色気はありません。あるのは筋肉です
お昼ごはんになった。普段ならば食堂に行くが、私にはこの愛妻弁当がある。城の裏庭でわくわくしながらバスケットを確認すると、サンドイッチにサラダ、スープまで入っていた。
後輩二人も一緒に買ってきた弁当を広げている。
「先輩、お弁当ですか?」
「おいしそ〜」
いつもなら分けてあげるのだが、これは嫁が私のために作ってくれた大事な弁当。分けるべきか戸惑っていたら、手紙に気がついた。
『お仕事お疲れさまです。お弁当、底のほうに余分を用意しておきました。同僚の方に分けてあげてください』
「嫁……!」
なんとできた嫁だろうか。バスケット、やたらでかいと思ったら、そういうことかぁ!
「よめ?」
「空気読めってことです??」
「いやその……ええと……」
結局後輩二人の追求に敗北してここ数日のことを洗いざらい話したわけなのだが……。
「ナニソレ不審者」
「騎士団に通報です」
「いやでも……別に害があるわけではないというか、むしろ家事全般してくれていて助かっているわけで……」
嫁が来てからというもの、ご飯が美味しいし部屋は清潔。服も綺麗に洗濯され、布団もいい匂いがする。そして何より、嫁が可愛い。しかも、おかえりって言ってくれる。この気持ちをなんて言おう。笑顔でお帰りなさいって、すごくすごく幸せなんだ。
「いや、もしかしたら隊長の下着でこう……」
「うわ許されない!通報しましょう今すぐしましょう!!」
「……下着で何するんだ?」
汗臭いだけだろう、そんなもん。二人みたいに可愛ければ邪まな思いを抱くかもしれんが、私に魅力はない。あるのは筋力だけだ。
いかん、悲しくなってきたぞ。
「やべぇ、先輩がピュア過ぎる……」
「説明できませんね……」
後輩ズが絶望したご様子である。え?今の会話でそんな顔になる要素あった??いや、洗濯する以外の用途はないだろう。私の使用済み下着なんて。
「やあやあ、可愛らしい皆様方〜。ご機嫌麗しゅう」
またしてもフォルクス殿が現れた。珍しいなぁ、この人に会うの。
「「………どうも」」
後輩二人は彼が苦手であるらしく、急に大人しくなった。
「何か御用ですか?」
代表して私が聞くと、今までで見たこともないほど低姿勢でお願いしてきた。
「お願いいたします。仕事ができる男って素敵と言ってください」
「ええと……仕事ができる男性は素敵だと思います」
まあ、できないよりはできたほうがよかろう。変なことは言われていないので素直に復唱した。
「部下に優しい上司っていいですよね!?」
「それはそうですねぇ」
それはまぁ、そうだな。素直に頷いた。
「旦那さんにするなら!やはり優しい上司タイプの男性が!いい!ですよね!?」
嫁が上司だったら……嫁のためならドラゴンでも倒すぞ。あの笑顔のためなら、命も惜しくないな。嫁はきっと、部下にも優しいに違いない。
ところで、先程からフォルクス殿のテンションがおかしい。この人って基本的に他人を見下すタイプの性格が悪い人だったはずだ。そんな彼にしては、私達に丁寧すぎる。そして、よくわからんが必死だ。どうしたんだろうか。
「……そうですね」
違和感を感じたものの嫁の笑顔を思い浮かべ、ちょっとにやけてしまった。すると、なぜかフォルクス殿が怯えだした。尋常じゃない怯え方である。え?そんなに恐ろしいニヤケ顔だったのか??
「で、では!私はこれにて!」
フォルクス殿は走り去っていった。情緒不安定なのだろうか。
「……なんだったんだ??」
「さあ?」
「どうでもいいのです」
その後は、三人で楽しくランチをした。嫁の手料理は今日も最高。エールが呑みた……いやいや。お酒を控えねば。勤務中だから呑めないし。
その後、行方不明だった第四王子が戻ってきて、すごい勢いで仕事をさばいているという噂が流れてきた。やはり元気だったようだ。
第一王女殿下が何やら悩んでおられた。え?私が第一王女殿下の義妹に?想像もつかないとだけお答えしておいた。いや、違和感しかないわ。こんな筋肉女が清楚可憐な第一王女殿下の義妹とか、ギャグでしかない。あ、引き立て役としてはあり……なのか?
「ローラ、第四王子に興味はない?」
「第四王子殿下ですか?お元気だったようで何よりです。なぜ失踪したかについては気になりますね」
「……前途多難ね……」
第一王女殿下がなぜ遠い目をするのか。このときの私は知る由もなかった。