はじまりの旋律
俺、響 奏が朝、大学へ向かおうと玄関のドアを開けた瞬間、
「神様、やってもらえませんかー!!」
目の前で羽の生えた小さな人?…漫画やアニメでよく見る妖精?!がいきなり叫んだ。
俺は寝ぼけているのかと思い、無視して歩き始める。
その小さな生き物は、アタフタしながら追いかけてくる。
目の前を何か叫びながら飛びまわるので無視続ける事が難しくなった俺は、
「何なんだよ…お前は…」
「やっぱり見えてるんじゃないですか〜!ちょっと止まって下さいよー響 奏様ー!」
俺は名前を呼ばれビックリしてその場に立ち尽くしてしまった。小さな生き物は嬉しそうに俺の目の前に来て、
「私は渡しの精霊のファラ。」
「詳しい話は向こうで聞いてくださーい!」
と、言い終わるか終わらないか辺りで俺の足元が光ったと思ったら抜けて落ちていく!!
「うわぁぁぁーーー!俺、まだ何にも言ってないーー」
こうして、問答無用に俺は送られてしまった…。これから先に何が待つのか定かではない…
近くて遠い世界ー
人はそれを異世界と呼ぶ…のかもしれない…
「すいませーん、神様やってもらえないですかー?」
玄関を開けたら、目の前に羽が生えた小さい女の子が飛びながらニコニコしていた。
俺〈響 奏(ひびき かなで)〉は、戸惑いながらもスルーすることに決め込んだ。
「いってきまーす」
「あー!ちょ、ちょっとぉ~、待ってくださぁ~い」
羽の生えた小さい女の子は、慌てて俺の後を追って来た。
俺は自然と足早になり、呪文のように『これは夢だ、錯覚だ…』とブツブツ言いながら振り切ろうと必死になる。
「夢でも錯覚でも無いですって~。話だけでも聞いてよぉ~…」
女の子は半ベソになりながら、『お願いします』を連呼しつつ、俺の周りを飛び回り離れようとしない…。
ため息をついて歩く速度を緩めたものの、話を聞く気が無い俺は目を合わそうともせず女の子に歩きつつ言った。
「俺は今から学校に行かなきゃならないから、他をあたって…」
俺はこれで消えると思っていたら、女の子は笑顔になり、余計にまとわりついて来た。
「良かったぁ~。奏様、やっぱり見えてたんですね。」
女の子に名前を呼ばれビックリした俺は急に立ち止まってしまった。女の子は後頭部に突っ込んで来た。
「なぜ、俺の名前を…」
女の子は鼻をさすり、フラつきながら俺の目の前に来て話し始める。
「それは勿論、私達の神様になってくださるかもしれない方ですから…。ひ、び、き、か、な、で様」
ボー然とする俺を横目に女の子はニコニコしながら続ける…。
「とりあえず詳しい話は、あちらで聞いてください」
女の子が指を鳴らしたかと思ったら、通い慣れた何時もの道が突然光り、底が抜けたー。
「俺まだ、行くとかなんも言ってねーー!!」
気がつくと見慣れた街並みはなく、物語に出てくるような祭壇がある開けた場所だった。目の前には、あの女の子が笑顔で飛んでいるー。
俺は起き上がるなり女の子を鷲掴みした。
「ここは何処だ?!」
女の子はビックリして話し出す。
「ここは聖都グラント近くの東の森にある、ムーブメントです。ようこそ〜」
「ようこそ〜じゃなーい‼︎俺は他をあたってくれ…って言ったよね⁈行くって言ってないよね⁈」
思わず女の子を握る手に力が入る。女の子は苦しそうに、
「だっ、だって、連れてこないとお仕置きがぁ~…」
「お仕置き?知らねーよ!!帰してくれ!遅刻するだろ!」
「そっ、そんなぁ~(泣)」
女の子は手の中で涙目になっていた。
コツ、コツ、コツ…
微かだが地面を突つく様な音がこちらに向かって聞こえてきた。俺はビクッと身体を震わせ、思わず叫んでいた。
「誰だ?!」
出入り口であろう方向を見ると、二人の人間…?が歩いて来た。
一人は初老の男性で、身長と同じくらいの杖の様な物をついていた。もう一人は若い女性で切れ長の美人なお姉さんって感じ…。何か、怒ってる?
二人とも教会とかにいるような服装をしていた。
人間かどうかの違和感を感じたのは、耳を見たからだった。
姿こそ似てるけど、耳だけが違ってた…。そう、鳥の様な翼の形をしていたのだ。
二人は俺の前まで来ると止まって笑顔で話し始めた。
「ようこそ、おいで下された…。響 奏様」
初老の男性が挨拶すると、二人で俺の前にひざまずいた。俺はビックリして、慌てて返した。
「ちょ、ちょっと!やめてください‼︎何なんですか!突然連れて来られて、ひざまずかれて、何が何やらわかんないんですけどー!!」
ワタワタしていたら、俺の手にいた女の子が隙をみて逃げ出し、お付き?の女性の元へと飛んでいった。
「只今戻りましたぁ。シャープ様」
「…ファラ…、お前、ちゃんと話をしてきたのですか?」
シャープと呼ばれた女性は女の子を手のひらに乗せ尋ねた。女の子はファラと言うらしい…。
ファラは顔を強張らせ、しどろもどろと話し出す。
「あのー、えーと、その~…、実はぁ~…」
シャープはため息をつく。
「その様子だと、説明もせずいきなりお越しいただいたようね…」
「だぁってぇ~(泣)」
「話は後で聞きます…、ゼノン様…」
ファラは涙目で身体をバタバタさせつつ説明しようとしたが、シャープにさえぎられた。ゼノンと呼ばれた男性は二人の方を振り向きもせず、笑顔のまま俺の顔を見つめ話し出した。
「奏様、まずは付きの者が大変失礼した…。私はゼノン=クルセアと申すもの…。以後お見知りおきを…」
再び俺に向かって頭を下げるゼノンに気まずくなって、俺は慌てながら返す。
「あの…ゼノン…さん…、お姿からすると俺より歳は上なんだし、敬語とか頭下げたりとかしないで下さいませんか?それと様付けも…」
「敬語…?」
不思議そうに返されたので、言葉を変えてみる。
「あー、えーと、よーするに、丁寧に話さなくてというか普段通りで…、様付けなしでお願いします」
ゼノンは一瞬、キョトンとした表情をみせたが理解してくれたようで、改めて笑顔で話し出した。
「では、奏殿…。此処では落ち着かぬ…。とりあえず場所を移動しても良いかな?」
『うーん…、とにかく詳しく話を聞かない事には帰れそうにもないし、危なそうな人ではなさそうだしなぁ…、此処に居ても仕方ないし…』
と、頭で考えつつ、ゼノンや後ろのシャープやファラを見つめる。
少し間を置いてから俺は黙って頷いた。ゼノンは喜んだ様子でシャープに合図しながら、
「では、こちらへ…。我等の後について来たら良いのでな」
俺は未だモヤモヤを抱えつつ立ち上がり後に続いた…。




