なんだか最近、お客さんが多いですね?
職場に戻ると、職場がカオスになっていた。昨日来ていた高位貴族のご子息たちと部下二人が押し問答している。
「だーかーらー!センパイはお仕事中なんですよ!去れ!!」
「そうです、そうです!先輩はミルク達とお仕事中なんですぅ!邪魔者は去るのです!!」
「どう……」
「旦那様、お静かに」
嫁が嫁になっていた。
いや違う。うちの嫁が絶世の美女になっていた。すげえ。これはすげぇわ!しかし、うちの嫁ってば私を軽く持ち上げて死角に連れ込んだぞ。私って筋肉で相当重たいはずなのにすげえな。しかも、口元の拘束が外せない。
「ふおおおお……」
「似合います?」
恥じらいつつもくるっと回る嫁、激可愛い。ふわふわなお嬢様風ワンピースを着てつけ毛をつけ、元々美しい顔が化粧でさらに美しく……!!妖精さんだと言われても信じちゃうな、マジで!
「似合う似合う!超可愛い!普段は綺麗だけど今は超絶可愛い!!」
「……鼻血が出るんでそのぐらいで大丈夫です……」
「そうか?まだ言い足りないのだがな」
興奮させてはいけないのだったな。しかし、今のやり取りのどこに興奮する要素があったんだ?とりあえず頭を撫でよう。このくらいは許され……髪がやわらか~い!素晴らしい撫で心地!しかもいい匂いする!
「だだだ旦那様!それ以上は鼻血が出ます!」
「はっ!」
いかんいかん。うっかり嫁を抱きしめるところであった。
「はわ……だ、旦那様。とりあえず目的を忘れそうなのでこれを」
大きなバスケットを渡された。美味しそうな匂いがする。
「これは?」
「お弁当です」
まさかこれが噂に聞く『愛妻弁当』というやつか!?うわあ、お昼が楽しみ!!
「ありがとう!とても嬉しいよ!」
「その、それから大変心苦しいのですが……」
「うん?」
「お化粧を直させてください」
「かまわんが……」
なにか変だったのだろうか。首を傾げると理由を教えてくれた。
「旦那様を可愛くしすぎてしまって、どこかの馬鹿者がトチ狂って言い寄ってきたりしないか心配で心配で……!僕としたことが、これは重大なミスです!旦那様を全力で可愛くするのは、僕が側に居るときでないと!!」
「……ふへ?」
いや、私に可愛さなんてないぞぅ?でかいし(なんと身長180センチ)筋肉ムキムキだし(胸は筋肉と脂肪が半々)最後に可愛いと言われたのは、多分幼児期頃だろうな。
あれか、ええと……ひいき目ってやつ??まあ、可愛いと言われて悪い気はしないな。多分無用な心配ではあるが、化粧直しをして嫁の気持ちが落ち着くならかまわない。
「仕事中なので、手短に頼むよ」
「はい!」
いつもより少し綺麗めな私に仕上げてくれた嫁。うーん、凄い腕だな。
「では、行ってくる。弁当、とても嬉しかったよ。ありがとう、私の大事なお嫁さん」
「我が人生に一片の悔い無し……!」
手の甲にキスをしたのだが、それでも嫁が鼻血を出してしまった。この程度でもだめなのか……。慌てて介抱しようとしたが、大丈夫だと嫁が言い張るので渋々仕事に戻った。
「申し訳ございません、今は仕事中なのです」
うちの部下達に『私に会わせろ』と言っている高位貴族のご子息に話しかけた。
「はいは〜い。仕事の邪魔はいけませんねぇぇ……」
「フォルクス殿……?」
何故か第四王子殿下の側近であるフォルクス=コックス殿が現れた。すげー久しぶりだな。そして、彼の出現により高位貴族のご子息達は一斉に逃げた。この間も思ったが、逃げ足が速いなぁ。
「お久しぶりですぅ。お元気そうで何よりですねぇぇ……。こっちはあの性悪王子殿下のワガママで……イヤイヤえへへへへへなんだか急用を思い出しました!ええ!今すぐやらなきゃいけないので失礼!!」
「なんだったんだ……?」
久しぶりだし少し話したかったのだが、えらく怯えた様子で走っていってしまった。
「センパ〜イ、褒めてくださ〜い」
「あたし達、がんばりましたよ〜」
「ああ、二人は頼もしいな」
そう言って二人を撫でつつ、戦時下でほんの少しだけ関わった第四王子殿下を思い出す。
第四王子、ラザフォード殿下。悪評が目立つが、彼はさほど悪い人間ではない。よく言えば合理的な人なのだ。
いつもフードを目深にしていたので顔は知らない。少しだけ会話をしたことがあるだけだ。
彼はすごい人だ。ただまあその……やり方が大変えげつなかった。
基本的に戦争とは開戦宣言をしてからするものだが、宣言なしに奇襲をかけて王族を皆殺しにしたのはまだいい方。周辺各国や主要な商人に根回しして経済封鎖し、内乱を起こすように仕向けたり。
今までにない戦い方で、周辺各国から悪魔の子扱いされている第四王子殿下。だが、結果を見てみると我が国の損害はほとんどなく、内乱を起こした民達を保護して食事を与えたりと慈悲深い行いもしている。
だから、私は彼が嫌いではない。まあ、平和な状態だと少々たちの悪い悪戯をするらしく、悪評しか聞かないのだが……それすらも計算のうちである気がするのだ。
彼は活躍しすぎたから、そうやってバランスを取っているのだろうなと私は勝手に思っている。まあ、私が彼と関わることはもうあるまい。
そういえば、第四王子殿下は行方不明と聞いた。敵が多い人ではあるが捕まるようなヘマはしないと思う。どこに隠れているのだろうなと思いつつ仕事に励むのだった。