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第十六話 【妖精の短剣】

 二重の弱体が掛かっている状態ではこんなに素早く動けるはずがない。


 こいつまさか、弱体を自ら解除したのか!?

 いや、それよりもまずは回避――間に合わないかっ!!


 俺は咄嗟(とっさ)に両の手に持った短剣をクロスさせるように構えた。


 直後、大気を切り裂きながら振り下ろされる斧。


「ぐ……うっ!」

 短剣でなんとか受け止めたが、身体中の骨が音を立てて(きし)んでいるのがわかる。


 だが、それでもまだミノタウロスの攻撃は終わっていなかった。


 ミノタウロスの斧から感じる圧はどんどんと強くなる。

 それは俺の身体を押しつぶさんとする、おそろしいほどの圧。


 このままでは――!

 そう思った瞬間であった。


「【烈風魔法(ソルダーウインド)】!」

 俺のすぐ後方から、そこにいるはずのないアンジュの詠唱が聞こえる。


 そして詠唱が終わった直後、アンジュの風弾がミノタウロスに向けて放出される。


 アンジュの一撃は、ミノタウロスの頭に直撃した。が、強靭な肉体を持つミノタウロスには何のダメージも与えられない。


 しかし、ミノタウロスの斧から掛かる圧が、ごく僅かであるが小さくなるのを確かに感じた。


 いまだ――。

 瞬間、俺は力のままにミノタウロスの斧を横に受け流す。

 そして横っ飛びし、ミノタウロスから距離を取り追撃に備える。


 しかし、ミノタウロスの視線は俺に向けられてはいなかった。


 しまった――。

 ミノタウロスの狙いは弱っている女騎士か!


 ミノタウロスは思い切りジャンプ。

 その飛翔は大地を震わせ、ミノタウロスは一瞬のうちに女騎士の眼前に移動してしまった。


 そしてそれまでは片手で振り回していた斧を両手で振りかぶり、思い切り力を溜める。

 正真正銘の全力の一撃。


 女騎士は受け流す構えを取っているが、あの一撃は止められないだろう。


「仕方ないっ!」

 俺は【宝貴の箱(ストレージコッファー)】を使用し、黒狼の短剣を一本を収納。


 そしてすかさず、

「【宝貴創造(クリエイトコッファー)】」


 ◇◇◇◇◇◇


宝貴創造(クリエイトコッファー)】が発動。

宝貴の箱(ストレージコッファー)】の素材〈黒狼の短剣〉と〈風吹草〉と〈魔石(D)〉×一〇を使用し、

 〈妖精(シルフ)の短剣〉を生成しました。


 ◇◇◇◇◇◇


 俺の眼前に現れた宝箱から生成した短剣を取り出し、そのままの勢いで(くう)を切った。


 一瞬の静寂の間。


 そしてその直後、短剣から竜巻のような暴風が巻き起こる。

 それは轟音を響かせながら、真っ直ぐにミノタウロスへと向かう。


「グォオォオオオオォ!!!」

 暴風はミノタウロスを巻き込み、ミノタウロスの体表を切り裂いていく。


 ズシン!!!

 ミノタウロスは暴風に押され、尻餅をつき、そのまま仰向けに倒れ込んだ。


 だが、この程度ではまだダメージは浅い。


「好機!」

 俺はそのまま追撃をする。

 ミノタウロスの頭を目掛けて飛び込み、一閃。


 ミノタウロスの右目を潰した。


「グァァアァアァア!!!」

 ミノタウロスは叫びをあげながら、虫を払い除けるようにして斧を振り回す。


 俺は咄嗟(とっさ)に回避。

「さすがのお前も、これは効いただろう?」


 このまま押し切る!

 俺は短剣を構え、ミノタウロスへ向かって駆け出す。


 しかしその瞬間、

「グルルルゥウゥ!!」

 ミノタウロスは右目を抑えながら立ち上がる。

 そして残った左の目で、怒りにも似た鋭い眼差しを俺に向ける。


 ――くる!

 俺は感覚的にそう感じとった。


 そしてミノタウロスは地面を斧で叩きつけ、大量の石つぶてを弾きとばす。


 妖精(シルフ)の短剣で再び空を切る。風の障壁を作り出し、石つぶてを弾いた。


 そして石つぶてが止むと……そこにミノタウロスの姿はなかった。


 ――逃げた?

 だが、さきほど俺を睨みつけたあの目は、怯えて逃げだすような……そんな目ではなかったはずだ。


「アンジュ、今の魔物(モンスター)は!」

 咄嗟(とっさ)にアンジュに確認。


「えっと……山の方に向かってどんどんと離れて行ってます……もうじき私の感知エリアからも外れそうです」


「そうか、ありがとう」


 俺は強い違和感を覚えた……が、いまの状況で深追いは危険。


 まずは場を落ち着かせるのが先決、か。


 俺は女騎士へと近寄る。

 女騎士は大剣を杖のようにつき、やっとのことで立っている。


 その時、俺は女騎士に見覚えがあることに気付く。

 金髪、碧眼。端正な顔立ちに似合わず自らの背丈ほどの剣を振り回す――。

 この人は、確か……それに鎧に刻印されたこの紋章……これはグランフォリア王国騎士団調査部隊のものだ。


「あんたは……グレイマン大隊長か?」

 倒れ込んでいる騎士たちの鎧にも王国騎士団調査部隊の紋章。

 しかしなぜこんなところに騎士団、それも調査部隊が?

 グレイマン大隊長自ら同行しているとなると、相応の事態が起きていると考えるのが妥当だが……一体何を調べているんだ?


 俺が冒険者ギルドに報告をした『まどわしの森』にブラックウルフが出現したことの調査か?


 いや、そんなことにわざわざ大隊長が出向くわけがない。

 仮にそうであっても、騎士団ではなく、魔物(モンスター)研究を生業とする魔物(モンスター)研究所が出張(でば)るはずだが……。


 そんなことを考えながらグレイマン大隊長を見つめていると、

「ああ、そうだ……冒険者がなぜ私のことを――」

 

 グレイマン大隊長も俺のことに気付いたようだ。

 ハッと、少し驚いた顔を見せたのち、こう続けた。

「――ヒュージ殿がなぜこんなところに?」

数多くある小説の中から、こちらの小説を選んでいただきありがとうございます。


また、話の続きが気になる! 面白かった! など、少しでも読者様の心を揺さぶることが出来ましたならば、ブックマークや、広告下の【☆☆☆☆☆】より評価していただけましたら、大変大きな励みとなります。


なにとぞ、なにとぞ宜しくお願いします!

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