表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/121

024 カラオケボックス捜索

 翌日の放課後、俺は書店で『ポケット地図』を買った。

 大きくて見やすいしっかりしたものを買いたかったのだが、持ち運びを考えたら妥協せざるを得なかった。


 しかし、地図に頼らなければいけないというのは不便だ。

 スマホがあれば現在位置が分かるし、検索できればカラオケボックスくらいすぐなのだが、この時代にはないものねだりとなってしまう。


 模試を受けた駅は覚えている。

 さすがに周辺の道路や建物の記憶は残っていないが、地図を片手に歩けば大丈夫だろう。


 駅前に立ち、周囲を眺めた。

「ここに間違いない。当時の記憶のままだ」


 やはり俺の記憶力は優れている。

 四十年前に一度だけ訪れた駅だか、懐かしくもある。


 当時のやるせない気持ちが蘇ってくるようだ。

「高校の三年間は、T大に入ることだけ考えていたんだな」


 K高校では内心で「無駄だ、無駄過ぎる!」と愚痴りつつも、世間の流行に合わせていた。

 いまにして思うと、あれはあれで無駄ではなかったのかもしれない。


 もしK高校の連中に話を合わせなかったら、高校三年間で記憶に残っているのは、机の上に広げられた参考書とノートだけになっていたかもしれない。


 当時の俺は、なるべく顔に出さないよう周囲に合わせていた。

 周りの友人も、ただの『同調圧力』で嫌々興味あるフリをしているだけだと考えていた。


 だがもしかすると、彼らは本当にアイドルや女優、マンガやアニメ、ゲームに興味があったのかもしれない。

 当時の俺が低俗な娯楽と断定したものに、価値を見いだしていたのだろうか。




 地図を見ながら駅から繁華街に向かって歩く。

 カラオケボックスを探しながら、通った道にチェックを入れていくと、不思議なことがわかった。


「こんなものだったか……」

 探す前は、どこにでもあるものだと思っていたが、いざ目を皿のようにして探しても、なぜか見つからない。


 偏見とは恐ろしいもので、「カラオケボックスでも入れときゃ、人が来るだろ」的な感覚で、もっとあるものだと思っていた。

 だが結局、繁華街をくまなく歩いたが、カラオケボックスを見つけることはできなかった。


 繁華街から少し離れたところで、ようやく一軒だけ見つけた。

 看板には音符とマイク、それに『(らく)カラ』と書かれている。間違いないだろう。


 外から覗いた限りだが、中はあまり大きくないと思う。

「――もう少し、探す範囲を拡げてみるか」


 雑居ビルはまだまだある。

 ほとんどは飲み屋か事務所が入っているが、そこにカラオケボックスがないとも限らない。


 見落としてはマズいので、地図を片手に細道まで念入りに歩いた。

『ポケット地図』に記された道がすべて埋まるまで……駅の西側と東側ともに歩いたが、他に見つけることができなかった。


「あの一軒だけか。だけど、本当にそうか?」


 当時の状況を思い出す。

 模試を受けた会場の近くを救急車が通過した。それは間違いない。


 模試の会場は駅前だったが、あれは東口だった。カラオケボックスは西口だ。

 本当に西口の一軒だけでいいのか? 見落としている可能性はあるか?


 もう一度、地図を見る。

 書き込みだらけになってしまったが、駅周辺はすべて歩いている。地図上の見落としはない。


「そうだ! 聞けばいいんだ」

 検索するクセがついていて忘れていたが、こういう場合、知っている人に聞けばいいのだ。


 俺は駅のインフォメーションセンターに向かった。

「友達と待ち合わせをしていて、この駅に『楽カラ』以外のカラオケボックスってありますか?」


 そう尋ねてみた。

「カラオケボックスですか? 『楽カラ』以外にあったかしら……」


 センターのお姉さんは首を捻り、店舗名が描かれた地図を見ている。お姉さんの記憶にもないらしい。

 だとすると、あの一軒で決まりだが。


「室長、『楽カラ』以外のカラオケボックスって、ありましたっけ?」

 四十代半ばのやや小太りな男性が奥からやってきた。


「カラオケボックス?」

「ええ、この子が友達と待ち合わせしているんですって」


「そうか。う~ん……独立していないけど、ボーリング場の中にあっただろ」

「あっ、『エコサウンド』ですね。そういえばありました」


「あるんですか?」


「ボーリング場の二階にポケットビリヤード場があります。その奥にカラオケボックスが入っていますね。それほど大きくないけど、お友達はそこにいるんじゃないかしら。あそこ、手前はフードコートになっていて、ボーリングした人たちがよく使うの。待ち合わせにピッタリだわ」


「そうですか、ボーリング場の二階ですね。ありがとうございます。行ってみます」

「楽しんできてね」


「はい、ありがとうございました」

 聞いて良かった。そんなの、建物の中に入らないと分かるわけがない。


 行ってみると、たしかにカラオケボックスはあった。だがここも小さい。

 受付に見取り図があるが、四部屋しかなかった。


「これで漏れがなければいいんだが、二箇所はやっかいだな」


 二箇所見つかったのは良かったが、同時に監視することはできない。

 二つのカラオケボックスは離れているが、五分も走れば到着できるだろう。


 だがその五分が致命的になる可能性がある。

「被害者の名前さえ覚えていれば良かったんだが……」


 覚えているのは、大学一年の女性ということだけ。どこの大学かも知らない。

「子供の日までまだ時間はあるし、落ちついて対策を練ろう」


 俺は地図に印をつけ、その場をあとにした。



昔は情報を得る手段が本当に少なく、東京を歩くときは手帳にある路線図や、本文にあるように小さな地図が重宝しました。


そしてカラオケ。

このカラオケ文化はかなり昔からあって、1980年代にはすでに家庭用カラオケが登場していました。

標準機で10万円くらい、高級機だと20万円くらいした記憶があります。もちろんカセットテープです。


CDカラオケが登場するとグッと値段が下がるのですが、それでも自宅でカラオケは富裕層の遊びだよなと思っていました。

親戚が集まると必ず『カラオケ大会』が開かれるので、各家庭に一台はカラオケセットがありましたが。


そしてカラオケボックスですが、昔は室料+1曲100円~200円が主流でした。コイン投入口があって、100円玉をテーブルに積んでカラオケを楽しんだものです。


本文に出てくる頃はすでにカラオケボックスが飽和状態で、人数×時間の「歌いたい放題」をうたった店が半数以上だったと思います。


もう一つ忘れてはならないのが飲み屋のカラオケで、各テーブルに紙と鉛筆が常備されていて、曲名を書くと店側でカラオケを流してくれるサービスがありました。5曲1000円。


息子が高校生の頃(5、6年前)、「友達とカラオケ行く」と言われるたびに5000円渡していたのですが、毎回1000円~2000円「余った」と戻してくるので、カラオケ代は昔も今もそれほど変わってないかなと思っています。

ちなみに娘が「友達と出かける」と言うたび、5000円渡していますが、一度も戻ってきたことがないです。娘はお買い物上手なのでしょう。(違

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 学生の頃に行ってたカラオケ屋とかはコロナ禍で潰れてもう行動範囲内だと、一店舗しか生き残ってないな。 まねきねこなんかはドリンクバーで安く利用できて良かったんだけどなー。
[一言] 自分が高校生の時は、カラオケまねきねこというチェーン店の高校生はフリータイム(混雑時は3時間)が550円の激安コースで歌ってました。勿論親には水増し請求していましたが…
[一言] フリーで歌うなら高い場所でも二千円はいかないから食事代こみで余ったという息子さんと全て使いきるのが礼儀な娘さん
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ