問題だらけの食事会です
第一王女様から、急なお誘いがあった。
「今夜はわたくしと食事してほしいの」
たまにこういうお誘いがあり、一緒に食事を摂ることもある。いつもなら二つ返事で了承するのだが、今は家に嫁がいる。きっと夕飯を用意してくれているに違いない。
「ええと、申し訳ないのですが……」
「ローラの家に居る方には、すでに連絡をしておりますわ。なんの問題もなくてよ」
「は、はあ……」
冷や汗が止まらない。美少年を監禁していると思われてないだろうか。こんな筋肉の塊みたいな女に、あんな美少年が進んで嫁になりたがるとは思えない。あ、なんか落ち込んできた。
「とにかく、今夜はわたくしとディナーですわよ!いいですわね!!」
第一王女様に押し切られ、約束する羽目になってしまった。
そして、夕食に招待されたわけだが。
「ローラの趣味は何かしら?」
「筋トレですかね」
「それは趣味ではなくトレーニングでは?」
「ええと……トレーニング器具を集めるのが趣味かもしれません」
いつも通り二人きりかと思いきや、第四王子殿下も参加していた。それから、なんとなく微妙にこう……お見合いっぽいんだけど……気のせい??
そしてさっきから、第四王子殿下は空気になっており一言も喋っていない。更に顔をフードで隠している。何がしたいのだ。、
「ローラはどんな殿方が好みですの?華奢で可憐な美少年ってどう思いますこと?ちょっと……だいぶ……かなり……とてつもなく性格が悪くても、顔が可愛ければ許せるかしら?!」
「華奢で可憐な美少年は好みです。性格の悪さに関しては……弱者をいたぶるようなタイプはちょっと……」
「では、いじめっ子をさらにいじめるタイプの美少年は!?」
それ、どんな男だよ。あ、でもなー。いじめっ子をいじめるラザ………ありだな!!むしろ私がちょっと踏まれたい……イヤイヤイヤイヤ!!待て待て待て待て!!
「ええと、それなら問題ないと思います」
いじめっ子はいじめ返されても仕方ないのだ。むしろいい教訓になるのではないだろうか。
「…………!!」
そして、何故第四王子殿下はガッツポーズをキメているんだ?
「……ん?」
第四王子殿下がガッツポーズした時に腕がちらっと見えた。この骨格と体型は……見た覚えがあるな。それも比較的最近。この身長にこの腰の細さ。神が作り給うた最高傑作ではなかろうか。
『どうかしましたか?』
第四王子殿下がメモをよこしてきた。喉を痛めてしゃべれないらしい。本当かな?呼吸音は正常だぞ?
「いえ、殿下が私の妻とよく似た体つきをしているもので……気になりましてね?少しだけで結構ですので確かめてもよろしいですか?」
「!!!」
逃げようとした第四王子殿下を抱き上げる。お姫様抱っこだ。この重み……この細い腰、そして何よりいい匂い!
私が急速に出世した理由の一つがこの洞察力。ローブやマントで隠しても、相手がどんな姿をしているかわかる。私自身、魔法は使えないが魔力はあるそうで、何故か変身魔法や認識阻害魔法が効かない。さらに、こう見えて案外記憶力に自信があるので、スパイや暗殺者を見つけるのが得意だ。変装しようと見ればすぐわかる。
例えば、騎士と暗殺者は筋肉の付き方が違う。メイドや侍従なんかとも当然違う。護衛兼任者もいるが、そういった者は事前に把握しているし身元もしっかり調べてある。
それを踏まえて、何故か第四王子殿下はうちの嫁だと判断した。適度な筋肉、引き締まりつつも割れてないと思われる腹筋。スラリと伸びた足と、整った手。この奇跡のプロポーションは世界に二つと無いだろう。しかし、なんでだ?
「すみません、フードも外してくれます?」
容赦なく捕獲したまま確認のためにお願いしたら、必死でフードを死守する第四王子というかうちの嫁。そして、第四王子殿下を担ぎ上げるという無礼をしているのに護衛が誰も止めない。
「ええと……ローラ?なんでうちの弟をだきあげたのかしら??」
「確認のためです。なぜだかここ数日、第四王子殿下が我が家に嫁として住んでいたので」
「待ってそれはどういうこと!?嫁!?確かにローラよりヒョロいけど、ソレは一応男よ!?いいえ、ちょっと脱走していたと思ったらローラに迷惑をかけていたの!?」
「ひ……人違いです……」
か細く聞こえた声は、やはり嫁のものだった。間違いない。
「ラザ」
「ぴっ!?」
「人違いだなんて言わないで……君は私の可愛いお嫁さんだろう?」
可愛い嫁に拒否られては悲しい。何故彼が我が家にいたのかとか、かなり謎は残るが、私の気持ちは変わらない。
「は……はひ……そうれしゅ……」
何故かそれだけ言うとラザは気絶してぐったりしてしまった。なんでだ?働きすぎ??
「す、すいませんが医者を……!」
「うちの愚弟は大丈夫よ!供給過多で処理落ちしただけでしょ!それよりも!同居ってどういうこと!?」
「エエト……ソレハデスネ……」
直属上司の厳しい追求をかわすことはできず、嫁を膝に乗せたままここ最近の話をする羽目になったのだった。
嫁の正体があっさりわかりました。あと数話で終わります。