また呼び出されました
昨日は嫁の体調を気遣い、私が家事をして嫁にはゆっくり休んでいただいた。鼻血とはいえあれだけ出血したのだ。休養と栄養補給をするべきだ。そう言って休ませた。
「おはようございます、旦那様!」
「……おはよう」
嫁、珍しく早起き。昨日は早い時間に寝かしつけたからかな?
「昨日は休ませていただきましたからね!」
おいしい朝食を食べ、嫁に身支度を手伝ってもらう。一人でもできるのだが、楽しそうなのでお任せした。
「ぬおお……」
すげぇ。何だコレ。右手上げる。下げる。これ鏡。これ、私なのか……。
「旦那様は素地がいいですからねぇ。それでもお手入れは大事ですよ」
化粧ってスゴイな。正しく化けたわ。筋肉は隠せないが、なんというか、小綺麗な私が鏡に映っている。
「ふおおおお……」
嫁は化粧とスタイリングもできるのか。こんなに綺麗にしてもらうのは、戦勝パレードやった時以来かも。つまり、嫁の腕はプロ並みということか。
「はあ……僕の旦那様、最高……」
嫁も私の仕上がりに満足なようだ。
「綺麗にしてくれてありがとう。では、仕事に行ってくる」
「はい、いってらっしゃいましゅえ!?」
嫁の頬にキスをした。我ながらナチュラルに憧れのいってきまチューをできたと思ったが、嫁が鼻血を噴出してしまった。嫁は鼻血が私にかからぬよう、咄嗟にハンカチで鼻をおさえたらしい。なかなかの瞬発力である。
「す、すまない……。今日もラザが可愛くてつい……」
「僕の鼻血は幸せの証でしゅから!らひじょーぶれしゅ!いってらっしゃひましぇ!」
よくわからないが私の行動が嫁の鼻血のトリガーになっている気もするので居るとなかなか止まらないかもしれない。心配しつつも城へ向かった。
今日は何故か出勤すると国王陛下にお呼び出しされた。王太子殿下もいる。何かやらかしただろうか。
「……いきなり呼び出してすまぬな」
「いえ。それでご用件は?」
「……お前の家に、絶世の美少年が居座っていないか?」
脳裏に嫁が頭をよぎる。
「……それは、どういう状況なのでしょうか」
いやまあ、実際にそうなっているのだが……何故それを国王陛下に指摘されるのか。まさか嫁って指名手配犯か何か!?いや、それにしては敵意とかないし、暗殺者特有の気配や仕草もない。どちらかというと、命令する側っぽいんだよなぁ。
「いやその……うちの問題児がのぅ……」
問題児。王家の問題児といえば、末の第四王子だろう。また何かやらかしただろうか。そういえば、末の第四王子は絶世の美男子だと聞いたことがあるな。
「第四王子殿下が私を狙っている、と?」
「いやまあ……ある意味そうと言えないこともないが……」
珍しく二人共歯切れが悪い。割とズバズバ物を言うタイプなのだが、悪さをした子供のようにやたらとしどろもどろな話し方になっている。
「そそそそういえば!お主は嫁がほしいのであったな」
死にてえ。
いやもう、マジで気が遠くなった。もうお酒なんて飲まない!許されるなる奇声をあげて床を転がりまわりたい。
「……ええと、それはですね。酔っ払いの戯言だと思ってください」
「ほれ!こっちでも優良物件を探しておいたぞ!」
釣書が増えた。
なんてことだ。これがバレたら私は嫁に殺されるかもしれない。見もしないで断るのは失礼かなと思ったのでパラパラ見るんだけど、皆若すぎ。高位貴族様過ぎ。まあ、次男とか三男は爵位が継げないから売れ残ってるのかな。でもこれだけ綺麗なら、引く手数多だろう。断っても問題あるまいて。
「申し訳ございません。今の私には、心に決めた者が居るのです」
我が家で嫁が待っている。私がすべきは嫁を幸せにすることなのだ。浮気はしない。私の伴侶は嫁一人でいい。重婚する人もいるけど、複数の伴侶を持つならすべて一人に捧げたい。そもそもそんなに器用でもないしね。
「「え?」」
国王陛下と王太子殿下が硬直した。顔面蒼白になっている。
「こちらはお返しいたします。では、仕事がありますので」
「待ちたまえ」
「はい」
仕事に戻ろうとしたら、王太子殿下に待ったをかけられた。
「その想い人とは、どのような人物だろうか。具体的かつ詳細に教えてくれまいか」
「え……?」
なぜそんなことを言わねばならぬのか。しかし、王太子殿下は目がマジだ。
「まず、容姿ですが……美しい金の髪と翡翠色の瞳。華奢ですが案外筋肉があります。実年齢は知りませんが、十代ぐらいの見た目ですね。まるで職人が丹精込めて造ったかのように美しいです」
何故国王陛下と王太子殿下の顔色がどんどん悪くなっていくのであろうか。
「……やっぱ、アレじゃないですかね……」
「マジか……」
眼の前でヒソヒソするのやめてくれないかな……。とりあえず命令だから続けるけど。
「料理上手でセンスもあり、手先が器用で本日の化粧や髪結いもしてくれました。何故かよく鼻血を噴出しますね。鼻の粘膜が弱いそうです。暑がりなのか、とても顔が赤くなります。甘味が好きでとても可愛らしい人です」
帰りに氷菓子でも買っていこうかな。喜ぶといいなぁ。
「違うな!」
「イヤコレ、絶対違うな!!」
なぜ国王陛下と王太子殿下はお喜びなのだろうか。青くなったり赤くなったりと忙しない。そういえば、うちの嫁って王太子殿下に少し似ているような……。髪と瞳が同じ色だからかな??
よくわからないが上機嫌になった二人に促され、仕事に戻るのだった。