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まわる恋

 ―――――午前11時過ぎの日曜日

 一日中雨という予報は当たり、洗濯物が乾きづらい日となった。大抵の人は乾燥機と暖房に頑張って貰うのだろうが、この男は諦めたのかコインランドリーを使用していた。

(先週もあの女の人来てたな。何か何処かで見た事あるような…)と、内心独り言ちる。

 男は少し離れた所に腰をかけていた女を、無意識に横目ながらに見詰めていた。すれば、ページをパラりと捲り活字を追っていた目をチラリと、一瞬だけこちらに向けた。女と視線がぶつかり、男は慌てて視線を逸らす。(や、やべ…ガン見し過ぎた)

 視線を足元に落とした男は頬を紅潮させていた。あまりの気恥しさに、乾燥機の中で回り続ける洗濯物に、早く終わってくれと念を送った。

(あの男の人…、来栖君…?あの可愛い反応は、きっと彼だな)

 茹で蛸となった男は、慌てふためきながら洗濯物を籠に取り込み、駆け足でその場を後にした。




 翌週の日曜日。

 男は何時ものコインランドリーに来ていた。

(―――…。今日は曇りだし、流石に居ないか)

 視線がぶつかっただけといえど、この男にとって羞恥この上ない。天を仰いでいると、自動ドアが開く音がした。乾燥機の蓋を開ける姿は、先週の件の女だった。

「!?」思わず声が心臓と口から共に飛び出る所だった。(ささささ3週連続!!!?嘘だろ)慌てて真っ暗な携帯の画面に視線を落とす。

「あの、お隣宜しいですか?」何時の間にか男の正面に立っていた女が、そう問うてきた。

 あえて断る理由も無いが、当の男は先週の出来事を気にしているのか、どうにかして断る理由を探すのが関の山だ。「ど、どうぞ(椅子他にも空いてるのに、何でだよ)」

「ありがとうございます」礼をし、女はこう続けた。「すみません、一つ訊きたいのですが良いですか?」

「あ、はい」先週の事だろうか、と、不安気に女の顔を見る。

「人違いだったらごめんなさい。貴男、中学まで隣に住んでいた来栖君…よね?来栖辰巳君」

「確かに俺は来栖辰巳ですが…」

「良かった。私だよ、君下凛。僕って云った方が分かりやすかったかな」

「あ…!凛ちゃん、凛ちゃんか!髪短いし雰囲気違ぇから全然気付かなかった」

 2人はどうやら幼馴染のようで、気付いていなかったのは来栖だけのようだ。

 だが、一つ言い訳をするならば、高校時代からつい最近までの5年間、一度たりとも会っていなかった上に、化粧をした姿を初めて見たのだ。分かるわけがない。

「本当に僕だって分かってる?」

「わ分かってるよ。隣に住んでた同い年の女の子。小学校時代、掃除の放送で1回噛んで言い直した。パプリカだと思って間違えて唐辛子をかじって、ヒーヒー言いながら水を飲んでた君下凛ちゃん、でしょ?」

「要らん事覚えてるのに、僕の顔は憶えてないの何で」

「忘れてるわけないだろ。唯、その、化粧してるから…分からなかったんだ。ごめん」

 顔を逸らすあたり適当な言い訳でもしたのだろう、君下はそう思った。が、彼は困ったように眉を下げて、薄く笑った。

「今日はメイクしてないの。」

 来栖はその一言に耳を疑った。


 ―――メイクをしていない…??


「辰巳君?」

「え、あ、あぁ…いや、本当に化粧してないんかなと思ってさ。昔から可愛いから、化粧しなくても良いんじゃあねぇの。女にこんな事云うの失礼だよな」

「あ、ほら、辰巳君の洗濯物じゃない?終わったよ」

 何か気に触る様な事でも云ってしまったのだろうか。話を逸らされた、そんな気がした。




 来栖が幼馴染と再会して数週間が経った。再会したのだから、それなりに会うのかと思えば、相変わらず日曜日のコインランドリーが2人の過ごす時間となっていた。

「辰巳君て今何処に住んでるの?このコインランドリー利用してるって事はこの近く?」

「引っ越す前の家の近くで一人暮らししてる」

「じゃあ又直ぐに会えるね」

「そうだね」一呼吸置いてから「何か大人になった凛ちゃんと話すの、やっぱり慣れないな。知らない女の人と話してるみたいで」と、云う。

「(??????)僕そんなに話しづらくなっちゃったかな…」薄ら涙が滲む。

「あ、ち違げくて。そういう意味で言ったわけじゃなくてだな…。俺の心臓が」


「爆発しそうで」

「なにて??」男の物騒な発言に、本のページが抑えられていた指先からパラパラと逃げていく。

「龍ちゃん突然何」

「このゲームの主人公観てるとさ…、何時になったらお前を攻略出来るんだって思うんだよ」津田龍之介は、真剣な面持ちでゲーム機の画面を睨む。言っている事と表情が合わない。

 そして更に、こうも云った。


 ―――――だけど、俺は(お前)好きになれない(攻略出来ない)んだよ





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