まわる恋
「パパがうっかり口を滑らせたから知ってるけど、一目惚れしてるんだろ?まさか…僕がロリ顔だからか…!?」鮫島凛は躊躇無く、己に一目惚れしているのだろうと問い出す。
「その言い方やめろ。せめて童顔って云えよ。いや、じゃなくてだなぁッ、組長の娘だからだよ。下手に手出したら殺しに来そうだろ」
「それは―――」
突如津田が手にしていたゲーム機が光出し、2人は光に包み込まれた。その光の中には、2人とは違う人影らしきものが見えた。
「―――…。何だったんだ今の光は…。太陽光の反射ってわけでもなさそうだが…」
『どうもー私が見えてますか?』
「「!?」」
眩しさのあまりに手から滑り落ちていた、津田愛用ゲーム機から、体を半身出していると云うべきか、女は手を振っていた。
『見えてるみたいですね。私はこのゲーム機の付喪神であるウェルミカ。そこの男の想いを受け取り顕れれました』
「俺の想い?」
「何で普通に会話してんの?」
『さっき何やらぶつぶつと仰ってたじゃあないですか。この女児を攻略と』
「お前もその言い方やめろ。女児は洒落にならねぇ…!」付喪神と名乗る女と平然と言葉を交わしているが、よく見れば救助要請と表情に訴えられていた。
「女児ィ…?」助け舟となる筈の鮫島は、船を沈没させる。
「お嬢その目やめてくれ」僅かに目が潤んでいるのを見るからに、本気で泣きそうだ。
『まぁ話を進めますね。私はその男の声により、こうして顕れれた次第です。そして…、願いが叶うまでこの世界からは出られませんので、せいぜい頑張って下さい。何かあれば呼んで下さいね。では~』そう云うなり、付喪神――ウェルミカの姿と共に、鮫島の自室までもが消えた。
「あっ、おい待て!」津田の手は虚しくも空を切る。
「僕の部屋が消えたんだけど!?何、龍ちゃん何したの!?」部屋が消えた所ではなく、2人の横を人が行き来していたり、楽しく談笑している人達が居れば、買い物をしていたりと様々だった。
だが、森から逃げて来たと思われるウリ坊を追い掛ける獣人が2人を横切っていった。外だから遠くの町にでも追い出されたのかもしれないと考えはしたが、獣の耳と尻尾が生えた男が視界に映りこんだ事により津田は暫し考えるのをやめた。
「おい付喪神」
『はーい、もうお呼びですか?』
「此処は何処だ」
『何処、ですか。そうですねぇ…“貴男が彼女を攻略するまで出られない世界”と名付けましょうか。それと宿は目の前にありますのでご自由に。そのゲーム機も役立つと思いますので、では又何かあれば』再び説明するだけして、姿を消したウェルミカ。
(つまり…俺があんな事云ったばっかりに、こんな自体になってしまったというのか…!?)
「えっ!?龍ちゃん…!?えっちょ…どう、え?」
「凛落ち着け。取り敢えずゲーム機でも観れば何か出来るかもしれない」起動した状態のゲーム機の画面には、先程までプレイしていた乙女ゲームではなく、鮫島がキャラクターとなりステータスと共に表示されていた。
「何か出来そう?」と、爪先を立たせながらどうにか津田の手元を覗き込む。
「いや、何も無い。出来そうな事は宿に入って考え直す」ゲーム機を上着の内ポケットに隠し、真顔で宿屋を見詰めた。
付喪神であるウェルミカの紹介である、目の前にあった宿屋に入るも、店主は二人に気付きもせず、客の対応や事務仕事をしていた。
「どうなってんの?僕達の体すり抜けて、今の客出て行ったけど」
「あの、すいません」暫し思案し、店主に声をかけてみる。「はい、いらっしゃい。何名様ですか?」
「(何だ、会話出来んじゃねーか)2人なんだけど、空き部屋ある?」
「あぁ、空いているよ。2階に上がった奥の部屋、207号室ね」
「どうも」宿帳に適当に“ウェルミカ”と、付喪神の名前を記し、鍵を受け取り2階へ続く階段を上る。
「…普通に会話出来てたけど、何でだろ」
「付喪神が言ってた「俺がお嬢を攻略するまで出られない世界」―――つまり、俺達に邪魔が入らないようにしてあるんじゃないかなと」
「成程…。じゃあ常に音楽が鳴っている感じ?」手の平に拳をポンと軽く叩く。「例えが五月蝿いが、まぁそんな感じだろう」部屋の鍵を開け部屋の中を見渡し、ベッドに腰を掛ける。
「あのさ、龍ちゃん」
「何だ凛」
「付喪神が云ってた“龍ちゃんが僕を攻略するまで出られない世界”と、隠したゲーム機って何か関係あったりする…?」
「…………………………………………いや、ナニモ」
「長い間な割に、声小さ」
「いや、あんなの見せれるわけないだろ」
別段隠す程でも無いのだが、目の前に居る少女が、そっくりにキャラクターとして乙女ゲームのようにステータスと共に表示されている画面を見られる事に恥じらいがあった。似たキャラクターだと誤魔化せばそれまでだが、2人が置かれている現状からするに、彼女がそれをどうとるか。