第二十三話 【サシャとミシャ】
定刻となり馬車は出発。
馬車は牧歌的な風景の中、ミズイガルム村へと向けてひた走っている。
王都はグランフォリア王国の中央。ミズイガルム村はそこから北東のはずれにある。
馬車で一週間ほどの距離だ。
と言っても、馬車は一日中走れるわけではない。馬の体力も有限。
それに、馬車の荷台も幌で雨風はしのげるものの、乗り心地が良いとは決して言えない。
絶えず揺れ動く荷台では、搭乗者の体力的にも長時間の乗車は厳しい。
そのため、適宜休みを入れての旅程で運行されている。どうしても時間がかかるのは仕方がないのだった。
そんな時、
「「ヒュージさま、これから一週間の旅程ですがよろしくお願いいたしますにゃ」」
冒険者風の装いをした二人の猫耳族の少女が俺にそう声を掛ける。
二人は顔は瓜二つだが、一人は色白、もう一人は色黒。
そして二人の頭にはふわふわで三角に尖った耳。
二人はグレイマン大隊長の世話係として俺に同行することになった調査部隊の斥候だ。
ラザリー曰く、二人はグレイマン大隊長の部下で、王国騎士団の中で最も信頼出来る人物だという。
「ああ、よろしく頼む。――まだちゃんと名前も聞いていなかったな。二人の名前を教えてくれないか?」
「ワタクシはサシャ・ウッドランドですにゃ」
色白の少女がそう答える。
そして、その言葉に続くように
「ワタクシはミシャ・ウッドランドですにゃ」
色黒の少女がそう答えた。
「サシャにミシャか。早速で悪いが、その『さま』というのはやめて貰えないか?」
サシャが
「――ヒュージさまは姉さまの命を救っていただいたと聞いておりますにゃ。姉さまはワタクシたちの生きる意味。それはつまりはワタクシたちの命をお救いいただいたのと同義ですにゃ」
ミシャが
「――命の恩人には相応の敬意をもって接するにゃ!!」
二人は真剣な眼差しでそう答える。
『姉さま』ね……。グレイマン大隊長は人族、そして二人は猫耳族。
当然、実の姉妹……というわけではないが……どうにもグレイマン大隊長に強い思い入れがあるらしいな。
ラザリーの言うとおり、信頼は出来そうだが……
「俺も二人もいまはただの冒険者だ。それなのに、『さま』なんて呼んでいたら怪しむ者もでるかもしれない。――そうなると目的の達成が困難になるかもしれないが?」
俺たちの目的、それはナタリー姫の救助。
そして一連の事件の黒幕はリカルド国王。
事が事だけに、慎重すぎるくらいがちょうどいいはずだ。
「「わ、わかりましたにゃ……」」
二人は少ししおらしくそう答えた。
「ああ、ありがとう――」
そう答えた、その時であった。
俺たちを乗せた馬車が突然急ブレーキをかける。
それに合わせて、
「はぐれ魔物だ!!」
御者の男がそう叫ぶ。
俺たちは咄嗟に荷台から降りる。
そこには街道を塞ぐように、三体のオークの群れが。
幸いまだ距離がある。
馬車に被害を出さずに迎撃は可能だ。
すると、
「ここはワタクシたちにお任せくださいにゃ」
「ヒュージさんは見ていて欲しいにゃ!!」
サシャとミシャはそう言うと弓を手に、オークの群れに向かって駆け出した。
そしてその姿に気付いたオークたちは、こちらに向かって街道を進む。
その光景は二人の目にも入っているはずだが、二人は足を止める気配がない。
――弓使いであれば、常に距離を確保して遠距離から攻め続けるのがセオリーだが……。
二人はオークの攻撃範囲に侵入。
オークたちは棍棒を振り上げ、二人に目掛けて振り下ろす。
しかし、二人は急停止ののち、バックステップでそれを回避。
攻撃直後の無防備なオークへ向けて矢を放つ。
だが、二人の反撃はこれだけでは終わらなかった。
瞬く間に三発の矢を連続して放ったのだ。
「速射か――」
威力が落ちるが、その分高速で矢を射る技術だ。
おそらく二人は落ちた威力をカバーするために、ギリギリまで接近して戦っているのだろうな。
それに二人の戦い方は猫耳族の特性にぴったりと合致している。
猫耳族は敏捷性の高い種族だ。
だがその分、力に劣る。
剣を素早く振り回すことは出来ないし、短剣では魔物に致命傷を与えることが出来ない。
だからこその弓矢、というわけなのだろう。
弓矢による一点集中の攻撃であれば、猫耳族の力でも魔物の体深くまで突き刺すことが出来る。
二人の戦い方は自らを深く理解し、活かす……考え抜かれた戦い方であった。
そしてこの間にも、二人が放った矢はオークたちに一方的に突き刺さり続ける。
オークたちも棍棒を振り回し、必死に反撃を繰り出すも、二人の敏捷性の前には意味を成さなかった。
次第にオークたちの動きは緩慢になり、棍棒を振る腕も止まった。
瞬間、
ドスン!!!
三体のオークがほぼ同時に地面に倒れ込んだ。
そしてサシャはオークの死を確認し、ミシャはこちらを振り向き満面の笑みで手を振る。
その姿を確認したのか、御者の男は、
「はわわ……助かりました。はぐれ魔物なんて初めてで……なんてお礼をしたらいいのか……」
馬車の影から恐る恐る姿を現してそう言った。
「いや、礼は構わない――」
しかし、はぐれ魔物か。
それは迷宮からごく稀にあぶれ出る魔物のことだ。
だが、定期便が走るような道には王国騎士団による監視がなされ、危険は少ないはずなのだが……。
それが一体なぜ――?
騎士団の監視が緩んでいるのか? はたまたそれとも……ナタリー姫の異変に何か関係が?
いずれにしてもこの先、何事もなければいいのだが……。
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