109 事件の決着
この時代すでに、無線の盗聴器が存在していたらしい。
市販のトランシーバーでも、遮蔽物さえなければ二キロメートルくらいは電波が届くので、ポケットに入る大きさの盗聴器があってもおかしくないのだが、普通に公安警察から貸し出されるとは思わなかった。
「それで、会話に出てきた洞窟はどこですか?」
「やめろ!」「ダメだ!」「放せ!」
拘束された男たちが喚くが、もちろん言うことを聞いてやる義理はない。
「ここの壁……よく見ても分からないですよね。普段は隠されていますので、いま開きます」
壁画を操作して洞窟を出現させると、公安警察の人たちは驚きの声をあげた。
明らかにオーバーテクノロジーだが、それに気づいたかどうか。
「なんてことをするんじゃ!」
老婆が喚き、双子は老婆にすがりついている。
双子には悪い事をしたが、世界大戦を起こそうとする組織を野放しにはできないのだ。
一人が壁と洞窟のきわを触って、不思議がっている。
「不思議な仕掛けですね。いまの手順を教えてください。それとここは危険ですので、麓までご案内します」
これから洞窟内部を調査するのだろう。
それと俺は、九星会の悪事を知る貴重な証人だ。俺がここにいると、万一のことがある。
男たちと老婆も洞窟から遠ざけられた。
「おんしら、無事、村から出られると思うなや」
老婆が脅しをかけてくるが、さすが強面の公安警察である。「いいから歩け!」と、容赦がない。
手錠をかけられた男たちは、すでに抵抗していない。
諦めたのか、助かる自信があるのか。なんにせよ、俺にはもう関係のないことだ。
付き添いと一緒に、俺は山から降りた。麓には、かなりの人が集まっていた。
状況が分からない信者が立ち尽くしている。呆然としている人が多い。
何事かと、遠巻きに見ているのは、村の人だろう。
麓から山へ至る唯一の道は、機動隊が押さえている。
山道の脇には、金網を窓に張ったバスが横付けされている。
麓でも拘束者が出たようだ。
おそらくは、事情を知っている信者たち。警察が来たと分かって、襲ったのだろう。
いまも死にものぐるいで拘束から逃れようとしている。
「先ほどの会話について聞きたいことがありますので、パトカーの中に入ってください」
「分かりました」
公安警察の人に促されて、俺は車内で説明をする。
俺と老婆との会話はしっかりと聞き取れていたようで、話の内容はもっぱら、洞窟のことと、山中に埋まっている死体についてだった。
なぜ俺が洞窟の存在を知っていたかだが、これは死んだルポライターから偶然話を聞いたことにした。
ルポライターがどこまで知っていたかは分からないが、もはや調べる術はない。
俺の話を聞いた人たちは、身の危険を感じたルポライターは、見ず知らずの俺に真実を託したのだろうと考えたようだ。
そういうストーリー作りは得意だろうし、任せることにする。
いくらルポライターから聞いた話だと言っても、それだけで実行に移すには不確かなことが多すぎる。
だが俺には、双子から見せてもらったペンダントがある。
やはりルポライターの失踪と九星会は、何か関連があると考えたのだと話した。
実は、この辺の話は以前も公安警察の職員にしていた。
ただそのときは、菱前老人からもらった写真を見せ、この壁画と同じ物があれば、そこに洞窟があること。
洞窟の中には、九星会が隠しているものがあることをメインに話していた。
そのため公安警察の人は、「中国と九星会につながりが……?」「占星術か?」などと、最初は脱線しかけていた。
俺がなぜ今頃になって、突然九星会のことを言いだしたかについては、菱前老人から見せてもらった写真で思い出したことにした。
実際、ラスベガスでのことを知らない菱前老人は、本当にそう考えているだろう。
口裏合わせがいらないほど、俺ははじめてあの写真を見たとき動揺していたので、信憑性が増していると思う。
真実はまったく違うのだが、出てくる証拠から、俺の話の辻褄が合ってしまう。
菱前老人や公安警察、そして捕まった九星会の人々には、それが真実でいいと思う。
「……なに!? 洞窟の奥からか? 分かった。増援を要請する」
公安警察の面々が、急に慌ただしく動きだした。
「なにかありましたか?」
「正体不明の生き物の死体、未知の機械、大量の金塊。それと……大量の人骨が見つかったようです。人骨は最近のものから、かなり古いものまで相当な数があったらしい」
俺に話してくれた人は、難しい顔をしている。
正体不明の生き物の死体は、エーイェン人のことだろう。
公安警察の人たちもまさか、洞窟の中に宇宙人の死体があるとは思わなかったはずだ。
大量の人骨は……ウィルスで失敗した人たちだろうか。
老婆に聞いてみなければ分からないが、そこらに埋めるのではなく、洞窟に隠した意味があるはずだ。
なんにせよ、警察が入ったことで、九星会は徹底的に調べられる。
見つかった多くの人骨もそうだが、行方不明者に関係した者たちは、その行為にふさわしい罰がくだされるはずだ。
俺の役目は終わった。あとは清秋との決着だけだ。
ヤツは手強い。だからこそ……。
窓に金網が張った警察車両は毎年乗っています。といっても犯罪者ではないですからね!
大学時代のことです。飲み会の材料をスーパーに買いに行ったとき、とある女子が「ねえ、これキャベツとレタス、どっち?」とレタスをつかんで聞いてきました。
あれですかね? ツッコミ待ちでしょうか。
農家のツッコミはきついですよ。首相撲からの膝蹴りです。
キャベツとレタスの区別がつかない人が実在したんだと思った瞬間でした。
ほうれん草と小松菜の違いがつかない人がいるみたいですね。
我が家は一時期、小松菜農家みたいになっていたので、驚きです。小松菜は最低でも年に4回収穫できて連作障害も起こりにくいので、いろいろ考えなくていいのです。
それはいいとして、区別がつかないどころか、小松菜の存在を知らない人がいたりするので、世の中は侮れません。違う世界線に生きているのでしょうか。
ひねりを加えたバックドロップを受けたら、思い出したりします?
私は滞空時間の長い方が好みですけど、やってやれないことはないです。
みなさんがいま食べている野菜。実は昭和の時代はすごくまずかったのです。
意味が分からないかもしれませんが、昭和に入ってから野菜の品種改良がすごく進みました。
たとえばとうもろこし。ハニーバンタムという品種が現れる前は、皮は固いわ、粒は小さいわで(色の違う粒も混じったりした)、なにより甘くなかったんです。
アメリカで「日本人は家畜の餌を食べる。HAHAHA」とよくバカにされていました。アメリカではブタの餌に使われていたそうです。
ピーマンも苦いし、なにより野菜全般が青臭くてえぐいんですよ。
ナスは千両二号から、収量も増えて美味しくなりました。
小松菜なんかやばいですよ。いまのはマイルドすぎです。
昔の小松菜は「味の暴力」です。
どんな料理でも、小松菜を入れると汁が小松菜の味になるんです。カレーにも勝つんじゃないかと思うほど小松菜します。
鍋に小松菜を入れれば鍋全体が小松菜します。
とくに冬の小松菜は、それはもう大きく発達していて形がチンゲンサイっぽくなります。
そんなまずい野菜ですが、家族は健康にいいから食え食え言うのです。昭和あるあるですね。
ガンガン食わされました。
ですが祖母は「漬物や煮物で昔から食べていたが、今(昭和)のほうが野菜を食べてる。昔は、サラダなんてなかったんだから」と衝撃的なことを言い放ちます。
当時は漬物か、くたくたになるまで煮て食べていたわけです。
サラダって昔は日本になかったんですって。考えてみれば、それに相当する日本語がないですよね。一番近いのが生野菜でしょうか。でも切ってすらない丸ごと野菜でも生野菜なんですよね。
料理に何でも名前をつけたがる日本人にしては珍しく、サラダに相当する料理名が存在していないということは……ん? だれか来たようです。
……昔は人糞を肥やしとして使っていましたし、寄生虫の卵が普通についていたでしょうから、生で食べる習慣がなかったのでしょう。
そういえば昔は、野菜を食べる前には洗面器に水を張って、中でゴシゴシ洗っていましたね。中国ではいまもそうだと聞いたことがありますが、それだけ生で食べると危険だったのでしょう。
小学生のときは毎年、クラスに一人か二人、虫下しのチョコをもらっている人がいました。つまり「ぎょう虫検査」は意味あったのです。
私の親世代、祖父母世代はあまり野菜を食べていなく(米ばかり食べていたのでしょう)、私に食え食え言うのはおかしいと思いません?
結局、大人の都合で小さい頃から野菜を食べさせられたんだろうなと思います。がってむ!