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あなたと一緒の夏祭り

作者: ゆうきノ助

太陽照り付ける炎天下の中を、私の親友─寧々(ねね)と一緒に歩いている。

8月中旬のお盆真っ只中、私の実家に帰省をしているところだ。

本来、私1人で帰ってくるつもりが、今年は寧々もついてきている。

決して私が誘ったわけではなく、それとなくお盆に実家に帰ると言ったら、目を輝かせて「私もついて行ってもいい…かな?」と聞いてきたのである。

思えば、去年のクリスマスの時は引っ込み思案だった寧々が、今ではまあまあ積極的になったような気がする。

寧々との関係は今も続いていて、ほぼ毎日会うのはもちろん、月に1回必ずどちらかの家でお泊まりをするまでになった。

「ねえ、奈緒葉(なおは)ちゃん」

「うん?なあに?」

「奈緒葉ちゃんに無理言って、私もついてきちゃったの、やっぱり良くなかったかな─?」

少し不安そうな目で、言った。

「いやいや、私は良いと思ってるよ。いつもなら私1人だけだったし、何より寧々と一緒なのが嬉しいから」

「そ…そっか……!」

そうして、私に見られないようにして照れ笑いをするのであった。

「あ、そうだ、寧々さ─」

ふと、今思いついたことを口に出した。

「一緒に、夏祭りに行かない?」

「な、夏祭り?」

寧々がきょとんとした様子で答える。

「うん。確か、近いうちに近所で夏祭りがあったはず。それに行きたいなって。私の記憶が正しければ花火も打ち上がるはずだから、きっと楽しい思い出になるはずだよ」

「奈緒葉ちゃんと一緒なら、私…行きたい」

「良かった。寧々との夏祭りデート、今から楽しみだなあ」

「デ、デート?!デートだなんて、そんなっ…えへへ」

「い、いや、デートってのは冗談だからね」

ちょっとからかうつもりで言った言葉を真に受けたの見て、何だか私まで恥ずかしくなってしまった。


その日の夜、実家の私の部屋で寧々といる時、不意に寧々が口を開いた。

「そういえば奈緒葉ちゃん。私、夏祭りに何着ていけばいいかな…?」

それを聞いた私はニッと笑いたくなるのを堪えて言った。

「それは大丈夫。私の浴衣を貸したげるから」

「浴衣?奈緒葉ちゃんの…!」

嬉しそうな寧々を見ると、なんだかこっちまで嬉しくなってしまう。

「ちょっと待ってね、今持ってくるから」

そうして持ってきた浴衣を2着、寧々の前に差し出した。

「寧々が好きな方を選んでいいよ」

「選んでいいの?ほんとうに?」

「もちろん」

「それじゃあ…」

しばらく浴衣を手にとった後、寧々が選んだのは、水色に少し濃いブルーのストライプの生地に、白百合がちりばめられているものだった。

「そちらを選ぶなんて、寧々はお目が高いなあ」

「楽しみにしてるね、奈緒葉ちゃん」

選んだ浴衣を胸に抱えながら、そう言ってくれた。

その後、寝るためにベッドに横になった。

もちろん、寧々と一緒に寝る。

当時、無駄に広いベッドで寝たいという願望から自室のベッドをダブルベッドにしておいて良かったと我ながら思った。

横になってすぐ、寧々がくっついてきた。

耳に、寧々の柔らかい吐息が掛かる。

思わずドキッとした。

「ね、寧々。ここあたしんちだから、いつものはダメだよ…?」

何とか平常心を保ちながらつぶやく。

「うん、分かってるよ。私、奈緒葉ちゃんと…寝られるだけで……」

言いながら、静かに寝息を立て始めた。

眠ったようだ。

私も何だか悶々としながらも、やがて深い眠りに落ちた。


数日後、いよいよ夏祭りの日がやってきた。

その日は朝から澄み渡るような快晴で、夜になっても雲ひとつかからないような天気であるらしいから、とりあえず雨天中止などの心配はなさそうであった。

夕方、ぼちぼち準備をし始めた。

「奈緒葉ちゃん、これ、お願い」

「うん」

言いながら、寧々の浴衣の帯を締めてあげた。

「えへへ、ありがとう」

嬉しそうに微笑みながら答えた。

浴衣姿の寧々は正直言ってかなり可愛かったけど、口には出さないでおいた。

「次は、私だね」

私は寧々が選ばなかった方の浴衣を着た。

ほどなくして、寧々と家を出た。

お祭りの会場までは歩いて行ける距離だ。

薄暗い中を、寧々と手を繋ぎながら歩いていく。

10分も歩いた頃、突然目の前に光が見えてきたのと同時に、周りを歩いている人も増え始めてきた。

到着したようだ。

「ついたよ、寧々」

「わあ…!」

寧々がまるで子供のようにお祭りの屋台に駆け寄っていった。

そこから、手を振りながら私に言う。

「奈緒葉ちゃんも、早くおいでよ」

「はいはい、今行きますよ」

寧々の元へ急いだ。

「行こっ奈緒葉ちゃん」

「行こう、寧々」

それから、2人でお祭りの会場を見て回った。

お祭りの会場と言うよりかは、屋台巡りみたいなのをするだけだったけれど、寧々はすごく楽しそうだった。

もしかしたら、寧々にとってはこうして誰かと夏祭りに来ること自体、初めてだったのかもしれない。

やっぱり誘って良かった─。

そう思いながら隣を見ると、寧々の姿がなかった。

「寧々?」

振り返って辺りを見回す。

どこに行ったんだろう。

少しばかりの不安が、ちくりと私の胸を刺した。

もしかして、寧々に何か─

そんな不安を取り除こうとするかの如く、彼女を探す。

間もなく、会場の端の方でしゃがんでいる寧々を見つた。

「寧々…!」

言いながら駆け寄る。

よく見ると、寧々は6歳か7歳くらいの知らない女の子のそばにしゃがんでいた。

「寧々…!良かった、探したよ。…その子は?」

「あ、奈緒葉ちゃん、この子迷子になってるみたいで。実は、一緒に歩いてる時に迷子になってるのを見つけて、それで…」

寧々は勝手にはぐれたことを謝ろうとしているようだった。

「いいのよ寧々、謝らないで。今はそれよりもこの子の親を見つけてあげなきゃ」

「う、うん…!」

まずは、女の子から何か聞けるかもと考え、寧々も同じようにしゃがんで話しかけてみた。

「ねえ、あなたのお父さんとお母さんって、どんな見た目の人なのか、分かる?」

迷子の、黒髪が特徴的な女の子は、しばらく黙った後、「一緒に来てるのはおかーさんだけ…おかーさんの見た目も、分かる…」

と教えてくれた。

「そっか。ありがとう」

「奈緒葉ちゃん、これからどうしよう?」

「うーん…」

悩んでいたその時、

「おかーさん!」

女の子の嬉々とした声。

驚いて振り返ると、女の子の母親らしき女性が立っていた。

「もしや、あなた達がはぐれた娘の面倒を見てくれていたのですか」

「は、はい、一応…」

突然の出来事にきょとんとしながらも、それだけ答えた。

「ありがとうございます…!なんてお礼をしたら良いのやら…」

「いえ、礼には及びません。娘さんが無事で、良かったです」

「このご恩は決して忘れません。ほら、ゆりか、行きますよ」

そしてゆりかと呼ばれた女の子は私たちの方を向くと、

「ありがとう、おねーさん達」

それだけ言って、母親と一緒に去っていった。


「あの子、お母さんに会えて良かったね」

「うん…」

寧々と一緒に会場を歩き回り、迷子の女の子の面倒まで見て、何だかもう疲れてしまった。

でも、メインの打ち上げ花火を見るためにまだ帰る訳にはいかなかった。 

そもそも、せっかく寧々と夏祭りに来てるんだ。

もっと楽しまなきゃ。

「ねえ、寧々。仕切り直して、もう1回会場を見て回ろっか。花火まではもう少しだけ時間があるしね」

「うん。行こう、奈緒葉ちゃん。私、かき氷とか食べたくなってきちゃった」


「寧々、もう少しで花火が打ち上がる時間になるよ」

手元のスマホで時間を確認しながら、言った。

「本当?」

手に持ったかき氷を食べながら、嬉しそうに答える。

「ここからだと見えづらいかもしれないから、少し移動しよっか」

「分かった」

言いながら少し遠慮がちに左手を私の右手と重ね合わせた。

「寧々、私と手繋いだらかき氷食べられなくなっちゃうよ?」

「でも、手繋ぎたい」

「ふふ、そっか」

賑やかだった祭り会場から数分ほど歩くと、もう辺りが夜の静寂に包まれ始めてくる。

人の気配はほとんどなかった。

「奈緒葉ちゃん、私、ちょっと怖い…」

寧々の左手が少し強ばった。

「大丈夫だよ。私がついてるから」

「そ、そうだね」

寧々が言ったその時、

「あっ、見て」

空を指さした。

今、まさに花火が上がったところだった。

パァァァン!!!

轟音と共に、単色或いは様々な色の光が姿を現し、次の瞬間には儚く消えていく。

「綺麗……」

寧々が、うっとりしたように言った。

確かに綺麗だ。

でも、瞬きをする間に消えていく。

私と寧々との関係だって、いつかはこの花火のように儚く消えていくのではないか。

ふとそんな事を考えてしまい花火を横目にうつむいてしまった。

「奈緒葉ちゃん?」

「あ、ああ、ごめん、寧々。花火を見ながら、寧々の関係がいつまで続くのかなとか考えちゃって…おかしいよね、私……?!」

突然、唇に柔らかい感触を覚えた。

見ると、目の前に寧々の顔があった。

クリスマスの時と同じだ。

「んんっ…」

花火に照らされた寧々の顔は、何とも言えない美しさがあった。

「ね、寧々…」

「私、奈緒葉ちゃんとずっと一緒にいたい。奈緒葉ちゃんのこと、ずっと大好きだから」

私を真っ直ぐ見つめる寧々。

なんだか、目が覚めたような気がした。

「そう…だよね。あんな事を考えてたのが、なんだかバカらしいや」

すると寧々は、安心したように微笑んだ。

「奈緒葉ちゃん、花火…見よ?」

「うん、見よう。…あれ?」

ふと寧々の手を見て気づいた。

「持ってたかき氷は?」

「え?」

寧々も気づいたらしく、慌てて周りを探し始めた。

かき氷は、すぐに見つかった。

かき氷の容器がすぐそこの地面に落ちていて、おまけに氷が地面にぶちまけられていた。

おそらく寧々の不注意か何かで落としてしまったのだろう。

「わ、私のかき氷……」

寧々がその場に膝をついて、えんえんやり始めた。

「ね、寧々、私が新しいの買ってあげるから泣かないで。あと、せっかくの浴衣が汚れちゃうから早く立たなきゃ」

寧々を立たせ、お祭り会場目指して元来た道を戻るのだった。


「奈緒葉ちゃん、今日はすごく楽しかったよ。ありがとう」

新しいかき氷を大事そうに持ちながら、寧々が言った。

「こちらこそ、寧々を誘って良かったよ」

「ねえ、奈緒葉ちゃん…」

「なあに?」

「今日は、いつもの、していい…?」

「ダメでーす」

いいと言っても良かったかもしれないけれど、あえて無慈悲にダメだと言ってみた。

「そんなあ…」

「寝る場所があたしんちだって事、忘れないように。…でも、向こうに戻ったらいいよ」

「ほんとう?やった!奈緒葉ちゃん大好き!」

「もう…」

やれやれと思いつつ、家路を急いだ。


前作みたいな扱いになるであろう「あなたと一緒のクリスマス」は、突発的に思い立ち、書き出したものなのだが、今回の夏祭りも同じように突発的に思い立って書いたもので、本来書く予定はなかった。次、いつ思い立つのかは全く分からないが、まだ続きを書く気はあるのでどうしても思い立ち待ちになってしまう。困った。

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