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声で創造、演じ、恋をする  作者: 早乙女なな
4/13

4 逆転勝利

翌日の学校は、足が重かった。

起きるのもダルかった。

だって、お母さんと顔を合わせなきゃならないから。

「パンで良い?」

何事もなかったのように話すお母さん。

何よ、こっちは根に持ってるのに。

「いい、何か買う」

私は何も食べず支度をし、家を出た。

自分が言うのも何だが、これが初めての反抗だった気がする。


いつもの通学路を歩きながら、考えてみる。

私は、正しい事をした。

自分ではそう思っている。

でも、本当にそうだろうか?

実際、あの女の子には迷惑がかかっている。


もしかしたら、私のただのお節介だったのかもしれない。

彼女にとっては、余計なお世話だったのかもしれない。

そんな考えが、頭から離れなかった。

私は、何の為の正義を振りかざしていたのだろう。


教室に着いても、そんな暗い考えで頭の中を巡らせていた。

りこは私の顔を覗き込み、

「莉菜が考え事とか、ウケる」

などと言っていた。

何だか最近、癪に障る事を言うようになったな。

それでもずっと、考えてしまう。


1時間目も。


2時間目も。


3時間目も。


4時間目も。


ようやく昼食も終わり、昼休みをゆっくり過ごそうと考えていた時、ふと、廊下の方が目に入った。

見慣れない、他学年の色の制服を着た女子生徒が歩いていた。

あれは、2個下の学年色…あ。


あの子、昨日の子だ!


バッと立ち上がり、急いで廊下に向かう。

廊下に出て、女の子が歩いて行った方向を見る。まだ、遠くには行っていなかった。

「あのっ!」

驚かせないように、そっと肩を叩く。

女の子は振り向くと、わぁっと目を見開いた。

「昨日のお姉さん!」

「ごめんね、驚かせて」


女の子は、首を横に振った。

「いいえ、大丈夫です。それより、また会えて嬉しいです」

女の子の笑顔に、こちらまで笑顔になる。

「そうだ」

と、私はある提案をしてみる。

「せっかくだし、少し話さない?校庭のベンチとかで」

女の子は、嬉しいです!とまた笑顔を見せた。この子、かなり可愛いな。


ベンチに座り、早速私は本題に入った。

「昨日はごめんなさい。迷惑かけちゃって」

そんな!と女の子は手を振った。

「迷惑なんかじゃないです。むしろ、とても安心したんです。チケットが見つかって」

それは良かった…。と、私も安堵のため息をついた。


実は。と、女の子が口を開く。

「あの後、ママが言ってくれたんです。せっかく探してもらったチケットなんだから、責任を持って保管して、見に行きなさいって」

「そうだったんだ…」

何と心の広い母親だろう。お母さんならブチ切れの一途を辿るだけだろう。


「優しいお母様だね」

私が言うと、女の子はニコッと笑って、

「はいっ」

と元気よく返事した。

良いなぁ。この子は普段もお母様と仲が良いんだろうな。

私は、今冷戦状態だけど。

「実はね」


この子には、話してみよう。

少しは愚痴、零しても良いでしょ。

「ある目標の為に、今までの生活態度を改めて、勉強も頑張ろうって必死だったの。かなり順調だったから、このまま行けるかなって思ってた。でも、あの件で全部パーになっちゃって」

女の子は、じっと静かに話を聞いている。


「私が女の子を連れ回したって、お母さんは思ってるみたい。あなたにも迷惑かけて、私って駄目だなって思ったり、さ」

ごめんね、こんな暗い話して。と私が言うと、女の子は私の手を、そっと握った。

「お姉さんを責めることないです。何も悪くない。どうか、思い詰めないでください」


"自分がしたい事をしないと、人生楽しくないですから。"


彼女はそう言って、私に微笑みかける。うっかり、涙粒を零すところだった。

危ない、危ない。

「ありがとう。そんな事いってくれるだけで、私嬉しい」

私も、女の子に微笑みかける。女の子は、更に歯を見せて笑った。


そうだ。

"自分がしたい事をしないと、人生は楽しくない"

本当にその通りだ。

そろそろ、自分に正直に生きたい。

今までは、両親に怒られない程度に生きたいと思っていたけど、もうそういう訳にもいかない。

私には、私の夢がある。


そういえば。

「あなた、名前は?」

この子の名前くらいは聞いておかないとな。

「私は、雪です」

ユキ、かぁ。

やっぱり、可愛い名前だ。

「私は莉菜。よろしくね」

私達は自然と、手を取り合っていた。






放課後。そろそろ帰ろうと思い、昇降口を出た直後だった。

「あの…」

背後から声が聞こえたので、一瞬ビクッとして振り向くと、そこには見知らぬおばさんが立っていた。

「あなたが、莉菜さんですか?」

「そうですけど」

どちら様ですか?

私が聞くと、おばさんはあっと声を上げて

「お世話になりました。雪の母です」

雪の…母。


「雪ちゃんのお母様?!」


すみません、驚かせてしまって。と、彼女は頭を下げた。

「一言、お礼が言いたくて。あんな娘の為にありがとうございました」

いえいえ!と私は全力で否定した。

「元々は私のお節介のせいであんな事になってしまったので」


そんな事はありません。と、今度は彼女が否定をした。

「あの子、1度探し始めたら止まらない子で」

と、笑いながら言った。

「そうなんですか…」

と、一応返答をする。

やっぱり、親子で仲が良いんだなぁ。




帰りの道が途中まで一緒との事で、途中まで一緒に歩く事になった。

「私、夢があるんです」

気付けば、私から彼女に話しかけていた。

「その夢を親に認めてもらいたくて、一生懸命勉強を頑張って、私生活も見直して、必死で走ってきたんです。でもこの前の事があって、あなたには失望したなんて言われちゃって」


ほぼ初対面の人にこんな事を言うのは初めてだった。

でも、誰かに話さなければ、自分がパンクしそうだった。

「私は、雪ちゃんにまこっちゃんのライブを絶対に見て欲しかったんです…まこっちゃん、わかりますか?」


わかりますよ。と笑顔で返す彼女。

「雪もよく言っています。"まこっちゃんが好きだ"って」

あなたも同じなのね。そう言う彼女を見て、私は頷く。

「その想いがよく伝わってくるの。だから雪と一緒にチケットを探してくれたのね」

私は何だか恥ずかしくて、少し俯いた。そんな風に言われたのは、初めてだ。


「その純粋な気持ちがあれば、夢は必ず叶うわ。自分を信じなさい」

私は驚いて、彼女を見た。こんな事言われたのも、初めてだ。

「じゃあ、私はこれで」

彼女はそう言い残し、その場を後にした。


"自分を信じなさい"


今日は、名言によく出会う。







次の日も、雪ちゃんと会った。

「莉菜先輩、昨日ママと会ったんですか?」

物凄い勢いで聞いてくる雪ちゃん。私は何とか、雪ちゃんと少し距離を取った。

「うん。先日はありがとうございましたって、わざわざ挨拶に来てくれた」

次に雪ちゃんは何を言うかと思ったが、

「何だぁ。一緒に帰りたかったぁ」

と零しただけだった。

どれだけ仲が良いんだ。

「それでね、お母様にも言ったんだけど…」


私は、雪ちゃんにも話した夢の話を、お母様にも話した事を伝えた。

「そうしたら、夢は必ず叶う。自分を信じなさいって、言ってくださったの」

私が言うと、雪ちゃんは

「ママらしいなぁ」

とニコニコしていた。


「私ね」

と、話を続ける。

「私の夢は、声優になる事なの」

そう。これが全て。

この目標があるから、何でも頑張れるんだ。

「そんな夢、中々認めて貰えない。だから認めて貰えるようになりたかった」

すると、話を聞いていた雪ちゃんは

「応援します!」

と、私の目を見て言った。


「私、先輩の夢、全力で応援します!先輩が活躍されてる姿、沢山見たいです!」

それを言われた瞬間、嬉しすぎて感情のバロメーターが壊れたのか、涙が溢れてきた。

「ありがとう、雪ちゃん」

「ああ!先輩、大丈夫ですか?!」

慌てて雪ちゃんは、ハンカチを貸してきてくれた。


雪ちゃん、ありがとう。

私も、雪ちゃんにとっての"推し"になれならいいな。


なれるかな。


きっとなれるよね。


自分を信じれば、夢は必ず叶うはずだから。







家に帰ると、なぜかお母さんが神妙な面持ちで立っていた。

「莉菜…」

「な、なに?」

気味が悪いわよ、お母さん。

「ちょっと、話がしたいの。良い?」

「別に良いけど…」

私はそう言って、手を洗ってからリビングに向かった。

あの日に座らされた席と、同じ場所に座る。お母さんも、向かい側に座った。


「今日、学校に呼び出されてね」

おもむろに、お母さんが口を開く。

「担任の先生に会ったのよ。それで、話を聞いてね」

お母さんから告げられたその内容は、驚くべきものだった。




学校から呼び出されたお母さんは、私の教室に通されたらしい。そこにいたのは、担任の浅沼だった。

「お母さん。すみません、急に呼び出してしまって」

「いえいえ、とんでもないです」

そんな社交辞令を済ませて、用意された席に、お母さんと浅沼が座る。

「あの、娘が何かしましたか?」


不安がマックスになったのだろう。お母さんは堪えきれずに浅沼に問うた。

「いや、そういう訳ではなくて」

浅沼は、笑いながら返答する。

「先日、娘さんが夜遅くまで外を歩いていたと連絡がありまして。チケットを落としてしまった子とチケットを探してくれたとか」


あぁ、それか。とお母さんは察したそうだ。

「本当に申し訳ありません。私も厳しく叱ったのですが…」

「いや、そうじゃないんです」

浅沼が、お母さんの話を遮る。

「実は、そのチケットを落とした子は、うちの学校の生徒でして。娘さんの後輩にあたる子なんです」


衝撃の事実に、お母さんは目を丸くした。

「その子とは莉菜もたまたま好きな芸能人が被ったらしく、一緒になくしたチケットを探してあげた。娘さんは、決して、遊んでいた訳じゃないんですよ。責めないでやってください」


アイツ、いつも優しい子なんですよ。と浅沼は話を続ける。

「誰かが物を落としたらすぐに拾ってあげて、無くし物をしたら一緒に探してあげて。当たり前の事かもしれませんが、それが普通に出来るのって、凄いことなんですよ」

お母さんは唖然としたまま、浅沼の話を聞いていたそうだ。


「最近もアイツ、どうしたんだか授業を必死に受けるようになったんです。目標が出来た、とか言って。認めてもらう為に頑張るんだって」

声優の事だ、と、お母さんはすぐにピンと来たそうだ。

「だから、あまり娘さんを責めないであげてください。彼女なりの、精一杯の優しさだったんだと思います」

私の知らない一面に、お母さんは、驚きを隠せなかった、らしい。




「そう、だからね」

お母さんが、私の目を見つめる。

「あなたに、謝らないとって思って」

本当にごめんなさい!と、お母さんが頭を下げる。

「母親なのに、あなたの事全然わかってあげてなかった。あなたの話、聞いてあげなかった…」


「もういいよ」

私は、テーブルの上に乗っていたお母さんの手をそっと握る。

「わかってくれたらいいの。そこまで謝ってくれたら、十分だよ」

私の顔を見ると、お母さんは目をうるうるさせて、

「ありがとう」

と言って、笑った。

私も、お母さんに精一杯の笑顔を向けた。



ギクシャクすることもあるけど、きっと大丈夫なんだ。

誰よりも強い、良き理解者になってくれるから。






それからしばらくして、雪ちゃんがまた私の教室を訪ねてきた。

「莉菜先輩!見てください!」

雪ちゃんが手に持っているのは、新聞だった。

詳しく話を聞く為、以前一緒に座ったベンチに腰掛ける。

「雪ちゃん、新聞なんか持ってどうしたの?」

すると、雪ちゃんはある1ページを広げた。

そこには

『生徒募集中!声優になるなら東レコ!』

と、書かれていた。


「先輩、声優養成所って、ご存知ですか?」




「信じていれば、夢は叶う」

この言葉、ずっと忘れられません。

皆さんも、一旦初心に帰るのも良いかもしれませんね。

ここで、私の宣伝を1つ。

皆さん、「小説家になろうラジオ」は聴いているでしょうか?

私度々メールを送っているのですが、いつか読まれるかもしれませんので。

ラジオネームは、マセキです。

よろしくお願いします~笑笑

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