第二十話 【再会】
グレイマン大隊長は俺に詰め寄る。
そして胸ぐらを掴み、俺を岩壁に押し当てながらこう言った。
「ヒュージ殿! それはどういった趣旨での発言か!! 場合によってはヒュージ殿とて容赦はできんぞ!!!」
俺はグレイマン大隊長に、洞窟にナタリー姫が捕らわれていたことを話し、そして引き返すべきと進言した。
その結果がこれである。
グレイマン大隊長は、一人でも捜索を続けると言うほどの覚悟を持ってこの場にいるのだ。
この反応は当然と言えば当然であるのだが……。
「エミリアさん、お、落ち着いてください! 先生のことですから、何か考えがあっての発言のはずです!」
アンジュは俺をフォローするようにそう話し、グレイマン大隊長の腕を離そうとしている。
「いま俺たちが乗り込んだとして、その後はどうするのだ? そのまま王城に帰るのか? 一国の姫を誘拐したのだ、どこかの組織が関わっていると考えるのが妥当だろう」
これにグレイマン大隊長は怒気を強めて反論。
「ならば護衛を厚くするまでだ!!」
相手がただの野盗であればそれで充分だろう。
しかし――。
「王城内のものが関与していたらどうする? 今は拘束されているだけだが、それがダメとなると命を狙われる可能性もある。せめて敵が誰であるのかがわかるまでは、事を起こすのは控えるべきだ」
あれほどの人物を捕らえているにも関わらず、洞窟内外の警備が薄すぎる。
何かがあると考えたほうがいい……。
「だがっ――」
グレイマン大隊長は苦虫を潰したような表情を浮かべ言葉に詰まる。
「立哨が話しているのを聞いたが、二か月はここにいるとのことだ。ならばこの洞窟に監視をつけ、その間に情報を集めることが得策ではないか?」
俺は洞窟内で聞いた二人の男の立ち話を言ってみせた。『生贄』という言葉を除いて。
「…………」
グレイマン大隊長は右手を顎にあて、考えるように沈黙。
そして口を開いてこう言った。
「わかった。だが、監視には私が残る……ヒュージ殿の言うとおり、王城内に関与者がいるならば、私が王城に戻ると何かを勘繰られるかもしれん。ならば私はここで死んだことにしたほうが何かと動きやすいだろう」
確かにグレイマン大隊長の言う通りだが、
「それではこのことを誰が王城へ伝えるのだ?」
グレイマン大隊長はその問いに応えるように、俺をじっと見つめていた。
☆
グレイマン大隊長に王城への報告を押し付けられたわずか三〇分後、俺は王城の中を歩いていた。
王城までは魔法式が書き込まれた糸で編まれた帰還の羽を使用したおかげで、一瞬で移動できた。
魔法式に行き先が組み込まれているため、転移の間による転移とは異なり、行き先は固定ではある。だが、その分転移のズレはない。
一回のみの使い切りだが、非常に便利なアイテムだ。
とは言え、簡単に王城に出入りすることは出来ない。元王城勤めであっても例外はない。
今回の入城出来たのは俺に大義名分があったからだ。
そう、俺は最後の仕事――『まどわしの森』での宝箱設置について、完了の報告を未だにしていなかったのであった。
冒険者稼業……そしてアンジュの世話焼きにと、初めてのことばかりで、時間が経つのをつい忘れてしまっていたのだ。
その報告をするため、という体でラザリーとの面談を申し込んだのだ。
今回は俺の不手際が功を奏した。
そして俺はラザリーの執務室にたどり着き、扉を軽くノック。
すると中から、
「――入れ」
ラザリーの声がした。
「失礼する」
扉を開けて中へ入る。
そこには、両の手を広げて俺を歓迎する懐かしい友の姿があった。
「随分と遅い報告だな。待ちくたびれたぞ」
ラザリーは冗談めかしてそう言った。
「ああ、色々あってな――」
そして俺は再開の喜びはそこそこに、グレイマン大隊長と出会ってからの話を事細かに説明した。
「――話はわかった。まさか、そんな事態になっているとは……」
ラザリーは右手で頭を掴むようにして、頭を抱えた。
「ああ。俺も驚いたさ。それで心当たりは……何かあるか?」
「さっぱり…………いや、ないわけではない……か」
ラザリーは抱えた頭を上げると、はっと何かに気付いたようにそう話す。
「どういうことだ?」
「最近、各迷宮に本来出現するものより強力な魔物が、王命によって試験的に放たれているのだが……」
「――それと心当たりにどんな関係が?」
俺が出会ったブラックウルフやミノタウロスもそのうちの一つ、ということだったのか……。
「おかしいと思わないか? 理性のないはずの魔物たちをどうやって迷宮に運んでいるのか、と」
ラザリーは含みのある言い方でそう話す。
そして俺は即座にラザリーの言いたいことを理解した。
「――!!」
なるほど、そういうことか。
「どうやら気がついたようだな。おそらく、何らかの方法を使って魔物を操っていると考えられる。そしてそれを利用して調査部隊を襲わせた……理由こそわからないが、これなら理屈はあう」
「……となると、リカルド国王が?」
「考えたくはないが、おそらくはリカルド国王と……側近のローザンヌが関与していると考えるのが妥当だろう……」
ラザリーは神妙な面持ちでそう話す。
ローザンヌ……リカルド国王の一存で側近に据えられたと聞くが……。
「だが、『生贄』という言葉と、ナタリー姫の変貌ぶりについては謎のまま、か」
それに俺がミノタウロスに感じた違和感も謎のままだ。
あの時ミノタウロスは、俺を誘うように撤退したように見えた。
それに弱体効果を自らの力で解除したように思う。
あんなことの出来る魔物なんて出会ったこともないが……。
なにか底知れぬ気味の悪さすら感じる。
全て俺の思い過ごし……であればいいのだが。
そしてラザリーは何かを考えるような仕草ののち、こう答えた。
「――そうだな。そこも早急に調べておく」
「ああ、頼む。それと、このことはグレイマン大隊長には伝えていない。それを知ったら抑えが効かなそうだったからな。――ラザリーも気をつけてくれ」
「ああ、わかった」
苦笑いを浮かべながら、ラザリーは頷く。
「――それとついでにもう一ついいか?」
「なんだ?」
「いまグレイマン大隊長は洞窟の監視につきっきりで、その場を離れられない。だから、俺の連れに食事、給水などの補給の面倒をみさせているのだが……一人で迷宮を往来させるにはいささか不安が残る。それに、一般の冒険者をこのまま関与させておくわけにもいかないだろう。だから、代わりとなる信頼出来る兵を派遣してもらえないか?」
アンジュには魔物との戦闘は避けるよう伝えてはあるが、避け切れる保証もない。
今のアンジュではCランク魔物を一人で相手にするのは厳しいだろう。
「ああ、わかった。早急に手配しよう。――ちなみにその連れは女性か?」
「そうだが?」
女だと何か問題があったか――?
「いや、なんでもない」
ラザリーは一言そう言う。
そして訳の分からないニヤついた笑みを、俺に向けて浮かべていたのであった。
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