お葉書募集します」と前パーソナリティが出題し、みな頭を悩ませました。この辺はリアルで聞いていたので、三宅裕司の初回放送もまだよく覚えています。

ヤクザのヤッチャンネタは本当に面白かったです。


私はこの黄金期を迎えたであろう深夜ラジオと深夜テレビに触れられて(青春時代を送れて)幸せだったと思います。

そういえば、小学校を卒業する直前、なぜか「自分でラジオ放送局」ブームがあり、私を含めて何人かが架空のラジオ番組をつくってカセットテープに録音。翌日学校で交換したりあげたりしました。

パーソナリティになりきって、ハガキも自演。まるで視聴者に語りかけるように録音していました。あのカセットテープは完璧に黒歴史です。友達の家にも残ってませんように!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 深夜ラジオ懐かしいけど、良く覚えてますね
[一言] 鶴光のオールナイトニッポン! ここはこんな風に聞こえる 「♪オメチャン オメチン オ○コオ○コ♪」 で始まり。 中には 「いや、それは無理があり過ぎるだろ」 ってのも結構あったな、と。 ウチ…
[気になる点] 本文より後書きの方が長い笑
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