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第九話 【冒険者の在り方】

『まどわしの森』から戻った俺たちは冒険者ギルドへの報告の前に『猫耳(テト)族のまかない』に立ち寄り、食事をとることにした。


 と言うのも……


「ぐぅー」

 対面に座るアンジュは恥ずかしそうな顔をしながらお腹を抑える。

「アンジュのお腹の虫は随分と元気なのだな」

 ミズイガルム村へと戻る道中から今にいたるまで、アンジュのお腹が鳴りっぱなしであったからだ。


 耳長族はもっと聡明な種だと思っていたのだが……。


「あ! 先生! いま私のことを小馬鹿にしましたね! 私にはわかるんですからねっ!」

「ほう。――そう言えばアンジュのユニークスキルの話が途中だったな。この場でよければ話を聞かせてもらえないか?」

 冒険者は基本的に互いに協力的である……とは言っても、中には利己的な冒険者も当然いる。

 そして冒険者同士での争いになることも間々ある。そんな時に、自らの手の内を知られているのはデメリットでしかない。

 そんなことから、自身がユニークスキル持ちであるとおおっぴらに明け晒すことを避ける人が多いのだが……。


 アンジュはそんなことは意に介していないのか、はたまた無知であるのか、

「私のユニークスキル、【魔力探知(ディテクター)】です。そのモノに流れる魔力を離れた位置から感じることができるのです。特に、私のすぐ近くにある魔力は微妙な変化も感じとれるんですよ! 例えば感情の変化とかも! さっきのなんかは先生の魔力がモワモワーってなって、少し嫌な感じがして……だから小馬鹿にされたのがわかったんです!」

 誇らしげにそう話す。


「――そうか。それにしても魔力を探知できるスキルとは珍しいな」

「いえ、先生のスキルに比べたら全然ですよ……」


 そんな話をしていると、怒声にも似た大声が店内に響く。

「あぁ!? もう酒を出せないとはどういうことだ!!」


 どうやら店の最奥のテーブルの二人組の坊主頭の大男たちが騒いでいるようだ。

 見た限り、冒険者が猫耳(テト)族の店員に絡んでいるようだが――。


「ミズイガルム村は辺境の村ですにゃ。迷宮(ダンジョン)の近くにあるので他の村よりも優遇されてはいるものの、それでも限度がありますにゃ。これ以上、あなた方にお酒をお出ししてしまうと、他のお客様の分がなくなってしまいますにゃ。どうかご理解いただきたいにゃ」

 大男たちのテーブルの周囲には二人に飲み干されたであろう酒の空き瓶が転がっている。



「ああん!? 一体誰のおかげでこの店が成り立っていると思っているんだ!!」

 まあお前だけのおかげではないと思うが……。


「確かにこの村……そしてこのお店は冒険者の方々あってこそですにゃ。――だからこそ、私たちは多くの冒険者の皆様にサービスを提供する必要があると思いますにゃ。重ね重ねになりますが、どうかご理解いただきたいにゃ」


「何をごちゃごちゃと! 俺様たちはCランク冒険者だぞ!? この村に寄り付くような雑魚どもとは違う。お前たちが調理で使うDランクの魔石だって俺様がどれだけ提供してきたかわかってんだろうな!!」


 ――そろそろ止めに入るか。

 そう思い、席を立とうとした瞬間、俺の対面から大きく張った声が発せられた。

「冒険者あってこその繁栄。それは間違いないでしょう」

 アンジュは席を立ち、大男たちを睨みつけている。


「おう、よくわかってんじゃねえか」

「それでは冒険者とはどんな人のことを指すのか、貴方はご存知でしょうか?」

「あん? なにわけのわからないことを言ってやがる。俺様たちみたいな強いやつらのことに決まっているだろ!」

「いいえ。違います。冒険者とは困難に立ち向かい未来を切り拓く、勇気ある者たちのことです。――決して貴方たちのような、己が力をひけらかすような者が名乗って良いものではありません!」


「ああん!? お嬢ちゃん、何が言いたいんだ!?」

 大男たちも席を立ち、アンジュに(がん)をつけながらこちらに近寄ってくる。


「ここまで言ってもわかりませんか? 貴方たちは冒険者ではないと言っているのです。ですから、貴方たちに――」

「何をごちゃごちゃと!!!」



 ――ここまでだな。


 俺は【気配遮断スニーク】を使い、そっと大男の背後に忍び寄り、

「おい、もうこの辺で辞めておいたほうがいいんじゃないか?」

 黒狼の短剣を大男の背にあてがいそう話した。


「――な! い、いつのまに……!?」

「みんな迷惑をしているようだ。ここは引いてはくれないか?」

 俺は黒狼の短剣を刺すように少しだけ押し込んだ。


「いっっ! ――つ、次からは気をつけやがれよ!!」

「……何をだよ……」

 俺は店を後にする大男たちに向けて手をひらひらと振った。


 そして店内からは拍手と称賛の声があがる。

 ――あまり目立ちたくはなかったのだが、仕方がないか……。


「――せんせいっ!!」

 アンジュは泣きっ面で俺にしがみつく。


「こら、こんなことで泣くな。あれなら魔物(モンスター)のほうがよっぽどおそろしかっただろう」

「そうなのですがっ……魔物(モンスター)よりも人の方が悪意に満ち満ちていてっ……」

 魔物(モンスター)よりも人のほうが怖い……か。

 魔力を感じ取れるアンジュにとっては人の悪意はこたえるのかもしれないな。

 騒ぎを大きくしたことをしかろうと思ったが……それはまた後で、だな。


 ――この後、周りの冒険者たちからはげましの馳走を沢山受けたアンジュなのであった。

数多くある小説の中から、こちらの小説を選んでいただきありがとうございます。


また、話の続きが気になる! 面白かった! など、少しでも読者様の心を揺さぶることが出来ましたならば、ブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価していただけましたら、大変大きな励みとなります。


是非とも宜しくお願いいたします。

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