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003 一炊の夢

 なぜ俺がK高校へ行かないのか。それには理由がある。

 大きくて深い理由が。


 K高校は自由な校風をウリとして、生徒の自主性を重んじる。

 進んで勉強しない者は落伍(らくご)する。容赦なく、おいていかれるのだ。


 勉強は自己責任と、入学のパンフレットにも書かれている。

 みな、それを理解して入学するのだが、あまりに縛りがないため、アイドルやゲームにハマって、道を踏み外す者が出る。


 それはいいのだが、K高校の生徒はとにかく「勉強してないアピール」がすごい。

 髪や服装は自由なため、好きな髪型や服装で登校し、ファッションの話題にも詳しい。


 頭がいい連中が集まっているからなのか、とにかく勉強以外でマウンティングしてくる。

 これがやたら鬱陶(うっとう)しいのだ。


 どのくらい鬱陶しいかというと、俺が入学式に合わせて髪を短くして登校したところ、初対面で「ガリ勉くん」というあだ名をつけられた。ふざけんなだ。


 それだけなら無視すればいいのだが、「ガリ勉くんはガリ勉だから、勉強しか興味がないんだよね。オレたちはカラオケいくけど、ガリ勉くんは家に帰って勉強かな」などと逐一、絡んでくる。

 まったくもって、うっとうしい。


「昨日のアニメ見た? あっ、ガリ勉くんはいいよ。勉強が忙しくて見てないだろうしね」

 休み時間ごとに俺の所にマウントを取りにやってくる。本当に暇人過ぎる。


 とにかくこの周囲に対しての「勉強してないアピール」がウザくてウザくて、やってられない。


 そのくせ、テストはしっかり準備して、いい点を取ってくる。

「ガリ勉くんはオレと十点しか違わないんだね。ガリ勉なのに変だね」と点数で負けても(あお)ってくる。


 高校時代、ストレスの9割はこの対人関係だった。

 俺は夏休み中に髪を伸ばし、ファッションを猛勉強して、二学期から「そういう風」に振る舞うことにした。


 その方が面倒が少ないし、平穏な学校生活を送れると思ったからだ。

 親に小さなテレビとビデオデッキを買ってもらい、ドラマとバラエティとアニメを録画し、倍速で再生させながら問題集を解いていたりした。


 なにしろ連中は、テストの前日でも夜遅くまで繁華街をうろつくのだ。

 駅前のファストフード店に行くと、K高生がうじゃっといたりする。


「お前ら、明日からテストだぞ。帰って勉強しろよー!」

「おまえが帰れよー」


 なんて言い合ったりする。はっきり言って馬鹿だ。

 ちなみに教師も、(ひね)くれ度合いでは負けていない。


「ここは勉強しなくていいぞ」なんていったところが、テストによく出てくる。

 予習復習よりも、授業で習ってないところを重点的に勉強するクセがついたほどだ。


 なんのために学校へ行っているのか、分からなくなる。


 そんなだから、俺は三年間、長髪をオールバックにし、アメカジ・ファッションで通した。

 ちょうどロン毛が流行ったので、それに便乗した形だ。


 高三のときは(あご)ヒゲまで生やしていたから、両親、近所、親戚の目が冷たかったこと。

 ドラマやバラエティ、アニメにゲームにまで詳しくなり、なんだかもう勉強以外で無駄な努力をしてばかりだった。


 T大でそれが役に立ったことも多いが、あんな高校、もう二度と行きたくない。

 そもそも俺は記憶力がいいので、本当にT大ならいますぐ受験しても、合格する自信がある。


 K高校で無意味なマウントの取り合いに参加する必要性はまったく感じない。


 というわけで数ヶ月後、俺は第一志望である海陵(かいりょう)学院に合格した。

 ついでに受験した()()()()()のK高校とA高校にも合格している。


 行くつもりは、これっぽっちもないが。

 俺が海陵へ行くのは冗談だと思ったようで、教師や生徒のみならず、両親すらも驚いていた。


 高校などどこでもよかったが、海陵学院は最寄り駅から三駅で近いのだ。

 あとから思い返しても、いい選択だったと思う。


「さて……しばらくは雌伏(しふく)の時だな」

 アホなK高校に行かなくて済んだ。


 将来のことを見据えつつ、好きに生きたいと思う。




 そして今日は、海陵学院の入学式の日。

 制服はブレザーにネクタイ。このスタイルは慣れているから楽だ。


『夢』の世界で散々着たので、違和感がない。

 そうそう俺は、前の人生のことを『夢』と考えることにした。


「夢で見た」というやつだ。


 俺が面談のあの日に戻ってきた理由を以前、三つほど考えた。

 妄想か、逆行(ぎゃっこう)転生(てんせい)か、昏睡状態で見ている夢かだ。


 検証した結果、妄想というセンは消えた。

 というのも、未来予知に等しいほどの正確さで、記憶通りの事件がおきるのだ。


 俺がエスパーでない限り、妄想ではありえない。

 かといって、死ぬか植物人間というのも嫌だ。受け入れたくない。


 というわけで、時間をかけてゆっくり考えた結果、2と3の折衷(せっちゅう)案を採ることにした。

 仕事相手との交渉で互いに譲れない場合、両者の意見を半分ずつ取り入れた玉虫色(たまむしいろ)の決着をみることがある。今回、それを採用した形だ。


 一度目の人生は『夢』であり、実際には起こっていない。

 だが、『夢』をトレースするように動くと、確実にそれは起こる。


 俺の場合、上司と会社に()められ、マスコミに追いかけられ、拘留から起訴、拘置所に入れられ裁判がはじまる。

 そしてあの暑い夏の日、冤罪が晴れた俺は、胸の苦しみを感じながら倒れるのだ。


 ゆえに俺は、別の道を歩もうと思う。

 もうあくせく働いて、上を目指すのは飽きた。


 やればできるが、それは『夢』で経験済み。のんびり生きてもいいじゃないか。

 というわけで目標の一つは、『夢』に縛られずに生きること。


 今生(こんじょう)こそは、生きる過程を楽しむのだ。

 あと、俺を嵌めた上司と会社は潰す。『夢』での出来事だったけど、絶対に潰す。


 俺はその二つを当面の目標にした。



お読みいただきありがとうございます。


本作品はタイムリープものです。

未来の2030年から過去の1990年にタイムリープした主人公が活躍する物語です。

実はエンディングまでの細かいプロットはすでにできていたりします。すべてタイムテーブル化されていて、イベントや伏線の繋がりも処理は終わっています。


といってもまだ、ラストまで書いていませんので、まずは1章のみ毎日連載しようと思います。

明日(4月2日)は2話一度に投稿します。時間は毎日18時です。


以下宣伝させてください。

「ヒューマンドラマ」ジャンルにて連載中の『男女比がぶっ壊れた世界の人と人生を交換しました』が書籍化されます。

発売日は今月の26日です。


「普段ヒューマンドラマなんて読んでないよ」という方もおられると思います。


簡単にあらすじを書きますと、主人公は女神の誘い(口車?)に乗って、男女比1:1000の世界の人と身体を交換しました。

全然モテなかった男子がモテモテの世界に行ったわけです。ヒャッハーとはっちゃけるのですが、そこで主人公は気づきます。


この世界の女性は、もとの世界でモテなかった俺と同じだと。


そこで主人公は、モテ人生を歩みつつ、男性との接触機会すらない女性たちのために行動していきます。

モテない男がモテ男になって、モテない女のために奮起する。そんなお話です。


宣伝のため、「一炊の夢」の目次ページ下部に書籍版の表紙画像を張らせていただきました。


「男女比ぶっ壊れ」は現在も「なろう」で連載継続中です。

一読いただけたら幸いです。よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 高校で嫌な思いをして、それでも良い大学に入ったお陰で社内の風当たりは違ったと思う。 中高はどこでも良かったりして、大事なのは大学 いわゆるFランと言われる大学に入ったら その会社のスター…
[一言] 嵌めたやつを合法的に叩き潰す。良いですね。徹底的にお願いします。
[一言] 嫌な学校やなあ 仮にいい出会いが当時あったのだとしても2回目は行きたくなくなりますね
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