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声で創造、演じ、恋をする  作者: 早乙女なな
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2 成績は説得の材料

「え?」

お母さん、お父さんが同時に叫ぶ。

「急に何を言うの。どうかした?」

「頭のネジでも取れたんじゃないか?」


「お母さん、お父さん、私は本気だよ」

私は、目の前にいる両親をじっと見つめる。

「私はやるよ。声優になって、まこっちゃんに会って…」



「そんな事言ってる暇あったら成績上げて」



ギクッ?!

痛恨の一撃!まさかこの言葉が飛び出すとは。

「口だけは一丁前なんだから。全く」

お母さん…明らかに呆れてません?

え?説得力足りない?

嘘でしょ?

私今、めちゃくちゃ覚悟を決めて言ったんだけど。


こうして、私の声優になるという夢は、開始5秒でお母さんの声によって踏み潰されたのだった。



でも、諦めた訳じゃない。



お母さんの言い分は、そんな夢を語る暇があるなら成績を上げろ、との事だった。

なら、上げてしまえば良い。

訳もわからず勉強をする時と、目的を持って勉強をする時では、集中力がまるで違う。



親を説得する為、成績を上げる。



この目的の為なら、成績をガンガン上げられるのでは?私、天才では?

私はやる、やってやる!

ここまで本気なんだということを、証明しなければならない…!




でも…。




「声優になりたい人って、何したら良いの?」


全く考えてなかった!眼中になかった!

まず、声優って就職というカテゴリーに入るのだろうか。まずは、養成所とか入らないといけないんじゃないの?

養成所に行くにはお金がない。

声優のなり方なんて都合の良い本がある訳でもない。

動画サイトで調べればある程度は出てくるかもしれないが、そのほぼが失敗談。

今私が推しているような声優さんが語ってくれる事はあまりない。


「とりあえず、今日は寝るか」


考えすぎるのも脳に毒。

私はとりあえず、脳内会議を明日に回す事にした。





教室に響き渡る、りこの怒号。

「あんた馬鹿なんじゃないの?!」

りこの叫び声で、周りのみんながこちらを振り返る。

「りこったら、声が大きいよ。みんな見てる」

あっ。とりこは恥ずかしそうに声のトーンを落とす。

「そんなの絶対ダメ!収入が安定しない仕事なんかダメだよ!」


はぁ…全く。

これだから勉強以外の知識がない人は嫌いだよ。

「りこ、声優は余程のベテランじゃない限りは、給料は変わらないの。作品にもよるけど」

「えっ…」

しまった。という顔をするりこ。

「まぁ、役を獲得出来ない限りはバイト続きだろうけど…」

すると、りこはニヤッとして

「ほらぁ」

と得意気に腕を組んだ。

「結局お金には困るんじゃない。ダメだよ、絶対に」



「絶対じゃ、ないと思う」



え?と、りこが首を傾げる。

「絶対ダメとか、絶対無理とか、そんなの夢に関係ないと思う」

私が続けて言うと、りこは驚いたように口を開けた。

「ど、どうしたの急に」

「どうしたもないけど…」

あんたの言い分に、納得いかなかっただけだよ。

そんな事、言えないけど。

「今活躍してる声優さんだって、自分を信じて今まで来られたんだから、私もそうしたいだけ」


そう。きっとそうだ。

雑誌のインタビューや自伝本を読む限り、推し達も最初は私と同じだった。

多分、みんな同じスタートラインから始まっている。

そこから、どれだけ努力出来るか。出来ないかの差なんだと思う。

私は、努力したい。


「後悔するよ?」

りこはまだ、私の顔を覗き込んでいる。

「それでなれなかったら?失敗したら?」

「後悔なんてしないよ。やりたい事をやらない方が、よっぽど後悔する」

私も引き下がらない。


たまにりこは、こういう時がある。

私が言う事を全て否定してくるような日が、度々ある。

りこなりに意見はあるんだろうけど、どうしてそこまで否定したいのかはわからない。


「ま、好きなようにすれば」


ほら。こうやって負けたと思うとあっさり突き放す。

今までずっと友人として扱って来たけど、これは友人と呼ぶのだろうか。

私には時々、りこがわからない。





『今週も始まりました、セイコイ!MCの安達誠です』


画面の中では、まこっちゃんが眩しすぎる笑顔を輝かせている。

毎週火曜日に動画配信アプリで放送される

"声優に恋しよう" 略して "セイコイ"

アニメのキャラクターだけでなく、声優自体にも人気が集まってきた近年。

そこで、沢山の声優の魅力を伝える為に出来た番組が、この"セイコイ"だった。


私はもちろん、まこっちゃんを推すものとして見ない訳にはいかなかった!

動画は生配信になっている為、リアルタイムでまこっちゃんにコメントを送る事が出来る。

いつもならコメントなどそっちのけで配信を見ているのだが、今日は違う。

私の疑問を聞いて欲しい!

私の夢を聞いて欲しい!

欲を言えば、同じ職業を目指す者として認知して欲しい!

そんな邪念を抱きつつ、しばらくオープニングを見守る。


『いやぁ、今日はかなり暑かったね。もう9月だよ?どうした秋!』


いつも通りにハイテンションで進めて行くまこっちゃん。

可愛いです、はい。

そして、私が待ちに待ったコーナーがやって来た。


『このコーナーでは、毎週皆さんの可愛いお悩みに、わたくし安達誠がイケボに答えていくコーナーになっています』


私はこの瞬間を楽しみにしていた。

このコーナーは事前に集めた質問ではなく、その場でコメントに打ち込まれた質問を拾って読むという、何とも運ゲーのようなコーナーだった。

今回1発で、私の想いが届けば良いんだけど…。

急いで文字を打ち、送信するタイミングを見計る。


『じゃあどれにしよっかな…』


よし、今だ!

送信ボタンを押して、指を組んで祈る。


『あ、これにしよ』


え?どれ?どれにしたの?


『私は将来、声優を目指す女子高生です』


え…。


えぇぇ?!


嘘でしょ。本当に?

私が…1番最初?

私が戸惑っている中、まこっちゃんは容赦なくコメントを読み始める。


『声優になりたいのは山々ですが、何をしたら良いかわかりません。安達さんは、アフレコをする際に何を心掛けますか?

うーん。そうだなぁ』


真剣に悩んでる…私の質問の為に。

その光景が信じられなくて、脳が一時停止する。

ダメだ。ちゃんと話聞かないと。


『僕はいつも、キャラクターの身体まで意識してるかなぁ』


身体?どういう事だろう。


『感情を表現する事も凄く大事だけど、同じトーンじゃ別人にならない。その人の体型だったらどんな声になるのか。どんな生活をしているのか、心情はどうなのかとか。内側から表現する事を意識してるかな』


そうか。感情に囚われているだけじゃダメなんだ。

その人の全てを表せないと、声優じゃない。

「ありがとうございますっと…」

そのコメントも、まこっちゃんは拾ってくれたらしい。


『おう!タメになったなら良かった!』


うん、いくら営業スマイルでも、やられる時はやられるんです。

私は幸せのあまり、ホッと声を出してしまった。はたから見たら、かなり変態的な図になっていただろう。

それでも、良かった。

私の想いが推しに伝わった。それで充分だった。

あとは、やりたい事を実行するだけ…。





それから私は、今まででは考えられないくらいの熱量で授業を受けた。先生からも

「最近寝てないな、来見田は」

と、訳の分からない事を言われた。だって私、本気だもん。

いつもはノー勉で受ける様々な小テストも、事前学習をしてから臨んだ。

りこからも、かなり驚かれてしまった。

「あんたどうしたの…頭でも打った?」

「やりたい事が見つかったから」

私はそれだけ言って、りこから目を逸らした。

何だか最近は、一緒にいたくない。




中間試験も終わり、答案返却日の日。

「来見田、お前やったな」

浅沼がニヤッとしながらまとめて答案を渡してきた。

なんだなんだ。気持ち悪いぞ。

そう思いながら、恐る恐る点数を覗いてみる。


「えぇぇぇ?!」


なんとほとんどが90点越え。

訳わかんない。どういう事?

私、テストでカンニングでもしたっけ?

でも、もしこれが事実なら、お母さんに認めてもらえるかもしれない。

夢を追いかけても良いと、きっと言ってくれるはずだ。


「お前、本当にやっちまったな」

浅沼が笑顔をこちらに向けている。半分呆れてもいるのだろうが。

「だって、私本気でしたから」

私は浅沼にドヤ顔を向けてやった。私だって、やる時はやるんだから。


家に帰ると、さっそくお母さんに成績を見せた。

「ほら、夢を語る暇があったから成績上げましたけど」

お母さんは、目を丸くしてテスト用紙を見つめた。

「これ、本当にあんたが取ったの?」

当たり前でしょ!と、私は叫んだ。

偽装した所で、どうしろっていうのよ。

「そっか…ま、目標を持つのは悪いことじゃないし、良いんじゃない?」

「え、良いの?」

「なれるかどうかは知らないけど」


なんじゃ、その冷たい言い方は。

でも、良かった。

結果を見せれば、お母さんも何も言えない訳だ。初めて親に勝ったぞ。

私は、絶対にまこっちゃんと同じ職に就くんだ。

一緒に仕事をするんだ。







今日は、まこっちゃんのアーティストライブのチケット発売日。

今の私には時間とお金がなかったので、諦めてしまったのだけれど。

下校時間を過ぎた午後7時。ショップには、まだまだ列が並んでいた。

私は、その列をしれっと通り過ぎる。

本当は、一緒に並びたくて仕方ないのだけれど…。


しばらく歩いていると、私より一回り小さい背の女の子が、必死そうに地面を見つめている。落し物だろうか。

「どうした?落し物?」

気になって聞いてみると、女の子はこう答えた。

「はい、チケットを落としてしまって…」


チケット?

今日は丁度まこっちゃんのチケット発売日だ。まさかとは思ったが、念の為聞いてみることにした。

「それって、誰のチケットなの?」

女の子は少し恥ずかしそうに俯くと、小さな声で言った。



「安達誠さんの、ライブチケットです」


最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

まぁ、決死の覚悟で放った言葉でも、スっと返されてしまうのはよく…ありますか?

これから莉菜はどのようにして声優業界の厳しさを知っていくのか…お楽しみに。

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