第十三話 【不穏】
――グランフォリア王国 ラザリーの執務室。
ヒュージが『九鼎大呂』を追い出されてから一週間ほど経ったある日のこと、俺は二人の文官を自らの執務室へと呼び寄せていた。
会議卓に座して二人の文官と対面する。
一人は長髪の女性、もう一人は短髪の男性。
二人とも若々しく、そして聡明そうな顔つきであった。
「『ヘミング峡谷』の捜索はどうなっている? 姫殿下は見つかったか??」
俺は真っ直ぐと女性文官を見つめながらそう問いかけた。
「それが……捜索に向かわせた王国騎士団第〇八調査小隊三名との連絡が途絶えてしまっておりまして……」
女性文官が歯切れ悪くそう答える。
「――なに? いくら戦闘向きではない斥候部隊と言えど『ヘミング峡谷』程度でやられるとは考えにくいが……」
斥候部隊は冒険者で言うなれば、Bランク下位からCランク上位相当の実力はあったはずだ。
それがどうして?
「はい……私もそう思いまして、グレイマン大隊長に相談したところ……『今度は自分が出る』とおっしゃっておりました」
グレイマン大隊長か――
リカルド国王に左遷されたとはいえ、前国王時代には王国騎士団長にまで上り詰めた強者。
それに忠義に厚く、前国王からの信を受けていた。
グレイマン大隊長であれば心配はない……か。
「そうか」
俺は一言、そう答えた。
「はい。なお、グレイマン大隊長は本日中に出立するとのことでした」
「わかった。ありがとう。――それと……ここ最近、冒険者の魔物討伐が芳しくないと聞くが」
俺は今度は男性文官に向けて、そう尋ねた。
「はい。ここ数日のうちに魔石の産出量がガクッと落ち込みました。どうやら宝箱が迷宮に出現しなくなったことが噂となって国中各地で広がっております。その影響で、迷宮への挑戦を見合わせる冒険者が増えているとのことです」
男性文官は淡々と報告する。
しかしその表情は険しく、報告内容が芳しくないことが表情に表れていた。
「――やはりそうか。冒険者はその身で体感していたからこそ、宝箱の有り難みを知っている……というわけか」
当然の結果だな……。
三〇〇年もの間、グランフォリア王国を陰ながら支えてきたのは『九鼎大呂』だ。それが唐突になくなって影響が出ないはずがない。
「そのようですね。回復に、強化に、そして装備品に……その貢献度は我々の想定していたとおり、非常に高かったようです」
「だが、あの王命を撤回いただかない限りヒュージが『九鼎大呂』に戻ることは不可能だ。早急に何か別の策を考えなくては……二人とも報告ご苦労であった。引き続きよろしく頼む」
「「はっ!!」」
二人の文官は立ち上がり、そして頭を下げて執務室を退室した。
二人の退室を確認した俺は、頭を抱えるように俯く。
前国王が崩御されてから、この国は変わってしまった……俺はどうしたらいい……こんな時、ヒュージが居てくれれば……な。
☆
その頃、国王居室では――
「ラザリーが放った調査部隊はどうなっておる?」
我はベッドに横たわりながら、跪くローザンヌに向けてそう尋ねた。
「はっ。無事に全滅いたしました」
ローザンヌは笑みを浮かべながらそう答える。
「はっはっはっはっはっ!! 見事だ! 見事だぞ、ローザンヌ!!」
「――しかし、今度はグレイマン大隊長が直々に調査に向かうとの話を耳にいたしました」
「ほう。グレイマン自ら向かうか。前国王の忠実なる犬らしい行動だな」
「確か、前国王の寵愛を受けていたあの者にやたらと肩入れしていたとか?」
ローザンヌは首を傾げながら我に問うた。
「うぬ。あのような汚らわしい者に肩入れするなど、グレイマンも程度が知れるわ」
あの者には汚れた女の血が混じっている。そんなものの一部に、我と同じ血が流れていると考えるだけで嫌気がさす。
「ええ。――しかしながらあの場所を見つけ出すのは不可能でしょう……それにあの付近には例の魔物も放っております。グレイマン大隊長といえども命の保証はないでしょう」
「そうであったな。守りは盤石、と言うわけだな」
「例の魔物は私が拵えた特別製。そこいらの魔物とは格が違います。騎士団程度では勝負にならないでしょう」
「確か【魅了】と言ったか? お主のユニークスキルには感服する。お主のおかげでグランフォリア王国は更なる発展を迎えられるであろう」
ローザンヌは顔を上げ不敵な笑みを浮かべながら、
「ええ。私がここまで生きてこられたのも、このユニークスキルのおかげでございます」
「各迷宮に強力な魔物を送り込んでいたのもこのスキルを使っていたのであったな」
「はい、おっしゃるとおりでございます。魔物を一時的に私の支配下に置くことが出来るスキルでございます」
「人には効果がないのが幸いしたな。もし人にも効果があるスキルであったなら早々に切り捨てておったわ!」
「ははは。それはそれはおそろしい。――それでは私は引き続きアレの準備をいたしますゆえ、これにて失礼いたします」
ローザンヌはそう話すと立ち上がり、敬礼をして我が居室を後にした。
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