まわる恋
「見せて」背広の内ポケットに手を突っ込み、ゲーム機を取り上げる。
「あ、おいコラ。凛返せ」
「何時もしてる好きなゲームなら、隠さなくても良いでしょ」
「いいから返せ」ゲーム機を持った手を天上に向けて取れなくしているのだろうが、大柄な津田からすれば、小柄な少女が上げる手の高さなどどうてことない。
「ゲーム機見せてくれないのって、付喪神に人質にされてるのか?」
「(人質)あのな、そうじゃあなくてだな…」
普段ならはっきりと言う男が、珍しく歯切れが悪い。
「やっぱり何か隠してる?」
「いや?何も?」頑なに手を伸ばし続ける鮫島に呆れたのか、小さく息をつき、ゲーム機をしぶしぶ渡す。(いやまぁ確かに、この事態を解決するには凛が必要不可欠なわけだから、隠す必要もねぇんだが…。何かあれだけはたどうも見せたくない気持ちがデカいんだよな…)
一見どうでもよさそうな事に普段の仕事以上に頭を抱えていると、聴き慣れた声が聞こえたかと思えば、ゲーム機から小さな手がニョキっと生えていた。思わず上げそうになった声を堪え呆気に取られていると、親指を突き立てるや否やその小さな手は、ゲーム機へと消えていった。
(…何だったんだ今の。いや、ちょっと待て---もしかして、さっき聴こえた声って、あのクソ付喪神の計らいか…!?)
「龍ちゃんが嘘つくわけないよね。下手そうだし」
「しれっと俺を馬鹿にしただろ」
津田は彼女の頬を鷲掴みにし、口を八の字に仕立てる。唸る彼女を他所に、男の瞳にはオレンジ色に照らされる建物が映り込んでいた。
2人でこの難を乗り越えなければいけないのにも関わらず、キャラクターとなり画面に表示されている鮫島凛を観られたくない一心に頑なに観せまいとする頑固さ。
しかし、この世界から脱出するには、津田と鮫島が赤い糸で結ばれなければならないが、仮に津田が鮫島に付喪神であるウェルミカが創り出した乙女ゲームと同様の画面を見せたとして、彼女がその画面を気にしてしまっては、下手をすれば政略恋愛になりかねない。
本気で好きな相手を、ゲーム感覚で攻め落としたくない。いくら乙女ゲームの世界に閉じ込められてしまったとて、それだけはしたくなく、だけど攻略しなければならず、瀬戸際に思案所か余計悩まされ脳が爆発寸前だ。