皆殺しの魔女と偽物聖女
「聖女様、ありがとうごぜぇます」
「イザベル様、ありがとうですだ」
「これは些少ですがわしらの気持ちですじゃ」
「貰っとくよ。お大事にねぇ。」
くっくっくっ、バカどもが。アタシが聖女なわけないだろう。それをまんまと信じちゃってさ。アタシなんかちょっと回復魔法が使えるだけの偽物さぁ。
それにしてもこの商売は止めらんないね。大して儲かるもんじゃないけどさ、バカどもがアタシを本物だと信じてると思うと笑いが止まんないねぇ。くくっ。
王都にゃあこんな貧民街がたくさんあるからねぇ。楽しみのネタは尽きないってもんさ。
さぁて今日もバカどもが集まってるねぇ。くっくっくっ。
「あがっ、せ、聖女様、お、お助けを」
「くるし、聖女さ、おじひ」
「イザベ、様、たすけ」
な、何だいこりゃ!? どいつもこいつも瀕死じゃないかい! 手足までぶっちぎれて!
ふざけんな! こんなの治せるわけないだろう! アタシぁ逃げるよ!
「あら? 聖女様どうしたの? 治さないの?」
誰だ?
「ふざけんな! こんなのどうやって治せってんだ! いくら聖女でも無理なもんは無理なんだよ!」
「そうかしら? 手足が切れてるだけよ? そこにある以上繋ぐのは容易いわ。聖女様ならね?」
くっ、なんだこいつ!? まさか本物の関係者か?
「ねえ聖女様のお名前は?」
「あぁ? イザベルに決まってんだろ!」
「そう、私もイザベルって言うの。偶然ね?」
イザベル? ま、まさかマジで本物の聖女?
「まあそれはどうでもいいわ。さ、治すわよ。聖女様も手伝ってね?」
「あ、ああ……」
なんてこった……まさかこんな貧民街に本物が現れるなんて……運の尽きか。知ってるんだよ、本物の聖女の黒い噂を。別名、皆殺しの魔女……
止めときゃあよかった、こんな遊びなんて……
「さあ、治ったわね。さすが聖女様、的確なご指示でしたわ?」
「あ、ああ……」
「おお聖女様、まさかこの腕が……」
「足が、動く、イザベル様ぁ……」
「おありがとうございますだ……こ、これ些少ですが」
「あ、ああ……お大事に……」
アタシの命もここまでか。一体どんな殺され方を……せ、せめて苦しくない方法で……
「ねえあなた。名前は?」
「ナ、ナーサリーです。」
「ふぅん。なぜ私の真似なんかしたの?」
「き、気持ちよかったから。聖女様聖女様って敬われて、少し儲かったし……」
「じゃあ儲けの半分を毎月持って来なさい。」
え? 助かる?
「よ、喜んで!」
「一生ね?」
「は、はい……」
やめときゃあよかった……
異世界金融の主人公の母親イザベルの若き日にあったかも知れない物語です。