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声で創造、演じ、恋をする  作者: 早乙女なな
11/13

10 雪ちゃんのこと②

それからも私は、毎日のように配信を行った。色々なキャラクターの声マネから、自分で作り上げた声での演技、朗読などを行った。


滑舌の練習も忘れなかった。まこっちゃんが出演している作品を買ってきて1つずつセリフを書き起こし、それを使ってアフレコのように練習を繰り返した。


まずはキャラクターに寄せた声、それから自分なりにキャラクターの声を作り上げて、アニメーションに声を当てる、という感じだ。


最近は声優を目指す理由も、自分の中で変わってきたように感じる。

前までは、まこっちゃんと同じ職業に就きたい、まこっちゃんに会いたいという想い一心だったのが、雪ちゃんをがっかりさせたくないという想いも強くなった。


雪ちゃんが応援し続けてくれる限り、私はこの活動を止めてはいけないと思うようになった。

我ながら、もの凄い成長だと思う。


毎日トークショーに応募するためのハッシュタグを付けてライブを始める。ファンの方が1人でも増えるように、視聴者が求めることをする。

これの繰り返しだった。


ある日の夜。私はいつも通り配信を行っていた。

自分の話をしつつも、コメントを見ることも忘れてはいけない。初めて来た人(つまり初見さん)が、これは面白いライブだと少しでも思うように盛り上げていく。


「今日も配信を見てくれてありがとうございます!今日はまた急に冷えてきましたけど、体調の方は大丈夫ですか?」

初めてライブをした頃よりも、トークの入りが上手になったように感じる。

気のせいかもしれないけれど。


配信開始してしばらく、あるコメントが私の目に止まった。


"いつも同じでつまらない"


私は驚いた。初めてのアンチだったからだ。嬉しい反面、やっぱり少し悲しい。

こういうのはスルーするべきなのだろうけど、私は言わずにいられなかった。

「ごめんね。でも、アドバイスありがとう」

"アドバイスありがとう"


たとえ私のことが嫌いだったとしても、つまらないというのはきちんとした感想であり、意見の1つだ。この大切な成長の材料を、活用しないわけにはいかなかった。

するとコメントには、私の返しを褒めるコメントでいっぱいになった。


"神対応じゃん"

"大人だねえ"

"ちょっと煽ってる?"


などなど、様々な意見も目に飛び込んだ。

悲しいけれど、それだけ私の名前も知られているということなのだろうか。

「みんなは今みたいなコメントを見ても反応しないでね。コメント欄で喧嘩してるの見るのが1番悲しいから」


はーい、という言葉でコメントが埋まる。みんな、物わかりのいい人で助かる。

「うん、みんないい返事で大変よろしい!じゃあ早速、今日はホラーものの朗読から始めようかな」

私はいつものように、ネットから拾ってきた朗読用の台本を開いて、その内容に合わせ部屋の明かりを暗くする。

「これは、マンションにお住まいのAさんの体験談です……」






次の日、私はまた雪ちゃんのお見舞いに行っていた。雪ちゃんは、前日の配信も見てくれていたらしい。

「先輩、昨日はかっこよかったですよ」

「雪ちゃんも見てたんだ」

コメントについて、びっくりしたけど嬉しかったと伝えると、雪ちゃんは首を傾げた。


「どうしてですか?自分のことを悪く言われるのに、嬉しくとも何ともないですよ」

私は雪ちゃんのムスッとした顔が可愛くて、思わずふふ、と笑った。

「確かに嬉しくはないかもしれないけど、自分が成長出来るなら、その材料だと思えばいいんだよ」


雪ちゃんは、ああと言って口を大きく開けた。わかりやすいリアクションだ。

「何事もポジティブに捕えないとね。夢に向かって走るなら、いつも前向きでいなきゃ」

「そう、かもしれませんね……」

雪ちゃんの反応がいつもと違った。


「どうした?具合でも悪い?ナースコールする?」

私は俯いた雪ちゃんの顔を覗き込んで言った。雪ちゃんの顔から、いつもの笑顔が消えている。

「先輩、少し真面目な話をさせてください」


いつもの雪ちゃんの声のトーンではない。一体何があったんだろう。

「母からも聞いた通り、私はがんです。目標は完治ですが、転移する場合ももちろん考えられます。いつ急変するかわからないし、いつ先輩に会えなくなるかわかりません」


重苦しい空気が、雪ちゃんを包んでいるのがわかる。聞きたくない単語が、私の耳をジグザグと通っていく。

「私の夢は声優だったんです」

先輩と同じです。と、雪ちゃんが優しい笑みを浮かべる。


「がんだってわかる前は、私は夢を持っていることが嬉しくて、楽しかったんです。将来に向かって走ってる感じで。でも、そうもいかなくなって」

だから、と雪ちゃんは私の目をしゃんと見据える。


「私の夢を、先輩に叶えて欲しいんです」

雪ちゃんは笑わなかった。目は真剣そのものだった。私も雪ちゃんに応えるべく、雪ちゃんの表情を観察するように見る。

「正直な話、私は20歳まで生きれるかわかりません。だから、声優の夢を諦めたんです」


でも先輩と出会いました。雪ちゃんはそう言って、まるで告白でもする時のようにはにかんだ。

「あの日、まこっちゃんのライブチケットを落とさなかったら、先輩に会うこともありませんでした。きっとあれは、神様が私にくれた最後のチャンスだったんだと思います」


私はその時、雪ちゃんのいつもと違う表情に驚きながらも、自分の中にある覚悟がめらめら燃え上がっていくのがわかった。

雪ちゃんは私より1つ下なのに、もう自分の夢を諦めてしまった。その代わりに、私に自分の夢を託してくれている。

そんなの、頑張らないわけにはいかない。


「先輩」

私は弱々しく膝の上に置かれた雪ちゃんの手から、目を離すことが出来なかった。

「私にはもう、時間がないんです……」

きっと雪ちゃんは、今の話を相当な覚悟をもって話してくれたのだろう。

こんなこと、普通は先輩に言うものじゃない。


私は優しく雪ちゃんの弱々しい手を取った。

「話してくれてありがとう。私、絶対声優になる。雪ちゃんの夢の分まで叶えるから」


だから、まだまだ2人で生きよう。


雪ちゃんはハッとした顔をして、目を赤くし始めた。そして肩を震わせ、目から大粒の涙を滝のように流していく。

私も冷静さを崩しそうになったので、それを隠すように雪ちゃんを抱きしめた。

「生きれるまで精一杯生きよう。最期までまこっちゃんを追いかけよう」


私の言葉に、雪ちゃんは繰り返し頷いた。顔は見えないけれど、それはよくわかった。

私は、雪ちゃんの背中をポンポンと優しく叩いた。

雪ちゃんは、私に沢山笑顔を投げかけてくれたから、たまには泣き顔も見せてくれていいのにと思う。

雪ちゃんと接していると、何だか母性というやつが出てきてしまう。


雪ちゃんが落ち着いてくると、私は抱きしめていた腕をほどく。

「落ち着いた?」

と聞くと、雪ちゃんは小さく頷いた。

「すみません。人前なのにこんな泣いちゃった……」

「いいのいいの。人前で泣ける強さも必要だよ」


私はまた、雪ちゃんの背中をポンポンと優しく叩いた。

「雪ちゃんはいつも笑ってるんだし、たまに泣いたって神様も怒らないよ」

そうですかね、と鼻をすすりながら言う雪ちゃん。


もっと弱い所を見せていいんだよ。と言いたいところだけれど、雪ちゃんはそれを望まないだろう。

私の方が、夢を叶えるために頑張らなければならない。

雪ちゃんとはその後も色々話し、気づけばもう帰らなければいけない時間だった。

「先輩、忙しかったら無理しないでくださいね」


「何言ってるの。声の練習する以外私は暇なんだから」

お互い冗談を言い合って、その後雪ちゃんに見送られて病院を後にした。

後ろを振り返ると、まだ雪ちゃんが私の方を見ていた。私が手を振ると、雪ちゃんも振り返してくれる。


なぜ、最後まで見送ることが出来るのだろうと思う。

私も以前、病院に入院していたことがある。両親の面会時間を過ぎ、両親が帰って行く時は、後ろ姿を見ることは出来なかった。

とても悲しくて、見れそうになかった。

このまま迎えに来ないのではないか。そんな妄想ばかり膨らんで、まともに寝られなかったのはよく覚えている。


まあ、遠い記憶だから、詳しいことは何も覚えていないけれど。








私と雪ちゃんは定期的に連絡を取りあった。今日の授業はつまらなかったとか、また声のことで褒められたとかは私が話した。

今日は1日中眠かったとか、採血があって痛かったとかは雪ちゃんから話を聞いた。

あれ以来、雪ちゃんは時々弱音を吐いてくれるようになった。号泣するなんてことはなかったけれど、話してくれる度に雪ちゃんは


「スッキリしたっ」

と言って更に笑顔を輝かせている。雪ちゃんの笑顔が、もっと増えているような気がした。

そして、トークショー応募締め切りも近づいていた。


私は着々とファン数を増やしていき、疲れて配信をしない日でも、アーカイブを見て新しくファンになってくれる人が何人もいた。

私はいつも以上に力を入れて配信をした。早口言葉も沢山したし、声マネのレパートリーも増やして配信に挑んだ。

いつも見に来てくれる視聴者の人たちからは


"レパートリー増えた!"

"最近頑張りすぎじゃない?"


などのコメントが寄せられた。私はとりあえず

「最後の追い込みになります。みんな応援してね!」

と言ってファンの皆に呼びかけた。皆コメント欄に気持ちのいい返事をしてくれた。

いい人ばかりで助かる。


そうしてついには締め切りを過ぎ、サイトに結果発表が貼られる日が近づいた。

結果発表の前日には、雪ちゃんの病室に訪れた。

私は珍しく、雪ちゃんに弱音を吐いていた。

「私大丈夫かな?1人で努力が空回りしてないかな?」


私が雪ちゃんにすがりつくと、雪ちゃんは

「今更何を言ってるんですか」

と、私の目を見て言った。

「先輩は最近配信を始めたばかりなのに、もの凄い勢いでファン数が増えてるじゃないですか。それは、先輩の実力なんです。努力したからなんです」


しっかりと私の目を見据えて話す雪ちゃんは、いつも以上に真剣だった。例えば、自分の病気について話した時よりも。

雪ちゃんと話すと毎回思うが、本当にいい後輩を持ったなと思う。

ありがとう、雪ちゃん。流れ出そうな涙を必死にせき止めて、雪ちゃんに話しかける。


「そうだね、雪ちゃんの言う通り。私、頑張らなきゃ」

私が笑いかけると、雪ちゃんも笑顔になった。

この笑顔はいずれ、この世から消えてしまう。そんなことになった彼女の中にいる悪魔は許せない。


だからといって何が出来るわけでもない。それでも、私といる間はずっと笑顔でいて欲しい。

人は2度死を迎えるという。1度目は身体から魂が離れた時。2度目は、人々の記憶からその人が完全に消える時。

雪ちゃんに、2度目の死を迎えさせるわけにはいかない。








翌日、ついに結果発表の時間となった。

震える手でスマートフォンを操作し、サイトへとたどり着く。

時刻は夜の8時。夕飯を先に済ませてしまって正解だった。

ゆっくりとスクロールしていき、トークショー参加の欄を覗き込む。


忍び込むようにして見たその欄に、私の名前はあった。私の名前以外も。

「……え?」

わけがわからず、詳しい概要を見る。

どうやら、ファン数が同数の参加者が数名いたため、急遽トークショー参加者を増やしたんだそうだ。

でも、私の名前が入っている。私の名前が、サイトに……。


「……雪ちゃんっ」

興奮して上がる息を抑え、雪ちゃんにメッセージを送ろうとした時、画面に通話通知が入る。知らない番号からだ。

もしかしたらトークショー主催の人かもしれない。私は急いで青い方のボタンをタップし、電話に出る。

「もしもし、来見田です」


しかし、聞こえてきたのは聞き覚えのある声だった。

「莉菜ちゃん?私、雪の母です」

早口でまくし立てるようなその口調に、悪寒がした。

「たった今、雪の容態が急変して、心肺停止なの」


息をしてないの。と、1番聞きたくない言葉が、脳内に響いた。



ちょっと頑張って更新してみてます、ななです。

皆様、PVがあと少しで1000いきそうです。本当にありがとうございます。

皆さんが読んでくださるおかげで、私も更新する気力が湧きます。書籍化も、遠い夢ではなさそうです!

さて、話を作品に戻しまして。

危篤の連絡というのは、いつも心臓が止まる思いです。私はもう大切な人で2回も経験しましたから、莉菜の気持ちはいたいほどわかります。とっさに走る力が出るんですよ、その時だけ最高速度で。

少し不穏な空気が続きますが、ホラー展開には決してならないのでご安心を。


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