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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

玉光 

掲載日:2020/08/09

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 おーい、つぶらやくん。そこの箱はこっちへ持ってきてくれないか?

 いやはや、この時期に模様替えというのも面倒っちゃ面倒だが、秋になるといろいろ立て込むからねえ。このタイミングでやるしかない、という判断さ。

 しかし、こうして改めてみると普段は日の目を見ないところで、たくさんのものがしまってあることを実感せざるを得ないね。私たちが見ているものは、世界のほんの一部という表現、なかなか的を射ているかもだ。

 図書館にも閉架図書とかあるだろ? あれは光が当たることで、紙が傷むのを防ぐ意味合いも強いと聞く。昔から人は光に対し、すでに特別な力を感じ取っていたのかもしれないね。

 この力。私たちがコントロールするには、まだまだ強すぎる力のようなんだ。

 ひとつ、光に関する話を聞いてみないかい。



 むかしむかし。とある村に住んでいた男は、宝玉集めにはまっていたらしいんだ。

 若いころにだいぶ儲けたようで、お金は腐るほど持っていた。それを「墓場には持っていけない」とばかりに、ざぶざぶと世に返していったらしい。

 ときに商人から購入し、ときに自ら旅装を整えて現地に赴くことさえする。そうして集めた色とりどりの珠たちは、彼の家のところどころに飾られた。

 蔵こそ所有していたものの、彼はその中に玉をしまうことは一切行わなかったという。


「玉は光を受けて、はじめて輝くものだ。それを闇の中へ置き去りにすることは、存在を消しているも同じ。あってもなくても構わないものだ。

 存在を示すには、明るみに身を置くよりない。この世にあるからには、その姿を存分に見せねばな」



 そう話す彼は、昼間も太陽があたるときであれば、できる限り集めた玉たちを即席の棚に設置。家の敷地内に次々と並べ、さながら博覧会のごとき様相だったとか。

「触れるのは、厳しく禁ずる」という立て看板はあちらこちらに置かれていた。それはまるで人々の盗まんとする心を、試そうとしているのかと思うほど、神経質な間隔で置かれていたらしい。

 実際、昼間にはかなりの人の往来がある。互いが互いの視線に映る状況では、手が出しづらいもの。そうなれば夜半に行動を起こすのは、自然なことだった。


 そうして、彼の家の宝玉を盗もうと足を運んだ者がいた。

 彼が再び家を空けたことは、すでに調べてある。泥棒は皆が静まり返った夜半に、彼の家へ忍び込むことにしたんだ。


 彼の一軒家はそれなりの大きさがあったものの、戸締りはきちんとしてあった。

 泥棒としても初めての盗みではなく、身軽に屋根の上へ登ると、その一部をはがして屋内をのぞきこんでみる。

 思わず三度ほど見てしまった。なぜなら木の雨戸ですき間なく囲われている家の中で、こうこうと明かりが焚かれていたからだ。屋外に置かれている、手を触れるなの看板。あれと同じくらいの間隔で。


 ――使用人がいたのか? いや、調べによれば久しくひとり暮らしのはずだったが。


 もしかすると、誰かいるように見せかけて、火をつけっぱなしで家を出たという線も否定はできない。自分のような泥棒に対する、防犯のためだ。誰かがいるように見せかけて、その場を引きさがらせる。

「だが」と改めて様子をうかがう泥棒。いずれも燭台に長い蝋燭をさし、火を灯すものだった。蝋がすっかり溶けてしまえば、この効果も失われるはずだ。



 待つか。踏み込むか。

 しばし悩んだ後、泥棒は屋根に開けた穴から体を滑り込ませた。鴨居、棚、机と高いところから、音もなく手をついていき、音を殺して着地する。


 ――時間をかけるのは悪手。まずは実態を探り、旗色が悪いようなら退けばいい。


 ふすまや障子の類を、この家は持っていなかった。室内はどこにも区切りがないが、その部屋の大きさは数十畳にも及んだとか。もちろん、そこを囲うように燭台が置かれている。

 だが、泥棒が見た視界の中には、にわかに信じがたい光景が混じっていたんだ。


 燭台の明かりに照らされて、浮かび上がるもろもろの宝玉たち。火元にごく近い場所に並ぶそれらが、ひとりでに体をこすり合わせていたんだ。

 こうして屋内に立たねば聞こえないほどの、小さな音。けれども二つずつ、間を置かれた玉たちは、ぐるぐると互いの身をすり合わせながら回転を続けていたんだ。まるで誰かの手のひらのうえで転がされているみたいにさ。

 しかも、彼らがこすり合わされるたび、火花が飛び散っている。火打石でも出ないほどの大きなもので、それが近くの蝋燭の芯へ断続的に飛び込んでいくんだ。いずれも、寸分の狂いもなくだ。


 泥棒はぞっとした。からくりにしても堂が入りすぎていて、触るどころか近寄る気すらも起こらない。


 ――下手に手を出したら、取り返しのつかないことを招きかねない……!

 

 直感した彼は、今度は机に足をかけて先ほど降りてきたような手順で、家を出ようとした。

 その机がぎしりと音を立ててしまう。とたん、周りの玉たちの動きが一斉に止まったかと思うと、先ほどに数倍する速さで互いをこすり合わせ出した。

 がぜん、立つ音も飛び散る火花も、大きいものに変わる。ろうそくの火よりも大きい火花を散らしながら、それらは畳の上へ落ちても、燃え上がる気配を見せない。そのうえこすり合わせる玉の体そのものも、猛烈な勢いですり減っている。

 みるみるうちに小さくなりながら、やがてその体中から昼間のような光があふれ出してくる……。


 泥棒が顔を屋根から出すのと、いまだ室内にとどまっていた右足に、焼けるような熱さがかぶさってきたのは同時だった。

 熱さはほんの一瞬。けれども引き上げたはずの右足は、影も形も残っていなかったらしい。

 太ももから下がすっかりなくなっているのに、その傷は何十年も前につけられ、自然に治ったかのように血の一滴も出ていなかった。そのうえ周りの肉が引き込まれるように集まり、傷口となるべき部分をしっかりふさいでしまっていたという。



 翌日。かたわとなってしまった泥棒は、杖を突きながら彼の家を訪れた。

 外出した彼は、家へ戻ってきている。先日よりもずっと少なくなった宝玉を並べながらも、日当たりの良さは確保していた。


「ねえねえ、どうしてこんなに玉を並べているの?」


 泥棒がその場を去ろうとしたとき、彼にこのことを尋ねた子供がいたという。


「ああ、これらの玉は出来が良すぎるゆえか光を寂しがってな。ないとわかると、自らで作り出してしまうんだ。そしてそれを誰かに見られたとわかると、消しにかかってしまう。

 私とて例外ではないからな。せめて自然の明かりを確保できる昼は、こうして存分に浴びせさせてやりたいのだよ」


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