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一炊の夢 ~エリートリーマンのやり直し~  作者: もぎ すず
第三部 儚きエリートリーマン
116/121

115 2030年 あの夏の日、決着

 神宮司あやめはずっと昏睡状態だったが、サクラメントの病院で目を覚ました。

 もう二度と目を覚まさないのかと、名出琴衣は安堵のあまり大粒の涙を流したほどだ。


 そして、あやめから聞いた衝撃的な話。

 エネルギー不足に端を発した第三次世界大戦を望んでいる勢力がいて、ミスターはそれを妨害しうる存在と思われて排除されたのではないかと。


 まるで陰謀論のような話だが、今現在もミスターが落札した工場建設は遅れに遅れている。

 あやめが退院したいまになっても、工事の着工には至っていなかった。


 たしかにこのままでは、どれほど素晴らしいエネルギー構想でも机上の空論。

 このままでは、戦争を望む者の思惑通りとなってしまうだろう。それゆえ琴衣は戦うことにした。


「……ふう~」

 琴衣は緊張して、大きく息を吐き出した。


 スマートフォンを見ると、長年の友人であり今回の戦友でもある吉兆院優馬から激励の言葉が届いていた。

 もっともいつも通りの「がんばってね。応援しているよ」という軽いものだったが。


「今日が正念場よね!」

 特別背任容疑で捕まったミスターはすでに起訴され、裁判がはじまっている。


 公判はおよそ月に一度。平均的なペースだ。

 月日が経つにしたがって、マスコミの関心が薄れてきた。


 このままひっそりとミスターの有罪が決まってしまうのではないか。琴衣はそんな焦燥にかられた。

 ゆえに直接動くことにしたのだ。証拠を集めた結果、ミスターは冤罪であることがほぼ確定した。


 そうなるとなぜ、荘和コーポレーションはミスターに罪を着せたのか。そこが問題となる。

 表だって調べると、証拠を消されるおそれがある。そう思った琴衣は、優馬と協力して一番怪しいと思われるミスターの上司を調べた。


 今日はこれまでの結果を検察に話し、集めた証拠をすべて提出することにした。

「電話で予約しました、名出琴衣です。本日十四時から検事正の横田様との面会する予定になっております」


 受付の「ただいま確認しますので、お待ちください」の声を聞いて、琴衣はもう一度大きく息を吐き出した。




「……というわけで、彼の冤罪は明らかです。私はこれらの証拠すべてを彼の弁護士に渡しました」

 時間にしておよそ四十五分間。琴衣は理論整然と話した。練習した甲斐があったというものだ。


 もしこれで検察側が納得してくれなければ、裁判の判決を待つ必要がある。

 有罪か無罪。どちらに決まっても、控訴が行われれば高裁の判決が出るまで数年はかかる。


 琴衣としては、裁判で白黒つけるのではなく、検察側が冤罪だったことを認め、真犯人を逮捕してほしいと思っている。

 相手を変えて裁判を継続するなりなんなりすればいいだろうと。


「…………」

 検事正は腕を組み、無言で資料を眺めている。


 これを認めればミスターは釈放されるし、認めないならば、最低でも高裁の判決まではいくだろう。

 つまりここは正念場なのだ。


「……分かった。たしかにこのまま行けば、公判を維持するのは難しいかもしれない。もう一度、事件について調べ直そう」

「……っ」


 琴衣はホッとして、ひじかけに体重をあずけた。

「そういえばあなたは、何度も彼の無実をマスコミに訴えかけていますね」


「はい。彼と戦ったからこそ分かります。彼は世間に言われているような悪事に手を染める人物ではないと」


「……そうですか。我々も公判を維持していくために証拠や証人を精査してきました。証拠はまあ……おかしいところがいくつかありましたね。それと証人ですが……はなから彼を犯罪者と決めつけているような感じが見て取れました。企業犯罪を捜査していると分かるんですが、証人はだいたい、罪におののき、罪を憎むんですよ」


「……はあ」

「今回の事件は特殊でして、証人すべてが彼一人に焦点を当てているというか、彼が憎いために証言している。そんな印象を受けました。ですが、彼は証人との接点などほとんどないんですよね。なんとも不思議な事件だと思っていたところに、奥津利明ですか。話を聞いてなるほどと思った次第ですよ」


 琴衣はあやめの介護を優先したため、優馬がミスターの上司を徹底的に調べた。

 上司とつながりのある人物を追っていくと、いくつかのねつ造された証拠と深く関わりのある人物と会っていることが分かった。


 裏でこっそり、証拠のねつ造元と会っていることが判明したのだ。これが切り札となった。

 これらをマスコミに向けて発表しても、裁判でどう転ぶか分からない。


 ならば証拠で検察官を説得し、ミスターを釈放させようと考えたのだ。

「では彼は、釈放されるのですね」


「そうですね。こちらで裏取りが終了しているのもありますし、二、三追加で裏取りができれば、彼に対しての起訴は取り下げられるでしょう」

「……よかった」


 裁判の判決を待たずして、彼は釈放される。

 琴衣は安堵の息を吐いた。




 琴衣が証拠を検察側に提出してから一ヶ月も経たないうちに、起訴は取り下げられることが決まった。

「よかった。ミスターが出てくるわ」


 琴衣たちの完全勝利である。

「このあと、ミスターと接触するんだっけ?」


 優馬の言葉に琴衣は頷く。

「ええ、エネルギー不足による第三次世界大戦……リミットはもうあまりないわ。ミスターの力を借りるつもり」


 いまは夏。

 エネルギー戦争とあまり関係のない日本ですら、人々は電力不足にアップアップしている現状だ。


 途上国のふるまいと、それを助長させる共産国。

 資本主義国の我慢はもう、限界に来ていた。


「エネルギー消費需要が上がる冬がリミットだよね」

「そうだと思う。だからこそ、ミスターに知恵を借りるのよ」


 自分を嵌めた者たちが何を考え、なぜこんなことをしたのか知ったら、彼は激昂して、自分が持つ力のすべてを使って復讐するだろう。

 彼らの目的を打ち砕くために、全力を尽くすはずだ。


 だからこそ、琴衣はミスターと会って話す必要があった。

「じゃ、行ってくるわ」


 今日はミスターが釈放される日。

 それゆえ、琴衣は多少浮かれていた。


(会ったら何を話そうかしら。いえ、まずは、「はじめまして」からよね)

 タクシーで立川の拘置所へ向かう途中、琴衣は外の景色を眺めながら、彼との会話のシミュレーションを欠かさなかった。


(絶対に「なんだね、キミは」って言うわ。そして「余計なことをしてくれたな」って不機嫌になるかもしれない……ふふっ)

 ミスターの言いそうなことがいくつも頭に浮かび、琴衣は笑みを浮かべた。


「……ええっ!? もう出てしまったんですか?」

 タクシーを降り、拘置所の守衛に確認したところ、ミスターは数分前に出ていってしまったという。


「迎えはいなかったから、あっちに向かって一人で歩いていったよ。まだ二、三分前だ。すぐに追いつけるだろう」

「そうですか。ありがとうございます。追いかけてみます」


(今年はローヒールが流行っていてよかったわ)

 琴衣は足どり軽く、ミスターが歩いた方角へ駆け出した。


(それにしても暑いわ。早く見つけて、涼しいところに避難したいわね)


 ミスターに会ったら、何を話そう。話したいことはいっぱいある。

(早く会えないかな……)


 日差しがとても眩しかった。



物語の2030年編は、これにて決着です。

そしてこの話が、第一話に繋がる感じですね。


物語を書き始めるまえにエンディングまでの流れを決めていたので、この辺も予定通りになっています。

ただやはり、多くの設定を出し切れなかったと思います。


物語全体の尺がどうなるのか予想できなかったため仕方のないことですが、使われなかった設定群は、永遠に闇の中に……消えていきます(笑)



さて、昭和五十年代の初頭だったでしょうか。『仮面ライダー』(うろ覚え)を見ていました。といっても、仮面ライダーが見たかったわけではなく……。


ドラマに出てくる「おやっさん」は、フルーツパーラーの喫茶店を経営していたんです。そして入口にはフルーツパフェのディスプレイがありました。

「すげえええ」とそのディスプレイを見て、食べてみたいと思ったのです。

というわけで、商品ディスプレイ見たさに仮面ライダーを見ていました。


なにしろ、ああいったものは東京に行かなければありません。どこをどう探しても近所にはないのです。

親に言っても干し柿くらいが関の山です。何か違いますよね。

というわけで、フルーツパーラーは子供時代の憧れでした。


そして時代は流れて平成初期(1990年代半ば)の頃です。

進学塾の教師をしていた私は、夏季講習などのとき、お昼はおにぎり持参か、行きがけにコンビニでサンドイッチを買って食べる感じです。昼休憩と言っても忙しいので、食べに出るヒマはないのです。


あるとき、コンビニで買うことになって急いで向かいました。ふと目に入ったのがコンビニスイーツです。極上ロールケーキとかまだ売っていない時代ですね。

プリン生地にフルーツと生クリームが乗ったカップケーキだったと思います。値段は覚えていません。250円くらいだったかな?


なにげなくそれを買って、事務室に戻って食べたら「んまい!?」。

マジ美味しかったんです。


午後の授業のとき、生徒たちに「大発見をした」とコンビニスイーツの話をしたら「えっ? せんせい今さら?」と微妙な顔をされました。

子供の頃、ロクなお菓子を食べてこなかった自分です。

こんな着飾ったデザートなんて、レストランでコース料理を食べたときくらいしかないわけですよ。


まさか数百円で、近所のコンビニで買えるとは!

青天の霹靂です。


……で、話を昭和に戻しますが、我が家にはお菓子がありませんでした。

大家族だったので、あったらだれかが食べています。

小学校の高学年になって、友人の家に行ったとき、封が切られてないお菓子があってビビりました。

我が家なら速攻で開封。光の速さで中身を空にします。それだけお菓子なんか買ってもらえなかったのです。買う場所もないですけど。


それでですね、親に買ってもらったお菓子といえば、キャラメルです。

グリコのキャラメルとサイコロキャラメルです。あとチョコボールのキャラメルもありました。

お出かけしていい子にしていると、買ってくれたりしました。グリコで50円だったかな。


そのキャラメル。堅いんですよ。サイコロキャラメルなんか、歯が折れそうなくらい堅い。

そんなときCMでやっていたのが「旅にハイソフト」。高級志向の森永のキャラメルです。


「ふうん」と見ていましたが、友人から一個もらって食べたとき、電撃が走りました。もしかすると、世界中に雷が落ちたのかもしれません。(それくらいの衝撃)

「柔らかい!?」

そうです、柔らかいキャラメルなんです。茶色のパッケージとあいまって、ハイソフトの虜ですよ、虜。


何かあったら「森永のハイソフト!」と要求するくらいには填まりました。

過去形? いえいえ、いまでも食べてます! 何年か前にカードが復活して世界遺産のカードを結構集めました。

そのあとは橋のカードでしたね。といってもネットの有料写真販売サイトから購入したことを突き止めてからは集めるのは止めましたが、ハイソフトは見つけるたびに買っています。

いまはレトロ食品カードですね、ほぼ揃いました。


それと一緒に売っていたのがハイクラウンですが、こっちはタバコケース(似せた箱)に入ったチョコでした。これがまた高級そうな箱で、中身のチョコも美味しいんです。

明治のミルクチョコより美味しかったなと。

私的にハイソフトは『神』だと思っています。


おなじく電撃が落ちたのはポテトチップスの「コンソメ味」でしょうか。それまで「のりしお」しかなかったので、衝撃です。

とにかく情報がない、実物がない時代です。そういう些細なお菓子でも、大衝撃だったわけです。


ここまで話して、昔のお菓子の方が優れているの? と思う人もいると思います。

優れているわけではないです。いまは情報が氾濫しているし、スーパーやコンビニで自由に買えるので、この衝撃は分からないだけです、ええ。


ビックリマンのウエハースチョコを捨てる子供が出るのは、私よりもっとあと世代です。

私たちは、あのウエハースに挟まれたチョコはいい具合に堅く、みんなで「おいしい、おいしい」と分け合って食べたものです。30円だったので、複数個買うなんてことはできなかったんです。


10円粉ジュースに、水をいれずにちびちび舐めて、舌を赤とか青にした世代なら分かってくれるのかなと思っています。

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― 新着の感想 ―
[一言] 第1話に繋がるということで最初から一気に読み直し 伏線が分かって読み直すとひときわ面白い 作者様の作品は何度読み直しても楽しめるものばかり
[一言] ハイソフト美味しいのマジで分かる!私も塾で食べてました。地理の勉強になる!とか言って。ならないんですけどね
[一言] この後に倒れてるの目撃するのか……散々すぎるな
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