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059 やり直しの人生

 六月がもうすぐ終わる。

 俺がやり直しの人生をはじめてから、八ヶ月が経った。


 もう少し余裕のある生活になると思っていたが、ままならないものだ。

 それでも、当時見えていなかったものが、よく見えるようになったと思う。


 少なくとも『夢』の中の高校生活よりマシな人生が歩めていると……思うが、どうだろう。


愁一(しゅういち)、今日は部活ないんだろ? 一緒に帰ろうぜ」

 放課後、吉兆院がやってきた。


「小学生じゃあるまいし、一人で帰ればいいだろ」

 俺は家に帰って、九星会について調べたいのだ。


 九星会がだめなら、A高校に知り合いを作り、亜門について調べてもいい。

 とにかくやることは一杯ある。


「なあ愁一、そんなこと言わずにさ……そうだ、CDショップに寄ろうよ。新譜(しんぷ)が出てるかもしれないし」

「なになに? どっか行くの?」


 吉兆院と話していると、名出さんがやってきた。

「どこにも行かないよ。俺はまっすぐ帰る」


「ええ~、CDショップ、寄って行こうぜ」

「寄らん」


 俺の高校生活がままならないのは、吉兆院と名出さんのせいでもある。

 鞄を抱えて教室を出ると、吉兆院と名出さんが追ってきた。


「ねえ、駅前でハンバーガー食べようよ」

「CDショップがいいって」


「ハンバーガーがいい」

「おれはやだ」


「あんたには聞いてないから」

「おれも同じ」


 どこにも寄らないと言っているのに、二人して言い合いをはじめた。

「お前たち、本当に仲いいな。二人でどこか行けばいいんじゃないか?」


 この二人の縁は、卒業後も続くのだろう。

 互いに会社の代表になったあとも……。


「そりゃないよ、愁一」

「そうよ、大賀くん。……ねえ、大賀くんはどこに行きたい? 駅前のファストフードでね、ハンバーガー百円セールやってたのよ」


「それよか、CDショップだよな。おれ、昼もハンバーガーだったんだよ」

「お前は昼飯はいつもそれだな」


 相変わらず吉兆院は、健康のことを考えていない。

「その点、あたしは大丈夫よ。じゃ、駅前に行きましょう」


「行かないって言ってるだろっ。俺はまっすぐ帰……」

「愁一く~ん、待ってたよ~」


 校門を出たところで声をかけられた。

 まるで拡声器を通したかと思うほど大きな声だ。


神子島(かごしま)さん……どうしてここに?」

「そりゃ、愁一くんと遊びに行くためよ」


「そう言えば、電話で高校がどこか、聞いていましたね」

「初めて来たけど、愁一くんの家から近いのね。早く来すぎて、時間を持て余してたの」


「そうですか、大学生はヒマでいいですね」

「今日は二限までしか授業がなかったからね! いつ出てくるか、ワクワクしながらずっと待ってたのよ」


「校門前で未成年を待ち伏せなんて、通報案件ですよ。あとで通報しておきます」

「ひっど~い」


「なあ愁一、その人だれだ?」

「神子島(はな)さんって言って……なんだろ、知り合い?」


「彼女で~す」

「にゃぁああああっ!」


「違うっ!」

「じゃあ、恋人ね!」


「うにゃぁあああ!」

「それも違う! ……まあ、こういう人だ」


 一言でいえば、ダメ臭のする女子大生だ。

「それより、愁一くん。カラオケ行こっ! 最近、マイブームなのよね」


「だめっ! 大賀くんはあたしとハンバーガー食べに行くんだから」

「カラオケがいいでしょ? おねえさんがおごってあげるから」


「うにゃぁああああ! だめぇ!!」

 名出さんがふしゅーっと毛を逆立てている。どうやら、神子島さんと相性が悪いようだ。


 二人とも、相手のパーソナルスペースを無意識に削るタイプだから、反発し合うのだろう。

 さてどうしたものかと考えていると、肩をポンポンと叩かれた。


「おれはここで失礼しようかな」

「おい、吉兆院」


「さすがにあの中に入っていく勇気はないからね。じゃ、そういうことで」

 シュタッと片手を挙げて、吉兆院は振り返ることなく行ってしまった。


「お、おいっ……あいつ、逃げやがった」

 止める間もない。こういうときの吉兆院は、いつもの三倍は素早い。


 俺の背後では、いまだ名出さんと神子島さんが言い合いをしている。

 どちらも譲らず、俺の意思は完全無視だ。不毛なこと、この上ない。


 俺は九星会について、家でゆっくり考えたかったのだ。

 長期的な視野で見れば、亜門のいるA高校で知り合いを作るより、『夢』で俺が通っていたK高校の方がいいかもしれない。


 K高校からT大に行った連中はみな覚えているし、のちに九星会に入ったヤツのことも知っている。

 そうすればわざわざT大に入らなくても情報が得られる。


 A高校やT大に近づくことなく、亜門のことを調べられるのも利点だ。

 直接九星会を調べられない以上、迂遠(うえん)だが、確実な方法を採るべきだと思う。


「ちょっと、ねえ! 聞いてる?」

 神子島さんに肩を掴まれた。


「何の話ですか?」

「大賀くん、やっぱり聞いてなかったの? あたしと、このおばさん。どっちと一緒に行くって話」


「愁一くん、こんなヤンキー小娘の言うことなんて無視していいわよね。わたしとカラオケ行こっ!」

「まったく年増は、これだから余裕がないのよ」


「なによ!」

「なに?」


 俺を挟んで、ガンの飛ばしあいが始まった。

 すでに校門前には大勢の人だかりができている。


 遠巻きに見て、だれも近づいて来ない。

 賢明だ。俺だって、他人事だったら、絶対に近寄らない。


「……はぁ、不本意だ」

 俺のやり直しの人生は、どうしてこうなったのか。


 サラリーマン時代、俺は何度も、理不尽な目に遭遇している。

 今回だって乗り切れる。


「「大賀(愁一)くん、わたし(あたし)と行くよね?」」

 実は仲がいいのではと思うほど、息がピッタリだ。


「こうしよう。先にハンバーガーを食べる。そのあとみんなでカラオケに行こう」

 営業時代に(つちか)った能力。玉虫色(たまむしいろ)の決着というやつだ。


 二人はしばし考えたあと、妥協点を見つけたようで、「いいわ、行きましょ!」と元気よく、俺の両腕にしがみついた。

 神子島さんが俺の右腕、名出さんが左腕だ。


「やれやれだな」

 俺の人生は、本当にままならない。


 大勢の生徒が注目する中、俺はハンバーガーショップに向かって、両手に花で歩くのであった。


 そして俺の肩越しに、二人の主導権争いは激しさを増していた。



第一部完となります。


この物語はコロナ前に書かれています。いつ頃だったかなと記憶を遡ってみましたが、だいたいアベノミクスが成功をおさめて、経済はやや回復傾向にあった頃だったと思います。


明るいニュースが増えてきた頃でしたが、それでも所得が伸びず、国内需要は頭打ち。外国人労働者もこのままでは減ってきて、構造的な働き手不足に陥るなどとニュースでやっていました。


「先の見通しが明るいんだか、暗いんだか分からないな」ということで、古き良き80年代、90年代を思い出しながら、書き始めたのを覚えています。


そして書き上がった本小説は、冒頭の5万字くらいをイラストレーターさんと組んで、ネット小説としてアップするという企画で公開されました。


イラストレーターさんと連絡が取れなくなり、数年放っておいたあとに小説を引き上げ、『小説家になろう』で細かい修正を加えた上で再掲載した感じです。


ジャンルは『推理』であり、『ヒューマンドラマ』でもあります。

ですがあえて『ローファンタジー』で投稿をはじめました。ファンタジー要素をしっかり感じてもらいたかったという思いもあります。


それと『20世紀少年』や三部敬のマンガにある「謎が少しずつ紐解かれる感じ」をうまくネット小説で表現できたらいいなと思っています。


第二部についてですが、続きを読みたい読者がどれだけいるかだと思います。望まれていないのに書き続けるのは苦痛ですし。

感想は随時受け付けていますので、よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] やはりラブコメパートがとても邪魔 本筋パートとトーンが違いすぎるのと 強引自己中女キャラたちが古臭い
[一言] やれやれ系男子だった
[一言] 女は三人よれば姦しいと言いますけど、仲が良ければ二人でも延々喋っています。 そんなのに付き合う気は毛頭ありませんけど。
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