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声で創造、演じ、恋をする  作者: 早乙女なな
9/13

9 切符

電車に揺られながら、雪ちゃんにLINEを打つ。


"今日、配信する予定だから、来られそうだったら来てね"


雪ちゃんも学校を出たのだろう。すぐに既読が付き、返信がきた。


"わかりました!見に行きます!"


雪ちゃんのあの笑顔と、元気な声が脳内再生される。

雪ちゃんは、どうしていつもあんなに元気なのだろう。

落ち込むことは、ないのだろうか。

私と比べて、雪ちゃんがポジティブ思考なだけかもしれないけれど。


雪ちゃんは、私が声優になりたいという夢を話してからずっと応援してくれている。

雪ちゃんが見守ってくれるなら、きっと大丈夫だ。

私は、トーク画面が消えた真っ暗な画面のスマホを、ぎゅっと握りしめた。











午後8時。お風呂の順番を最後にしてもらい、部屋を片づけ、髪を整える。

ふぅ、と一息ついて、雪ちゃんにLINEを送る。


"もう始めるよ"


配信アプリを開いて、ライブ配信の題名は決めずに、適当なハッシュタグをつけていく。

"ライブ"のボタンを押して、ライブを始める。


始まってすぐに、1人が入ってきた。

「あ、雪ちゃん?」

時差があるのだろう。少しして、"はい!" とコメントが打たれた。

「よかった来れて。やっぱり恥ずかしいな」


私が何を話そうか迷っていると、早速雪ちゃんが話題を振ってくれた。


"まこっちゃんの好きなところは?"


それは、あまりに良すぎる質問だ。

「そうだなぁ、やっぱり1番は演技の幅だよね」

ここまで言うと、私の中のリミッターが外れた音がした。


「だってショタからおじ様まで演じてるでしょ?それに、あの人たまに女の子もやるじゃん?性別って何だろうって毎回思う。あとは歌が上手すぎる。声優さんって、何であんなに歌が上手いのかな。多才すぎるだろ」


そこで1人、新しくライブに入ってきたユーザーが現れた。

「あ、初見さん?昨日来た人?まあいいや。今まこっちゃんについて話してたの。まこっちゃんは声優の安達誠のことで、私の推し」


雪ちゃんが話題を引き出してくれたおかげで、話したいことがバンバン出てくる。

「まこっちゃんは本当に凄い声優さんだからおすすめ。なかなかアニメ作品のDVDとかは高いと思うけど、配信もしてるのよ。"セイコイ" っていう番組でMCやってるから、機会があったら覗いてみて」


話したいことをほとんど吐き出したところで、閲覧数を見てみる。

"5"

あら、5人も来てくれてる。

「凄い、閲覧数増えてる!来てくださってる皆さん、ありがとう」

笑顔で画面に手を振る。コメント欄には


"聞いてて楽しいです!"

"相当なオタクだね(笑)"


などのコメントが書かれていた。

「私は声優さんも、もちろん好きだけど、作品が何より大好きなの。声優さんたちがいるから、私たちは作品に没頭していられるんだと思うの」


部屋には自分しかいない安心感からか、自分の推し語りが止まらない。

改めて、自分は声優が好きなんだと気づかされる。


「私は声優にもなりたくて。まだ色々勉強中だけど、目指してます」

へへ、と笑って緊張をほぐす。

私は次に送られるコメントが気になり、恐る恐るコメント欄を見つめる。


"元オタク声優は1番オタクの気持ちわかる"

"今どきの夢やなぁ"

"なれたらいいな"

"応援してます!"


そこまで厳しい意見はあまり流れてこなかった。よかった、優しいリスナーばかりだ。

「みんな優しいね。いつか、まこっちゃんと共演するのが目標だから、応援してね!」


私はそう言って、画面に笑いかける。

夢は、人に話すと叶いやすいと聞いたことがある。

なら、リスナーたちに沢山話そう。

私の夢を少しでも応援してくれる人がいるなら、それだけでやる気は倍になる。


「さて、私は明日も学校があるから、今日はこれくらいにしようかな」

私はそう言って、コメントの反応を待つ。


"もうおわり?"

"学生は時間が限られてるもんな"

"はやっ"

"また見に来るね!"


はあ。温かいコメントばかりだ。

ついつい嬉しくなって、表情筋が緩んでしまう。

「ありがとう」

そして、何度も画面に手を振る。

ねえ、まこっちゃん。

ファンに支えられるって、こんな気持ちなのかな。


配信を終わろうとしたところで、私はあることに気づく。

「あれ、このライブってアーカイブ残せるっけ?」

配信アプリの中には、アーカイブを残せるものがある。これは、その1つなのだろうか。


"残せますよ!"


と、おそらく雪ちゃんのものであろうコメントが1つ、流れてくる。

「そっか、じゃあこのライブはアーカイブに残すので、お時間のある時に見返してみて欲しいです。あと、拡散してくれると嬉しいな……」


半ば強引かとも思ったが、これも知名度を上げるためには仕方のないことだ。

コメント欄には、肯定的な意見だけが書かれていた。みんな、どこまで優しいんだ。

「ありがとう!じゃあ、本当におしまいにします。見てくれてありがとうございました!」


私は、配信終了のボタンを、静かに押した。











翌日。私は珍しく、雪ちゃんから呼び出された。

「先輩やりましたよ!」

「え、何のこと?」

私は何のことだかさっぱりわからず、首をかしげた。

「昨日のライブ配信のアーカイブです!視聴数が物凄い伸びて、あっという間にフォロワー100人です!」


「え、え?」

上手く状況が飲み込めない。

私の昨日のアーカイブ視聴数が伸びたってことは……。

「沢山の人が私のライブを見てくれたの?」

「はい!そういうことになります!」


自分のプロフィール画面を思い浮かべる。昨日までフォロワーが1人だったのが、100にまで増えている。

そんなことが、本当にあるんだろうか。

「アーカイブのコメント欄にも、次はセリフとかを言ってみて欲しいという声が多いです」


つまりは、声優の卵らしい配信をすることを望まれているということだ。

たった一夜で、ここまで来れるものなのか。

「雪ちゃん……やったあ!」

私は雪ちゃんをぎゅっと抱き上げて、上に持ち上げた。


「せ、先輩、痛いです」

「あ、ごめんごめん」

ゆっくりと、雪ちゃんを下に下ろす。

「でもやりましたね!順調にいけば、もっとフォロワーが増えるかもしれません」


確かに。雪ちゃんの言う通りだ。

順調にいけば、だけど。

「先輩、どうしました?」

私の顔が曇っていたのだろう。雪ちゃんが顔を覗いてきた。

私はすぐ、顔に出してしまう。


「こんなすぐフォロワーが増えて、順調すぎて怖くて」

一気にいいことがあった後は、悪いことが起こりやすい。私の経験値からすると、この先の展開は不安でしかなかった。


「大丈夫ですよ!先輩なら、どんなことも大丈夫です。私もついてます!」

雪ちゃんが笑顔を満開に咲かせて言う。

私は本当に、いい後輩を持ったと思う。

「ありがとう雪ちゃん。私、雪ちゃんが胸を張って推せる声優になるまで諦めないから」


私は雪ちゃんの目をまっすぐ見据える。

「はい、約束です!」

雪ちゃんも、宝石のように目を輝かせて、私の目を見ていた。










その日の夜。私はまたライブ配信をしていた。

「さて今日は、ちょっと朗読っぽいこともしようかなと思ってます!」

昨日の通り、カメラに向かって笑顔で話す。


「昨日は声優さんについて沢山語ったので、今日は声優らしいこともしてみたいなと思います」

同じように、コメントが来るのを待つ。

今日の配信は開始直後から10人ほどが来てくれていた。


"おー!楽しみ"

"モノマネ?"

"がんばれー"


様々なコメントが流れてきたので、それに答えるような形で準備を進める。

「ありがとうございます。セリフは、昨日話したまこっちゃんが出演してるアニメの漫画から選んでいきます」


フォロワーの中には年上の人がいるかもしれないので、とりあえず敬語で話すことにした。

私はまこっちゃんが出演したアニメの原作の1巻目を取り出し、場面を選んでいく。


「どうしようかなあ。好きな場面は沢山あるんだけど」

ページをパラパラめくりながら、まこっちゃんの声を思い浮かべる。


雪ちゃんから借りた本に書いてあった、練習方法も沢山実践してみた。

まだ夢の途中だけど、今自分がどの位置にいるのか知りたい。

私はセリフを決めると、ふう、と一息つき、気合いを入れた。


「じゃあ、始めます」

目を閉じて、キャラクターの皮を被る。

目を開き、ページのセリフに目を落とす。

滑舌、声色も気にしながら、キャラクターの感情も上乗せする。

何度も読んだ場面だから、自分なりの解釈は出来ているつもりだ。


初めて自分が場面を読んだ時の衝撃を、同じような感覚でリスナーのみんなに味わって欲しい。

イラストが見えない分、声だけが場面を想像出来る情報だ。その情報を、粗末にしてはいけない。


ここから、怒涛の展開に入る。

まこっちゃん演じる主人公が、ついに敵対する相手と直接対決する場面だ。

主人公の怒りが爆発し、相手は余裕の表情を崩さない。

その演じ分けが大変だった。


まだアニメ化されているシーンではないが、まこっちゃんの声が聞こえてくるようだった。

その声を頼りに、自分の声へと乗せていく。

相手は余裕そうに見えるが、内心は焦っているのがイラストから伝わってくる。


それを何とか伝えたかった。

もちろん、キャラクターに合った声色を出すことは大事だ。イケメン、可愛いキャラクターであれば、そのイメージを崩さないような声を出さなければならない。


でも、声優は演技だ。

声だけで感情を伝えるという、難しい作業をこなすプロ集団なのだ。

まずは、キャラクターに寄り添った演技をしないといけない。

たとえ悪役でも、その人の気持ちを理解するのが大切なのだと、まこっちゃんは言っていた。


「……今度は、手ぶらで来るんだな」

武器を持ってしても負けた相手に、主人公が放つセリフだ。

次は、正々堂々戦おうと。

最後のセリフを終え、深く息を吐く。

「以上です」

じっと、コメントが打たれるのを待つ。


"やばい、好きなシーン"

"かっこいいシーンですね"


最初はそんなコメントばかりだったが、次第に


"鳥肌立った"

"これでまだ卵とかバケモンだろ"

"もっと聞きたい"


というコメントが増えてきた。

視聴数はいつの間にか50人を超えていて、フォロワーの半分はこのライブを見てくれているという形になっていた。

その中で、気になったコメントが1つあった。


"SNSで告知した方がもっと人が来るよ"


確かにその通りだと思った。

何も広める術がないのに配信していても、人は見に来ないだろう。

今まではSNSを情報収集の道具として使っていたが、これからは自分から発信してもいいかもしれない。


「確かに!じゃあ後でプロフィールの方にツイッターのURLを載せておくから、フォローよろしくね」

コメント欄は次々と、了解しましたなどのコメントでいっぱいになった。

段々と、道が見えてきたような気がした。









それからも、学校が終わった後はほぼ毎日のようにライブ配信をした。

配信をする前は必ずツイッターで告知をし、アプリのハッシュタグも付けて投稿した。

ツイッターの方も同じ配信者のフォロワーが増え、認知度も増えたように思う。


そんなある日、ツイッターを見ている時に、それは起こった。

ツイッターには私が使っている配信アプリの公式アカウントがあり、それもフォローしていた。


そしてその日、そのアカウントが1件の投稿をした。

「う、う、嘘……」

それはあまりにも衝撃的で、私にとってはチャンスそのものだった。


【夢を叶えよう!林拓也トークショー】

君も、声優と一緒にトークショーに出演しよう!今回の声優は、人気声優の林拓也!

声優のお話を聞いて、自分の世界を広げよう!詳細はこちら。


「おいおいおいおい!」

林拓也は、まこっちゃんと大の仲良しで有名だ。私はもちろん林さんのことも知っていた。

これは、チャンスでしかない。

配信をやって、よかった。


翌日、私はさっそくこのことを雪ちゃんに伝えようと、いつもより早く学校に向かった。

いつもなら雪ちゃんが私の教室に来るのだが、今日はなかなか来ない。

「風邪でもひいたかな……」


そんな思いで、今日中に伝えることは諦めていた。

学校が終わり、校舎から出ようとした時、見覚えのある人影が見えた。

「雪ちゃんのお母さん」

私が声をかけると、彼女はすぐに気づいてくれた。


「莉菜さんね」

「はい、お久しぶりです」

彼女は、この前と少し様子が違った。

「どうされました?」

私が顔を覗くと、彼女はゆっくり口を開いた。


「実は、雪のことでお話があるんです」

なろうさんの企画が沢山あるので、それに向けて頑張っています、ななです。

ここまでスローペースなのにも関わらず、400人もの人がこの小説を読んでくださっています。嬉しい限りです。まだまだ書籍化?アニメ化?には程遠い数字ですが、数字ばかり気にしていては、本来の小説を書く意味を失ってしまうと思います。

雪ちゃんに一体何があったのか、次のお話をお楽しみに。

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